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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
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お茶会②


「それではみなさん、お茶菓子を召し上がりになってぇ。私が作ったのよぉ。ほら、ティーちゃん、みなさんに配って!」


 後ろに控えていたティボルトが姫君達にお菓子を配る。クリスティーナはまず、自分が銀の皿に載ったケーキをすくって食べてみせた。


「おいしー。私って天才かもぉ」


 作った本人が食べられるのだから、大丈夫なはずということを根拠に勇気を出してケーキを口に含む。


 その途端、側室達の顔が歪む。


「あら、どうしたのかしらぁ?」


 クリスティーナは何食わぬ顔で尋ねる。自分のケーキ以外、古典的に砂糖の代わり塩を入れたからまずいのは当たり前だ。


 これは後宮代々に伝わる挑発の方法だ。後宮の女達は男のように剣で自分の力を訴えたりしない。こうして、さり気ない嫌がらせをするのが常識である。側室達だってそのことは知っている。けれども、この馬鹿な姫にそうする能力はないと考えたようだ。


 よって、後ろでケーキを配ったティボルトにその針のような視線がいった。いつも花のようだと思っていた娘達からそのような視線を向けられ、ティボルトが密かに抱いていた花のような娘たちが幻滅した。異国の姫君だけは、塩ケーキをそれはそれでおいしいと食べていたのだが、周りの空気を読んで慌ててフォークを置く。


 クリスティーナ一人がケーキを完食し、下品に紅茶をすする。その姿を皆、白けた目で見つめる。


「さあ、おいしいケーキもいただいたことだしぃ、お外で遊びましょうよ!」


 こちらも、幼い姫君が賛同したきりで、その他の姫君は黙ったままであった。


「どうして、私たちが外で遊ばなくてはならないのです?」


 赤猫姫が牙を見せる。本来、姫とは城の奥で鳥かごの鳥のように完全培養で育てられるものだ。貴族の娘は幼い頃には綺麗に整備されたお庭で遊ぶことに目をつぶってくれることはあっても、後宮にいれられるほどの姫君なら虫がつかないように温室で育てられるのが普通であった。


 赤猫姫が砂一粒だって爪に入ることはおぞましいと考えている顔をしているのも当然かもしれない。


「だってぇ、陛下が外で遊ぶ女が好きって言ってくださったからぁ。今日、お外で一緒に遊んでくださるってぇ。皆様もなんだから一緒に遊びましょうよ!」


 その言葉に側室達の顔色が変わる。国王に気に入られたいなら砂漠であっても海の中であっても赴くのが側室の使命だ。そうでなければ、家族、主に父親によってもっとひどいところに行かされてしまう可能性があるのだ。


 彼女たちは我先に侍女を呼び、外に行く準備を整えてもらう。クリスティーナも、後ろに控えていたティボルトを呼ぶ。


「狙いはやっぱり、あのクールビューティーのオクタヴィア姫よ」


 見ると、ただ一人席に着き、無表情でクリスティーナを見つめながら、海をそのままクリームにしたようなケーキを食べるオクタヴィア姫がいた。


 彼女にはやはりなにかあるようだ。





 柔らかい日差しといっても光はご婦人のお肌の毒である。各妃は巨大な傘の中にすっぽり包まれ、広い庭園を歩く。その中で国の五本指の美女とも言われる側室達がおしゃべりしているところを見ると、庶民から見るとなんと麗しいのだろうと思うだろう。しかし、側室達の話の内容は互いの腹のさぐり合いである。慎ましげに扇で口を隠し笑っているが、皮肉が効いているため、意味が分かれば怖い。


 小さな頃から女の魅力を磨くことと同時並行でじめじめとした女の戦争に耐え得るため厳しい鍛錬を耐え抜いてきた女達の中では、クリスティーナもそこまで目立たない。クリスティーナと双璧を誇るのは赤猫姫こと、外務大臣の娘、オードリー姫である。


「クリスティーナ様は陛下に見いだされて、第一正室候補と言われていますが、よく、陛下とはお遊びになるのかしら」

「ううん。そんなことないわぁ」


 このところ、捜査がずっと続いていて、寝る時間でさえ削っているのだ。すると、オードリー姫はふふんと鼻で笑ったではないか。


「あらまあ。正室様は夜のお仕事だけ頑張っているのかしら。私は昨日も二人でお出かけ行きましたのに。陛下ったら私にこの髪飾りを買ってくださって」


 そう言って、彼女はちらりと結い上げられた髪に刺さった飾りを見せた。クリスティーナの指がぴくりと動く。それを見た隣のティボルトはひやひやだ。


 王の業務として側室達の面倒も見なくてはいけない。昨日、ガーウィンはそれを果たすため、クリスティーナには言わず、調査を抜け、側室の中でも一番力を持つオードリー姫と会っていたのだ。


「――まあ、そうですのー。それは良かったですわねぇ」


 相変わらず、馬鹿っぽい演技は忘れていない。けれども、新たにヘドロのような黒いオーラがクリスティーナから溢れるように流れてくる。


 しかし、女とは不思議な物だ。ティボルトがこの恐怖に硬直しているとき、オードリー姫は対照的にその身体に悪そうな気を吸い込み、してやったと笑ったのだ。オードリー姫はさらにクリスティーナに重ねる。


「それではクリスティーナ様はいつも、陛下とは何をしているのかしら? まさか、おしゃべりもなしに、お仕事をなさるとか?」


 そうだ。


 オードリー姫が遠回しに言っていることとは若干異なるが、言葉通りの意味に捕らえると、その通りだ。あの、温室の一見以来、ガーウィンとは恋人らしいこと何らしておらず、部屋にこもって資料の見比べに時間を費やしている。


 オードリー姫は敵ではないと候補から外していたが、別の意味での強敵である。ティボルトの祈りにも関わらず、クリスティーナは相変わらず、軽い笑みを浮かべ、パタパタ扇を扇いでいた。


「――だから、今日はお仕事が終わった後、たくさん可愛がってもらうのぉ」


 一瞬だけ振り向いたティボルトにクリスティーナの目の輝きが見えた。


 どれだけ剣が使えたって、戦争なく政権交代が進められるこの時勢、本当に強いのは筋肉ではない。

賢い宰相は、男としての矜持をメンタル面とフィジカル面共に失った友人を慰める言葉を今から考え始めるのであった。


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