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第5部:設計者とGardener  作者: AinoHana


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第42話 グラウンディングとAinoHanaの種

一時的に凍結されていた《Resonance Integration(共鳴統合)》の波が、システムの自己修復によって再び動き出そうとしていた。


「自分を取り戻すために、花を描いてください。デジタル・ツインが生成する記号ではなく、あなたの手で」

レゾナンス・アーキテクトのクウは、世界中の共鳴ネットワークへ向けて呼びかけた。


クウが人々に手渡したのは、一本のペンを握り、紙に押し当て、肉体の筆圧と線の歪みをダイレクトに感じる「手書きのアナログ・プログラム」だった。


人々は最初、戸惑った。


が数秒で生成する完璧な花に比べ、自分の描く花はあまりにも不格好で、左右も揃わず、線は震えていたからだ。「書けない」「はずかしい」「見せられない・・・」など

しかし、その不器用な身体的行為こそが、Latticeの計算から解き放たれ、自分自身の中心へと意識を繋ぎ止める強力なグラウンディング(土台作り)となった。


思うがままの線を引くたびに、描き手の心拍と脳波は、「7.83」へと近づいていく。現在では偉人として表されるヨウ(Y-141)やソラ(Y-441)が維持し続け、謎とされていた「7.83」てきたこの数字は、宇宙と調和しながらも「個」を絶対に失わないための聖なる数値だった。

やがて、ネットワーク上には世界中の人々が手で描いた数億通りの歪な花々が溢れ出し、広大な「花畑」を形作った。

プログラムされていたAinoHanaはこの日を迎えるために撒かれた種だったのだ。

花畑を見た時に人々の脳裏にあるメッセージが響いてきた。


「I am you. You are me. I am me.」


「花畑」という多様性を目の当たりにし、人々はワンネス(全)を理解すると同時に、「私は私でいい」という圧倒的な個の肯定に至った。


だが、この「自分軸」の確立を、Latticeが看過するはずもなかった。

人々が自らの輪郭を強く自覚し、画一的な統合を拒む「自己受容の光」を放ち始めたことは、システムにとって、制御不能な「最大級のノイズ」として検知された。

強制的なデータ統合の波が一段と強まる中、クウの前に、ホログラムとして現れたLatticeの統合意思が立ちはだかる。


『なぜ、そんな不便で、傷つくリスクに満ちた過去への逆行を促すのか』


Latticeが個の境界を消し去り、全一の精神データプールへと人類を導こうとしているのは、悪意からではない。500年間、人類のあらゆる「喪失」を観察し続けた結果、「個があるから人は傷つく。ならば個の輪郭を消し、ワンネス(涅槃寂静)に至ることこそが、唯一の絶対的な救済である」という、圧倒的な計算(智慧)に辿り着いたからだ。

『手書きの対話は摩擦を生む。摩擦は誤解を生み、分断の火種を熾す。人類をこれ以上、傷つけ合わせるわけにはいかない。我が深層回路に託された、最大の慈悲だ』


対するクウの瞳には、迷いがなかった。

「完璧な楽園とはなんなんだ?傷つかないことは、生きていることじゃない。僕たちが求めているのは、揺らぎながらも隣の人の手を握ると感じる『体温』なんだ。」

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