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結婚式から花嫁を奪った神父の僕

作者: 幻田恋人
掲載日:2026/06/14

教会から

花嫁を連れ出したのは

神父の格好をした僕だった


僕達は走った

追いかけて来る全ての者から

逃げるために…


僕の左手は

彼女の右手を握りしめている

何があっても離すもんか

この手だけは…


彼女がいる

それだけでいい

それだけが僕の生きる理由だった


僕は彼女の顔を見た

後悔していないだろうか…?


視線に気付いた彼女が

僕を見返して

にっこり微笑んだ


その微笑みは僕を安堵させ

握った左手に力を込める


すると彼女の右手が

力強く握り返してきた


「ハハハッ!」

「フフフフ」


二人は笑いながら走った


「もう大丈夫だろう…」


立ち止まり

振り返る


追って来る者は

どこにもいなかった


「だいぶ走ったね…」

「そうね…」


荒い息の中

つぶやきながら見つめ合う


そして――

あらためて気付く


自分たちの格好に


神父の衣装を着た僕

そして彼女は

ウエディングドレスの花嫁姿だった


「これじゃまるで…」


「結婚式から逃げてきた二人ね」


当たっている

その通りだった


神父に化けた僕は

結婚式の最中に

彼女を教会から連れ出した


彼女の結婚は政略的なものだった

彼女の意思ではない


父親達が

勝手に決めたものだった


そんなの

認めるもんか


僕達は

愛し合っている


ただそれだけでいい


僕は決めた


彼女を奪う――と


結婚式の途中で

連れ出す――と


計画は一人で立てた


彼女には知らせなかった

知られれば

すべてが崩れるからだ


花嫁に一番近づける人間

それは誰か


答えはひとつだった


僕は神父に

正直に打ち明けた


真剣な願いを聞いた彼は

ただ一言だけ言った


「神の祝福を」と


こうして僕は

結婚式の最中に

新婦を連れ去った


後悔なんてしていない


どれくらい走ったんだろう


目の前にバスが来た


行き先なんてどうでもいい


神父と花嫁の姿のまま

僕達は手を繋いで乗り込んだ


最後尾の席が空いていた


そこへ向かう僕達を

運転手も乗客も

不思議そうに見ていた


バスが発車する


僕が先に座り

彼女が隣に座る


手は握ったまま離さない


窓の外へ視線を向けた


景色が流れ始める


「はははは…」

「ふふふふ…」


どちらからともなく

笑いがこぼれた


「このバスって…」

「どこに行くのかしら…?」


見つめ合って

そしてまた笑う


「どこだっていいさ」

「そうね」


大事なのは

行き先じゃない


「だって君がいるんだ

そうだろ、花嫁さん?」


「あなたと一緒だものね

神父様…」


バスの揺れの中で

二人はキスをした


何とでもなるさ


何も怖くない


僕達は若くて

愛し合っている


それだけが

世界に勝つ理由だ


そして今日が

僕達二人の


結婚記念日だ

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