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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
23/48

協力の要請

 クリスティーナは領地から持ってきたすべての衣装をひっくり返した。令嬢なだけにその数は多い。その中で小柄なニケでも着られそうなものを選ぶ。


「うふふ。楽しいわねー。やっぱり私、妹が欲しかったわ。ルーに着せても全然似合わなかったもの」


 ニケに着せているものは実は勝負下着だったりする。布が多めに使われているため、一見すると夜具にも見えるが、実はすけすけだったりもする。


 貴族の常識が分からないニケはそれが普段着だと言われて簡単に騙された。ルーフェスには十五の年まで騙して同じ物を研究所に送っていたが、ある時、すべて送り返されてきた。


 この姿のままニケを廊下に出したらどうなるだろうか。


 何も知らない無邪気な彼女がこんな扇情的な下着姿で上目使いに見上げてきたら…。


 いやいや、見せるなんてもったいない。やっぱり冷凍保存して一人ずっと眺めていたい。


 心の中の葛藤はやはり表には現れず、慈愛の女神のように自分を見つめてくるクリスティーナに、ニケは安心したように着替えを任せるのであった。


「さあ、この上からこのドレスを着て。これは一応、侍女の服だから身分証明書代わりになるわ。そうね、髪の長さはどうにもならないから鬘を被ってもらうしかないわね。そばかすもお化粧で隠したら、――ほら、鏡を見て!」


 おどおどとニケは曇りない鏡を覗いてみる。


「あ…」


 そこにいたのはまるで別人だった。薄汚れた男の子の姿はなく、新しく王都にやってきた見習い侍女がいた。


「これから、私の侍女として隣にいて頂戴。お仕事は建前上、やってもらわなくてはいけないけれど、辛かったら遠慮なく言って」

「そんな! ここに置いてもらえるだけでもおそれ多いのに! どうぞ、よろしくお願いします!」


 ぺこりとニケは頭を下げた。全く素直な子だ。


――けれど、ドレスの中は、ね。うふふ。


 清純少女とセクシー下着の組み合わせがよけいな興奮を与えてくれる。それにそれを知っているのは自分だけなのだ。クリスティーナはニケにウインクして見せた。


「ドレスの中を他の人に見せちゃ駄目よ」


 ニケは顔を赤くした。


「み、見せません! …あ、でも、着るとき大変だったので手伝ってくれませんか?」


 その言葉についに噴出した。


「ええ! いくらでも外すわよ! ああもう、夜が待ち遠しいわ! 今から始めましょうか? いいえ、まだ汗の匂いは染みついていないわよね。今はもったいないわ」

「あ、あの、なるべく汚さないようにします。洋服は石鹸とたらいがあれば自分で洗いますから」


 話はかみ合わない。しかし、もしそんな細かいことをクリスティーナが気にしていたら、彼女が起こした被害はもっと小さくなっていただろう。少しのカルチャーギャップなら気合いで乗り越えるのが彼女の主義であった。


 クリスティーナはニケを正面から見つめた。


「いいえ、ニケ。そんなことしなくていいの。あなたはあなたなりに一生懸命働いて、ルーが自分にとってどんな存在か再確認すればいいわ」


――たくさん汗を掻いて下着に匂いを染み付けて、そしてルーがどんなに馬鹿か知って頂戴!


 けれどもニケはクリスティーナが言ったことをまた違った意味に捕らえたようだ。


「そうですね! 私、がんばります! クリスティーナ様からいただいた新しい仕事のことも。ルーフェス様だって、決して悪気があったわけではないですものね!」


 二人が手を取り合ったとき、扉が開かれた。



「国王陛下のおなーりー」


 王兵に囲まれ、ガーウィンがクリスティーナの塔へやって来た。


「あら、ガーウィン。どうしたのかしら?」


 侍女の手が強ばる。ガーウィンに捕らえられたときのトラウマが残っているのだ。


 しかし、ガーウィンの方は女装したニケに気が付かないようだ。


 クリスティーナはニケを引き寄せ長椅子に横座りし、不敵にガーウィンを見る。まるで彼女こそが君主のようである。


「それで、なにか用かしら? こんな時間に後宮に来るなんてもしかして夜まで待ちきれなかった?」

「おまえと一緒にするな」


 ガーウィンはクリスティーナの部屋に飾られていた春画の抽象画に眉をひそめる。一緒にいる素直そうな侍女は気が付いていないようだが、かなり際どいものである。さも芸術とばかりに飾られているが、春画は春画である。


 クリスティーナはガーウィンの言葉に顔をしかめた。


――私、そんな夜まで待てないと慎みのないことした覚えはないわ


 語弊があると言い返そうとしたとき、遮られた。


「まて、俺はまだおまえとの口論に労力を使いたくない。今日はおまえに頼みがあってきたんだ」

「それじゃあ、後でその件についてたくさんおしゃべりしましょう」

「…ああ、干物になる覚悟は出来ている」


 クリスティーナは長椅子から立ち上がり、早速、ニケにお茶をお願いする。



 立ち上る紅茶の香りを前にガーウィンは口蓋を切る。


「おまえ、王立研究所の資金横領事件の詳しいことを知っているか?」


 その言葉にお菓子を持ってきたニケが明らかに震える。クリスティーナはガーウィンを睨む。


「私、ちゃんとあの子が無罪だと論理的に陛下に説明しましたわ。それでもまだ疑っているのですか?」

「いや、あの少年についての釈放は認めよう。彼はこちら詳しい調査でも無罪だと証明された。しかし、本当の犯人が分からないし、横領された金も戻ってきていない。それについておまえにも調査を手伝って欲しいのだ」


 国のトップである王の嘆願。


 しかし、そこはクリスティーナ、自分が興味のないことにはその並はずれた才能を使おうとはしない。ニケが犯人ではなかったらどうでもいいし、お金がいくら失われようと全くかまわない。


 くるくると髪の房をまわしてどこ吹く風である。


「別に私でなくても良いのではないですか? 王には素敵な幼なじみがいるんだし、臣下だっていっぱいいるでしょう。側室の私が出る幕ではございませんわ」

「金の横領は調べてみると研究所だけではなく、他の部署も、だった。民からの税を横領されていた期間は先代の王から続いているし、その額も並ではない。それなのに今まで全く尻尾を出すことがなかったんだ。臣下である貴族であっても一枚噛んでいるだろう。とりあえず、俺とティボルトが密かに捜査に当たっている。ティボルトも優秀だが、さすがに二人では無理だ」


 クリスティーナはため息を付いた。


「横領というのはいつの時代、どこの国でもあるでしょう。臣下が人である限り仕方のないことですわ」

「ああそうだ。しかし、それが集団になっていれば? ――多くの者が絡んでいる。それも今の今まで巧妙に隠しきれているんだ。…王国が崩壊してからでは遅い」


 クリスティーナはちらりとガーウィンを見た。


「それでは、陛下。こう考えはしなかったのですか? この私もその横領に荷担しているかもしれないということは。誰が敵か分からなければ、もしかしたら近くにいるかもしれなくてよ」


 ガーウィンは唸るように答えた。


「ああ…。そうであったとしても俺は疑わなかっただろう。けれども、おまえの身辺を調べてみて、おまえは自分の能力を有益なことには使わず、『恋愛うんぬん』に費やしているということを知っている。あとはまあ、賭けだな」

「あら、恋愛は人にとって最高の喜びよ! それが有益ではなくて何であって?」


 熱っぽく語り出しそうになるクリスティーナを押しとどめ、ガーウィンは立ち上がった。


「とりあえず、だ。おまえも我々の調査に参加しろ。これは王命だ。逆らえば、極刑にでもなんでもしてやる。いいな?」


 半分腹立ち紛れに言ったのだが、クリスティーナの瞳の危険な輝きに、瞬時に言ったことを後悔した。


 しかし、クリスティーナはわりあい大人しくそれを受け入れた。


夢から覚めたら、またイガイガするお二人。


それにしても、いつにもましてクリスティーナの言動が気持ち悪いですね(;´д`)

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