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 まだ保つだろうと思っていた空は、にわかに震えて一気に落ちてきた。上をうかがい見る余裕もなく、雨は轟音を立てて降り注ぐ。

 二宮郁にのみやかおるは大きな公園に駆け込んだ。つっかけがぬかるみから泥をはねあげるのを気にせず力一杯走る。正面の大きな常緑樹の根元にダンボール箱が置いてあった。わき目もふらずたどり着き、すぐさましゃがみこんで手をすくい入れた。持ち上げたのはハンカチに包まれたやわらかいもの。少し禿げた木はひさしがわりにならず、ハンカチはぐしょぐしょに濡れ、包まれた子猫は小刻みに震えていた。

 学校帰りにみつけた。かわいそうでどうにも放っておけず、でも許しをもらわずに連れて帰るわけにもいかなくて、一旦帰って祖母に頼み込んだ。ひどくしぶっていたがさっきようやく許してくれた。祖母が味方になってくれるなら両親への説得はなんとかなる。

 子猫はぬくもりを求めて郁の手のひらに額をすりよせた。

「寒いの!? あああどうしよう」

 小学生のような幼いひざの上に載せて、両手でぱたぱたと衣服をさぐった。ハンカチはない。私服に着替えた時にポケットにハンカチを入れる習慣はないし、セーラー服のままだったとしても今日のハンカチはここで濡れそぼっているやつだ。

「何で梅雨の季節に捨てたりするのよぅ」

 愚痴がこぼれた。たかだか往復二十分と考えた自分の粗忽そこつを恨むのに。

 震えは大きくなっているようだった。Tシャツの上に羽織った上着代わりの長袖シャツを脱ごうとした。左肩を外したところで視界が急に曇った。からだに打ち付けてきていた雨がやむ。

「猫? 」

 驚いて見あげると、見知った人が見下ろしてきていた。郁は思わず叫んだ。

「国立先輩ぃ~!?」

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