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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
15/48

無理矢理の再会


 大陸一の豊かさを誇る国の中でも、一番の活気を誇る城下町は朝早くから喧騒に満ちていた。海からは途切れる間もなく魚で一杯の船が港に着き、国中に張り巡らされている道からは馬車に乗せられた様々な野菜や果物、穀物がこれまた途切れることない。そのすべては新鮮のうちに露天に並べられ、消費された。


 それらを物珍しそうに物色しながら歩き回る人影が一人。それがクリスティーナであった。顔はあえて隠していない。フードで顔を隠せば何か後ろめたいことをしたしるしであり、かえって目立ってしまうからだ。堂々としていれば、ただでさえ忙しい城下民達は見向きもしない。


 更に幸いの所、朝早すぎて人相書きが出回っていないため、よけいに好都合である。


 昨夜、皆が寝静まったのを確認するとクリスティーナは得意の鍵開けにより、部屋から抜け出し、使用人の服を持ち出した。そして顔つきを変えれば、誰もクリスティーナだと気づく者はいない。楽勝である。


――油断は禁物だけれど


 早く、王都から脱出するころには越したことはない。王都を出て、国を出てそこでやっていこう。この国では女は商売をしたり、勉強を極めたりは出来ないが、異国では実力があればできるらしい。


――何をするにしても、まずはお金が必要ね


 乗合馬車に乗るとしても、食堂でご飯を食べるにしてもすぐに使えそうな手持ちのお金はない。嫁入りの時持ってきた宝石類やずっと溜めていた金塊があるが、それらはあまりに価値がありすぎる。


 と、目の前に見えたのは王立研究所。王城に負けない高さを誇り、広い敷地を有する王立の建物の一つだ。大国として名を掲げることができるのも最高の頭脳があってこそである。歴代の王は教育に多くの国家予算を費やし、ここでは大陸最高の教育を受けることが出来る。令嬢達は研究所の師を領地に招いて詩や文学を学び、殿方達は実際、研究所で学ぶことを目標としていた。


 普段なら数年したら戻ってくるはずだが、研究所に行ったままろくに家に帰ってこない弟を一人、クリスティーナは持っていた。


――そうね、ルーに協力してもらおう


 そういえば姉思いの弟を持っていたとクリスティーナは顔をほころばせる。その笑顔は近くで魚の荷揚げを監視していた若い貴族の頬を赤くさせた。クリスティーナはそれに気が付き、今度は故意に彼に微笑みかけ、自分も彼に感心があることを暗に伝える。すると彼はクリスティーナも自分に興味があるのだと思いまんまと罠におちた。


 利用できるものは何でも利用する。これが人でも物であっても無駄なエネルギーを消費しない最高のエコロジーに繋がる原則である。




 クリスティーナは胸に貴族が一筆書いた物をしまい、堂々と国立研究所の門をくぐり抜けた。今頃はあの若い貴族は夢心地で地面に転がっているだろう。決して、変なことをしたわけではない。クリスティーナの良識の範囲では許されていることだ。


 王立研究所は無駄に広い。廊下を忙しげに歩く男達を微笑みで陥落し、弟が住んでいる塔を訪ねる。


 研究所での弟の地位はかなり高いところにあるようだ。証拠に広い居住区行きをもっており、そこにたどり着くためには長い通りを歩かなくてはいけなかった。ほとんど女人禁制である研究所をクリスティーナらしさを隠さず堂々と歩く令嬢に研究者達は一度は振り返ってしまった。


 クリスティーナは教えられた扉の前に立ち、不審そうな目で見てくる研究者達に弟がお世話になっていますと令嬢に相応しく優雅に礼をした。


「ルー? 私よ、クリスティーナよ。愛しいお姉さんがあなたに会いに来たわよー。わざわざ来てあげたのに、早く開けないとどうなるか分かっているわよね」


 ここでは偉かろうが何だろうが、クリスティーナにとってルーフェスは弟である。扉を力一杯叩く。


「ちょ、ちょっと! ルーフェスさんは寝起きに起こされたら殺されま…」


 慌てて引き留めようとした若い男を、虐待された子どものように涙を溜めた目で見返すと彼はごめんなさいと言い、後ろに下がった。


「あんたがこの前文句言っていたから、今回は制限時間を延ばすわよ。いいわねー? 昔の恥ずかしい秘密がばれるまで後、よん、さん、にー、いーち…」


 バーン、と大きな音がして茶色い毛の塊が飛び出してきた


 ルーフェスは目をつぶっていたが明るい日差しの元、やっと目を見開く。姉の声に条件反射で動いたため、自分がどうしてここに立っているか分からないようだ。しばらく廊下を不意味に歩き回り、頭をぶつけた。立ち上がったルーフェスはぼさぼさに跳ね上がった髪に視界を遮られ、目の前の若い男しか目に入らなかった。メガネで拡大された目でじろりと見られた哀れな若い男はヒッと声を挙げる。


「あれほど寝ていたら起こすなと言っただろう…!」

「あ、あの、僕じゃありません!」

「じゃあ、誰だ!」


 彼は近くに立っていた姉の姿をようやく発見した。


「げ」


 ひきつった弟の顔に、クリスティーナは手を組み直して呆れたように言い返した。


「ルー、その人を脅しているような言葉遣いは何? それにその顔はどうしたのよ」

「ティーナ…」


 見る見るうちに青ざめるルーフェスを見て困惑する若い男に振り返った。


「いつも、弟がお世話になっています。けれどもごめんなさいねえ。ルーフェスったらいつもこんな風にあなたたちを怒っているの? 今度からしっかり言い聞かせておきますわ。ルー、あなたに話があるのよ。中にいれて」


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