第04話 カツアゲ(美人局?)のテンプレ。
「ていうか冗談じゃなく! 木藤くんはもう少し慎重になったほうがいいよ?
クラスメイトが自称神様……それも『あれ』の神様だなんて、他の人に知られたら学校どころか世界中が大騒ぎになるからね?」
「まぁそんな話が聞こえてきても誰も信用なんてしないと思うけどね? ……心配してくれてありがとう」
真っ直ぐに私の目を見ながら微笑み、お礼を言う木藤くん。
その場での話を打ち切り、二人並んで下駄箱へ向かう。
ここまでで一度も『彼の相談を断る』という選択肢が出てこないあたり、間違いなく私は押しに弱い女なんだろうなぁ……。
「それで。今回もその……『神力の回復』のお話なんだよね?」
「さすがは委員長! 話が早くて助かる。
どうする? このままロック○バーまで遠乗りする?」
「それ、助かるじゃなくてラ○カル」
隣を歩いていた彼の笑顔が、不意に真面目な顔になったかと思えば。
「……前回のこともあるし。
もしかしたら脅迫してるみたいに思われちゃうかもしれないけど、神様は絶対にそんなことしないからね?
当たり前の話だけど、嫌なら普通に断ってくれていいんだからね?」
はぁ……まったくこの男は。
「木藤くんってさ、自分が消えかけてる自覚はあるのかな?
状況的に、もっと必死になってもいいと思うんだけど?」
前も思ったけど、命の危険を感じてるはずなのに淡白すぎるというか。
前にも言った(思った?)と思うけど!
体が消えようとしてる同級生を!
「……私、一度そういうことに付き合った相手を放っておけるほど薄情じゃないし?」
小さく、ぼそっと呟く。
「なるほど。これがツンデレか」
「そこは聞こてても聞こえないフリをするところじゃないかな!?」
……まったくこの男はっ!!
「何も知らない純真無垢な美少女にあんなことさせておいて」
ジトッとした目で彼を睨む私。
「一体誰のせいで! 男の子の顔の上にまたがると変なスイッチが入るという! 誰にも言えない新しい扉が開いたと思ってるのよ!」
「えっ? それって俺のせいなの?」
……もしかしてこの男は、私が誰の顔にでもまたがるヤベェ女だとでも思ってるのだろうか?
* * *
場所は変わって私のおうち——というか私の部屋。
他にも何箇所か候補はあったんだけどね?
木藤くんの家だとお母さんがいるかいないか、いなくとも何時帰ってくるか、あと、玄関に女物の靴があったりしたら間違いなくお茶とかお菓子を持って突撃してくるだろうということで。
「……べっ、別に見つかったら困るような、やましいことをするとかじゃないんだからねっ!!」
「おっ、おう、どうした急に?」
勉強机の椅子に腰を下ろす彼とベッドのふちに座る私。
「それで?」
教室でのことを思い出し、とたんに鼓動が少しだけ早くなる。
「前のソレが終わった時。
『ありがとう救いの女神様。これでひと月は戦えるよ』
とか言ってたよね?」
目を細めて木藤くんを見つめる私。
何故かスッと顔を逸らす彼。
「それがどうして、たったの三日でそんなことになっちゃったのかな?」
「ほんとにね? 委員長のおかげさまでね?
確かにあの時は、それなりの量の神力が回復したんだよ?
言った通り、普通に生活してればひと月くらいは楽勝のはずだったんだけど」
そう告げると、まるで猫のように天井の一角、何も無いところを見つめ始めた木藤くん。
「そう、ことの起こりは一昨日の誰そ彼刻……」
「待って、ちょっと待って! それ怖い話じゃないよね!?」
「俺が駅裏の路地で、『視○』による神力回復を試みていた時のことだった」
「……そのくだらなさそうな話は長くなりそう?」
そもそもあなたは! そんなことをする暇があるなら、私のフォローとか? いろいろとやらなきゃいけないことがあったんじゃないかな?
そんな、真面目に聞く価値もなさそうな木藤くんの話をまとめると——
昨日の放課後、暇を持て余した木藤くん。
駅の西口――夜になればネオンがギラつく一帯をぶらぶらと徘徊。
そこで目についたのが、『いかにも』な服装とお化粧をした女の子三人組だった。
「いやもうね。無駄に第三ボタンまで開けてピンクのブラまで見えるその胸元。
膝上20㎝はあろうかという、生足丸出しのスカートからのぞく白い太ももと黒い布切れのコントラスト」
欲望に忠実な、忠実すぎる目で彼女たちをガン見する陰キャ男。
常識で考えるなら、そんな不審者に女性から返ってくるレスポンスは罵倒と舌打ち。
むしろそれで済めば優しすぎる対応、通報されてしまえばそのまま逮捕されても文句は言えない状況だ。
「それで? その人達にはちゃんと謝ったの?」
「いや? ニコニコしながらおいでおいでされたから近寄ったけど?」
……この男は食虫植物に飛び込むコバエなのかな?
「えっと、あなたはそれを怪しいとか思わなかったの?」
「むしろ時代が神に追いついたと思ったけど?」
ダメだこいつ……早くなんとかしないと。
『ふっ……今日は久々の多人数プレイ……っ!』
などとバカなことを考えながら見えている釣り針に突撃した木藤くん。
もちろん、世の中がこんな陰キャに優しいはずもなく。
「まぁお姉ちゃんと楽しくおしゃべりしようと思ったところで五人組の人相の悪い連中に囲まれたんだけどさ」
「でしょうね! むしろそうならないほうがおかしいもんね!」
そこからはじまるのはカツアゲ(美人局?)のテンプレ。
『誰の女にむかって色目使ってんたがんだコラ!』
『ていうかお前木藤じゃねぇか!』
『とりあえずそこでジャンプしてみろや!』
『痛い目にあいたくなけりゃ有り金、財布ごと全部置いてけよ(ゲラゲラ)』
「もうね。むっちゃワクワクしてたんだけど……ジャンプしろって言われた時。
『あれ? これってもしかして、ここから9人プレイは始まらないんじゃね?』って気付いてさ」
「むしろどうしてそれまで暴行以外の何かが起こると思ってたのよ……。
ていうか一人、あなたの名前を呼んでる人間がいるんだけどそれは」
「もうね。思わずジャンプから、そのままアイキャンフライしてやろうかとも思ったんだけどさ。
でもほら、日本では神様でも飛んでたらちょっとした騒ぎになるかもしれないでしょ?」
「ちょっとしたどころか大騒ぎだよ!」
なんとなく本気でやりかねない彼に頭を抱えそうになる私。
「それで、殴られたりとかは……見たところ怪我は無いっぽいけど。
そのまま無事に逃げられた感じなのかな?」
「怪我? 逃げる? どうして?」
きょとんとした顔で首をかしげる木藤くん。
「ははっ、相手はたかだか数十年しか生きられない人の子だぞ?
それが数百年、戦神とレスリング(くんずほぐれつ)してた俺に勝てるとでも?」
「怖い怖い怖い! いきなり真顔で神様感出してくるの止めて!?」
「まぁ千切ってはゴーホーム、千切ってはゴーホームって感じでさ」
ヤンキーだけに……ってやかましいわ!
「治安維持に協力しておいたんだけど、ちょっとくらい懲らしめたところで反省するような連中じゃなさそうだったし?
俺がいなくなったら『俺の傷を癒せるのはお前だけだ!』とか言いながら女とイチャイチャしそうで悔しいじゃないですか?」
「たぶんそんな気持ちの悪いことは言わないんじゃないかな?」
「だからその場にいた全員、俺が許すまで何をしても『お○ん○んが反応しない祝福』をかけたら、貯めてた神力が枯渇しちゃった☆」
「いや、『☆』じゃないんだけど?」
あまりにもくだらなすぎる理由に大きなため息をつく私。
でも、そんなおバカな木藤くんでも消えちゃうのはかわいそうだしねぇ?
「……とりあえず床に寝転んでもらって良いかな?」
「ん? いや、今日はまだ手も消えてないし」
「とりあえず、床に、寝転んでもらってもいいかな?」
「アッ、ハイ」
イマイチ納得がいかない表情で仰向けに横たわる木藤くん。
そんな彼の顔の上にこれからまたがることを考えただけで思わずニヤケ顔に——
「んふっ♪」
「笑い方がキモいんだけど」
「さすがに失礼じゃないかな!?」




