お茶会①
目標を正確に捉えたクリスティーナの働きは素晴らしかった。彼女自身の強化した情報網でとぎれとぎれの情報を繋げていく。
しかも彼女は王、宰相とは別に自らの論を展開させているらしかった。時折その断片を聞いている限りは、愛やらなんやらとろくな事はなさそうなかったが。けれども、彼女がちゃんと働いてくれる分には申し分なかった。
そして、ある晴れた日、ゴドフリー領、クリスティーナ姫主催のお茶会が開かれた。クリスティーナが借りたのは陽がふんだんに差し込む温かい大広間。ゲストは各塔の側室候補の六人の姫君達だ。
「さあ、皆様ぁ。どうぞ、楽しんでいってくださぁい」
主催のクリスティーナはそう言ってお茶会の始まりを告げた。円卓に腰掛けた六人の姫君達はクリスティーナの顔とカップを見比べて、おそるおそる紅茶を口に運ぶ。
国が広いだけに側室達の容姿も様々だ。そうは言っても、皆それぞれ美しかったし、何よりも彼女たちの地位はそれぞれ高いのだろう。だから、我こそは正室にと思っていた姫君はクリスティーナを鋭い目で見ていた。
クリスティーナもざっと、彼女たちを見回した。
――敵意を露わにしている方たちはきっとたいしたことないわ。気を付けなきゃいけないのはその逆
こんな馬鹿女が正室、と言いたげにこちらを睨んでいる姫君は六人中、三人。姫君の侍女を合わせるともっと数は多い。
――重要人物の外務大臣の娘はきっと事件とは無関係ね
美しい赤毛の持ち主である外務大臣の娘は正室第一候補として名高かった。けれども今となっては夢破れ、ささくれだった赤猫のようだ。美人なだけに睨みつけてくると怖い。影では他の二人の側室達と結託して馬鹿女として有名なクリスティーナを蹴落とそうとしているらしかった。
――でも、残念ねー。あんなに美人なのに怖い顔して
猫と例えられるように毛をたてている姿は闘志に満ちあふれている。
――彼女とのデスマッチも楽しみにしておくわー
すべてが終わった後、彼女は後宮でのクリスティーナの好手的となってくれるだろう。
――そして、後の三人
注目すべきはただいま敵意など表していない側室の方だ。
クリスティーナの調査で、外務大臣、財務大臣のどちらかは絶対にこの事件に関与していることは明らかになっていたが、もしかしたならば、単独犯かもしれない。
気持ちを引き締め、視線を移す。第一に財務大臣の孫娘。艶のある金の髪が印象的な美女だ。整っているが面のように白い顔立ちと動かない青い瞳からクールビューティーと呼ばれる代物だ。
そして、後二人、あどけない視線をクリスティーナに向けているのはまだ十の半ばもいっていない幼い姫君と、皆より色の濃い肌を持つエキゾチックな姫君だ。この姫君は標準語が通じないらしく、近くに通訳が控えていた。
ざっと判断した感じではこんなものだろうか。
「――クリスティーナ殿」
クリスティーナの近くに控えていた侍女が囁く。
女にしては低い声。そう、女装させられたティボルトだった。
しかしこのティボルト、男とは思えないほど完璧に化けていた。髪を結い上げ、ドレスを着せられたとき、本人は嫌な顔をしていたが、それでもその姿もたまたま美しい娘がそんな顔をしたようにしか見えなかった。
その美貌は美醜にこだわらないガーウィンが二度見したほどだ。お茶会の会場に向かうまでに、王兵達から部屋の鍵までもらったようだ。それを見て、クリスティーナは男のままではもったいないと更に性転換リストにティボルトを加えた。
「まだ、分からないわ。もう少し、様子を見なければ」
お茶会の表面の目的は、なかなか会う機会のない側室達の顔合わせである。正室が発表された今では、側室達の交流は許されているし、外務大臣の娘といっては積極的に根回しを行っているようだが、正式な顔合わせは初めてであった。
とりあえず、お茶会の主催者としてクリスティーナは側室達に話しかける。
「この度はぁ、ようこそ私のお茶会にいらっしゃいましたぁ」
強制でなければ来ないといった風に睨みつける外務大臣、赤猫娘。そして、その取り巻きと思えるあとの二人。そして、相変わらず無表情の財務大臣孫娘と、年齢の差や、言葉の違いからかクリスティーナの馬鹿さ加減が分からないような幼い姫君と異国の姫君。
「初めまして。クリスティーナ様。私、デイヴィス卿娘のオードリーと申します」
始めに名乗ったのが、外務大臣の娘である赤猫娘だ。クリスティーナに対して明らかに軽蔑の視線を向けている。髪色にあった、ドレスを身につけ、華やかな雰囲気ではその他の側室では一番であった。その振る舞いからしてやはり、彼女が側室の中の一番の実力者ということが分かる。
ちなみにクリスティーナもとりあえず上から赤、青、黄と、悪目立ちするドレスを着ているため、華やかさでは負けない。
「初めましてぇ。よろしくねー」
大げさに手を振ってみせると、露骨に嫌な顔をされた。それから、彼女の取り巻き達が順に挨拶して、次にたどたどしく幼い姫君、そして同じく舌足らずの発音でエキゾチックな姫君が挨拶してみせた。
「オクタヴィアといいます」
最後にたんたんと挨拶してみせたのがあの最重要ターゲットである財務大臣のクールビューティー孫娘だ。
――ふうん
クリスティーナは笑顔の影から冷静に彼女を観察する。白い面差しは端正だが、赤みさえ差さないように思える。
――本当に何を考えているか分からないわ
貴族や王族に生まれるとそれ故の人格を植えつけられるためか、概して自分の感情を表さなく者がいる。それは身近にもルーフェス、ガーウィンと多くいるが、この財務大臣の娘、オクタヴィア姫には顕著に現れている気がする。
――調べた所によると、修道院に入っていたようだけれど
数日の間で探れる情報は限られている。他の側室と同様、彼女もまだまだ知っていることは少ない。今日のお茶会で何かつかめることがあればいいのだが。
クリスティーナは意識をオクタヴィア姫に向けた。
人数が多すぎて申し訳ございませんorz




