温室で…③
周りでは二人のゴールインを祝い、虫たちが一層、ぶんぶんわめき立て、花達がその香りで二人を酔わせる。他の場所に比べロマンスが少ないため、温室に生きるすべてのものが二人を精一杯祝福しているようであった。
クリスティーナは目に痛い原色の花が開花したと同時に吹き上げたガスに思わず咳き込んだ。
――何よ、これ!
クリスティーナは理想の恋人からの告白シチュエーションをいろいろ考えてきた。誰もいない湖の畔でのさり気ない告白。そうでなければ薔薇に囲まれた温室の中での押し倒されそうなほど勢いがある告白。
けれども、クリスティーナの思い描いた星の数ほどの許容シチュエーションの中に虫と食虫草に囲まれた告白は残念ながらなかった。
――駄目よ、駄目よ、こんなシチュエーション!
告白は恋愛の一番の山場なのだ。恋愛ごとうんぬんを極めてきた自分がどうして、こんな目に遭わなくてはいけないのか。クリスティーナは拳を握りしめた。
怒りは、すべてが信じられないくらいうまくいって悦に浸っている男に向かう。
「ガーウィン」
「ん? どうした?」
その顔は、惚けきった顔だ。このまま、屠殺場につれていっても、呆気なく殺されるに違いない。
いくら好きだとはいえ、こんな男ではクリスティーナの許容範囲外である。告白場所のセンスは悪いし、協力が得られたら得られたでこの顔だ。
――こんな男と結婚したくない
クリスティーナだって心は狭くない。山羊顔は許そう。優しくないところも。けれども、ここまでくるとあんまりではないか。だからクリスティーナは案を講じた。
「――その約束を果たす前に、一つだけ条件があるわ」
「なんだ」
「すべてがうまくいったら性転換しなさい」
「は?」
こんな男が駄目だと思ってしまったならば女として考えればいい。自分が男となり、女となったガーウィンを嫁に迎えてやろう。
「…どうして、俺が性転換しないといけないんだ」
「だって、ガーウィンが男として全く許容範囲外だから」
「意味がわからん」
男でなければ、女。それが、一番の解決策だ。クリスティーナは我ながらいいことを思いついたものだと一人頷いた。
「真実の愛は誰にも理解されないものなの。いいこと? 私が参戦するには、ちゃんと愛するお方を助けるという大義名分があるのだから、あなたも私に好かれる人になってくれなければ。そうでなくては、私、力が入らなくてよ」
一人、威風堂々と温室から出てきたクリスティーナをニケは慌てて迎えた。
「ニケ、朝食を食べ終わったら調査を開始するわよ!」
「調査、ですか?」
「そう。誰が私を殺そうとしたのか、洗い出すの。成功した暁には私が男になって、ガーウィンが女になっての結婚がかかっているのだから、気合いを入れなければ!」
「それは、どういうことですか?」
「性転換よ」
ニケは研究者らしく首を傾げた。クリスティーナは性転換などとそう簡単に言っているが、男と女の身体の構造は著しく違う。第一、王立研究所の一番の医学を使っても、そんなことできるとは聞いたことがない。
「あの、クリスティーナ様、性転換するとか言っていますが、男女の体のつくりは全く異なっているものでして…」
「あら、私のものとガーウィンのものを交換すればいいだけの話よ!」
言い切ったクリスティーナに純情なニケは、何をと聞くことは出来なかった。
そこからのクリスティーナの働きは目覚ましかった。ガーウィンやティボルトが集めた散財した事件記録を、手がかりを元にして繋げていく。おかげで何千とのぼっていた要注意人物が百人そこらに減少した。
結局の所、クリスティーナの胸一存、それも彼女の趣味である恋愛うんぬんで国の将来が決められていたと国民が知れば、八つ裂きにされてもしょうがないかもしれない。
クリスティーナが指したのは二人。財務大臣と外務大臣だ。双方とも不審な点が多すぎた。
尻尾は見えてきたが告発できるほどの証拠はない。そして、相手はクリスティーナの猛攻に気が付いたようだ。毎日のように毒入りの菓子やお茶が配膳されたり、毒蛇や毒ガエルのプレゼントが届いたりした。物理的攻撃だけではない。一度なんか、大胆なことにクリスティーナの部屋に入りこみ、その春画コレクションをすべて破いてしまったのだ。
これにはクリスティーナも、ダメージをくらい、一日部屋に閉じこもり嘆き悲しんだが、ガーウィンが更に過激なものを渡すと涙をこらえて復活した。




