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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
36/48

お茶会③


「ねえ、オクタヴィア様はどこのご出身なのかしらぁ」


 ガーウィンを性転換させ、早く幸せな結婚生活を手に入れたいと望むクリスティーナは仕事を手抜きしない。これでも、恋に恋する乙女の代表なのだ。恋のためなら、敵の直球アタックにも自分の身を省みない。


 火のように攻撃的なオードリー姫とは対照的に氷のように冷え冷えとしたオクタヴィア姫に今度は近づいてみる。オクタヴィア姫はその容姿に相応しく、淡々と答える。


「北の方です」

「それじゃあ、雪とかってたくさん降るのかなぁ? まだ私ねぇ、雪の妖精さんって見たことないのぉ」


 オクタヴィア姫が無表情にこちらを見たとき、クリスティーナは顔をヘニャリと崩した。


「ああー、知らなかったぁ? 妖精さんはねぇ、雪と一緒に空から降ってくれるんだよぉ。そして、どんなお願い事だって叶えてくれるのぉ。あー、これは秘密ね。みんなに言ったら、妖精さんにお仕置きされちゃうー」


 そろそろ痛い目で見てくるオクタヴィア姫にクリスティーナは心の中でにやりとした。


「ねえ、私、これからあなたをオクタヴィアちゃんって呼んでいいかしらぁ? ずっと白面みたいな顔の友だちがずっと欲しかったのよぉ。ええっと、オクタヴィアちゃんはご兄弟はいるのかしら?」

「クリスティーナ様」


 くるりと、オクタヴィア姫の美しい顔がこちらを向いた。相変わらず感情の在処は見えず、青い瞳もただのガラス玉に見えなかった。


 そんな彼女はクリスティーナにしか聞こえない低い声で呟いた。


「――馬鹿な振りはやめてください。見苦しいですよ」

「ええ? どういうことぉ?」


 分かっているだろうという侮蔑の視線が初めて見た感情であった。ことを簡単にばらしてくれたとクリスティーナはことさら無邪気を装う。


「馬鹿な振りって、失礼だわぁ。これが私の本当の姿なのにぃ」


 クリスティーナが大きな声をあげて怒ると周りで個々の争いに没頭していた側室達がこちらを振り向いた。


「向こうで話しましょう」


 オクタヴィア姫はすばやく言って、前を向き歩き出す。


 これで準備は整った。


 オクタヴィア姫が何を意図してそう言ったのかは分からない。けれども、彼女がクリスティーナの本性を知っていて、何かを企んでいることは確かだ。


 これが罠なのかも分からない。けれどもそこで怯えるようなものは恋する乙女として失格だ。罠ならかかってみせよう。


「クリスティーナ様」


 顔を引き締めたティボルトが指示を仰ぐ。


「ええ。用心しておいて」




 クリスティーナ達がたどり着いたのは一段と日当たりのいい庭の中心だ。歩き慣れていない側室は汗だくだくだ。正直言えば、途中で馬鹿クリスティーナが道を間違えたと言い、道を連れまわしたおかげであった。


 比較的高野に位置する庭では簡易の天幕が張られていて、国王であるガーウィンがそこで待っていた。


「これは我妻達、ようこそいらした」


 ガーウィンは全員に挨拶をした。オードリー姫がこれ見よがしにガーウィンにボディタッチしてくるのだから、クリスティーナの視線はちくちくとガーウィンを刺し、ガーウィンはエア針むしろを味わっている気分になった。


「それでは、――ティーナ、こちらへ」


 腕を引き寄せるガーウィンに一瞬だけ囁く。


「オクタヴィア姫に気を付けて」

「分かった」

「後、浮気は許さないわよ」


 えっ、と冷や汗をかいた次の瞬間、彼女は顔をふやけさせて叫ぶ。


「陛下、だぁい好き!」


 クリスティーナはふざけてガーウィンの首筋に口づけた。他の側室達には、それはただのキスに見えただろうが、実際にはクリスティーナはすべての歯を使い、キスマークでは足りぬとピラニアのごとくガーウィンに噛みついていたのだ。これは、浮気は許さないと言う警告である。服の下だから分からないが、くっきりと歯形が付いているだろう。


「ははは、ティーナったら。みんなの前で恥ずかしいじゃないか」

「だってぇ、我慢できなかったんだもん!」


 クリスティーナはぎゅうっとガーウィンの服の裾を握りしめる。側室達の羨望の視線に関わらず、二人の間で流れている空気は決して甘い物ではない。ガーウィンは顔を引きつらせ、身体を強ばらせたまま側室一人一人に紅茶を注ぐ。


「遠くまで来たから疲れただろう。わざわざ、私が皆を呼んでお茶をしたいばかりに」

「あら、そんなことありませんわ。陛下のためならよろこんで」


 オードリー姫は言い、取り巻きの側室達も合わせて頷く。


「私がここにそなたたちを呼んだのには理由があるのだ」


 ガーウィンは一息置いて、周りを見渡し王兵達がしっかり位置に着いていることを確かめる。そして、この場から誰も逃げることが出来ないだろうと確認して、打ち合わせていたセリフを話す。


「この中に、どうやら私やクリスティーナを殺そうとした鼠がいるらしい」


 先ほどの友好的な言葉から一気に事務的な口調へと変わった。


 側室達は一瞬国王が何を言ったか分からないようだった。一拍おいて、お互い顔を見合わせた。後ろには多くの王兵達が彼女たちの脱走を阻止するように身構えていた。


「正直に名乗り出よ。そうすれば、手荒な真似はしないと誓う」


 ガーウィンは周りを見回した。敵は分かっている。けれど、あえて名指しはしない。その方が緊張を高められる。これこそがクリスティーナのあぶり出し作戦だ。敵は少ない、ここで取り乱してくれれば良いものだ。


 しばらく、沈黙がその場を支配した。クリスティーナは各側室を平等に見つめ、オクタヴィア姫を彼女にしか分からない強い視線で射た。彼女は先ほどクリスティーナが演技をしていることを主張し、自分が敵だというようなことを明かした。その狙いは?





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