第03話 これも一種のマウントポジションだよね?
西日差し込む教室の中。
床に寝転んだ少年の顔の上に跨った制服姿の少女。
「んっ……あんっ……。
き、木藤くん! その、息っ、息がね?
なんていうか、私の敏感な部ぶっ……ひうっ!?」
少年の呼吸——彼が力いっぱい空気を吸い込み、そしてそれを吐き出す度、一枚の布越しに感じるひんやりした空気と熱い吐息。
「ちょっ……あっ……あの、聞いて?
あなたの息がね? 私の敏感なっ……ああっ!」
「スー……、スー……、スー……、ハーーーーーーーーーーーーーー」
「あっ! くっ……あふぅ……んあっ! きとうくん……」
(※これ以上はいろいろとあれがそれなため省略されました)
* * *
放課後。
クラスメイトの男の子から告げられた、
『少しずつ体が消えていく』
という非常識すぎる、彼にのしかかった命の危険。
そんな難病——病気ではないんだけど——の治療方法は、
『この症状を回復させるためにはスケベェなことをする必要があるんだっ!!』
という「あなたの頭の中は海綿体で出来ていらっしゃるの?」と疑いたくなるような内容だった。
……いくらなんでもさすがにそれはねぇ?
信じられるようなモノではなかったんだけど、彼の手がね?
みるみるうちに、指先どころか手首まで消えてしまったからさぁ大変。
本人は「別に無理なら無理で——まぁ消えちゃうだけだし?」みたいな、達観した感じだったけどさ。
……いやいやいや。そんなこと相談されて。
あまつさえ『クラスメイトが制服だけ残して目の前から消えちゃった』のを目撃してしまったりしたら。
その場に残された、美少女委員長が心に負う罪悪感とかトラウマが幾ばくのことか、少しは考えて行動して欲しいんだけど!?
まぁ、別に? 私だって鬼じゃないし?
もしも、彼の言う話が半分……三割……一割でも本当の事だったら。
何某かの不思議パワー的なモノを持っていたとしたら……ねぇ?
「……分かったわよ!
その神気っていうのがある程度回復するまでなんだからね!?」
仕方なく、本当に仕方なく。
90%の親切心と10%の下心で。
彼の前に豊満……とまでは言えないけど! 自分でみてもとても愛らしい!
熟す前のさくらんぼが乗っかった天保山を差し出したのよ。
そしたらあの男——
「いやほら、見てもらった通り手がね? 消えちゃってるからね?」
……何故か困惑した表情。
そんなこと最初から分かってるわよっ!
だからわざわざこっちから胸を差し出してあげたんじゃい!
さぁ! そのまま慈母のような私の胸に——
「……ゴメン。神とは言え、無いものには埋もれられないんだ」
……殺意。
圧倒的殺意っ!!
思わずその場で机を持ち上げて、執拗に彼を殴打しそうになった私。
なんとか心の平静を取り戻し、あと一歩のところで思いとどまった自分を褒めてあげたい。
「ならっ、どうすればっ、いいのかなっ!?」
キレ気味の私の質問に、
「そうだな……。
あっ、俺がそこに寝転ぶから顔の上に乗ってもらえる?」
「さすがにそこまで思い切った行動には出れないよ!?」
さも当たり前のようにそう答える木藤くん。
この人、ここが学校だって分かってるのかな!?
誰かに廊下側の窓から覗かれたり、ドアからクラスの誰かが入ってきたらどうするつもりなのかな!?
……まぁそのまま、彼の言葉に流されてヤッちゃった私もたいがいだと思うけど。
も、もちろん下着もスカートも脱いでないし?
彼にはその場で微動だにするなと釘を差してからだけどね?
……ていうか、なんなのアレ。
快楽って一定ラインを超えると幸せを感じるの?
もうね、言うなれば彼が呼吸——空気が移動してるってだけのことなんだよ?
それなのに、自分で触る何倍も気持ちよくて! それだけじゃなく、全身を温かい優しさに包まれてるみたいな……。
私の腰が勝手に前後に動いてさらなる刺激を求めちゃったのは仕方ないよね!?
——というようなことがあった翌日。
さすがにアレだけのことをした仲なわけだし?
もしかしたら木藤くんが勘違いして、彼氏面をしてきたらちょっと面倒なことになっちゃうかも?
まぁ、その時はその時でちょっと本気で今後のお付き合いを考えてあげても——なんて思ってた私。
なのにね?
あの男……朝から「はよ」って挨拶をしてきただけ。
一言というか二文字。
それがその日の二人の会話のすべて。
休憩時間にも昼休みにも話しかけてこない。というか近づいてもこない。
……何なのあの男っ!?
もしかして釣った魚には餌をやらないタイプなの?
いや、そもそも私は釣られてないけれども!!
ふう……落ち着け私。
そもそも相手はこのクラスの変わり者代表みたいな人。
内気な男子を絵に書いたような存在の木藤くんなのだ。
この学校の『メガネ女子ランキング・ベスト5(※校内でメガネを掛けてる女子は一割ほど)』に入るであろう私に、馴れ馴れしく話しかけてくるような根性は無い——そのわりに隣の女子とは気軽に喋るんだね?
べ、別に? 私って重い女でもヤキモチ焼きでもないし?
そもそも付き合ってもいない、ある意味、ただ体の関係を持っただけの男が他の女と話をしてるだけで苛つくとかそんなことあるはずもないし?
「多香子、さっきから折れたシャーペンの芯が三十回くらいこっちに飛んできてるんだけど」
……別に、全然気にしてるとか無いしっ!?
『もしかして、あの日の放課後に起こったことは欲求不満な美少女が見た春の黄昏の夢だったんじゃ?』
そう思い始めた三日後の放課後。
「委員長。比較的追い詰められた状況なんだけど、ちょっと相談に乗ってもらってもいい?」
「……もしかして木藤くんは私のことを都合の良い女だとでも思ってるのかな!?」
あの日と同じように、しょぼくれた顔をした彼に廊下で話しかけられる私だった。




