第01話 放課後、クラスメイト、告白。
五月のゴールデンウイーク明け。
今日は月に一度、クラス委員が集められる定例委員会。
……とはいえ。
まだまだ新年度が始まったばかりのそれで、これと言って誰かから提案がなされるようなこともなく。
茶話会のような、ダラダラとした空気感の中で放課後を過ごしただけで生徒会長の「ではまた来月に」という短い挨拶の後、皆で「お疲れ様です!」と、そこだけ元気に返事をして解散。
置きっぱなしの通学鞄を回収するため、教室に向かおうとしたところで。
「あっ。確か同じクラスの」
「木藤くんだよね? 今から帰りなのかな?」
良く言えば目立つこともなく大人しい、ストレートに言えばイマイチ掴みどころのない男子。
ギリギリ名前くらいは知っているが、これといって接点のないクラスメイトとバッタリ出くわす。
(……一応委員長として声を掛けてはみたものの、なんとなく気まずい……)
とりあえず返事が帰ってきたら会釈だけしてそのまますれ違おうと、少しだけ立ち止まる。
もっとも、そんな同級生から返ってきた反応は、
「さすがにいきなり……いや、でもこのままじゃ……」
俯きがちにこちらを見つめながらの小さな独り言。
「えっと、それがその、折り入ったというか立て込んだというか」
何やら不安そうな、それでいて思い詰めた顔をした男子。
(あー、これって)
その内面はともかくとして。
『赤縁メガネに黒髪ツインテール』という外見をしている彼女。
「嫌じゃなければ、ちょっとだけ話しを聞いて欲しいと言いますか。
あっ、もちろん無理にとは言わないからね?」
こういった、いわゆる『サブカル系男子』からのウケがとても良く。
(二年になってからだけでも三人目なんだけど……)
間違いなく告白であろうと当たりをつける。
(ていうかこれ、下手に『今は時間が無いから』って答えちゃうとこのまま家までストーキングされちゃうパターンなんだよね……)
ということで。
不審者に対して一番効果的な受け答えは、
「そうだね! 話を聞くくらいは全然大丈夫だよ?」
無駄に相手を否定せず、明るく元気に返事を返すこと。
今から教室――新校舎の三階、2年B組まで鞄を取りに戻ることを説明。
これと言って盛り上がることもないと思っていた会話が思ったよりスムーズで。
(さすがにこの時間になると校舎内に残ってる人なんてほとんどいないわね……。
大丈夫だよね? 木藤くん、いきなり『はっちゃけ』たりとかしないよね?)
挙動不審なら挙動不審で困ってしまうが、妙に女性なれしてるのもそれはそれで怪しいと言うか。普段より警戒心を三段階ほど上げる多香子。
隣を歩く『木藤尊』というよく知らないクラスメイトを観察する。
(身長はそこまで高くない……いや、猫背気味というか俯きがちだからそこまで高くないように見えるけど170以上はありそうかな?
体型はほっそりとしてるけど、なよなよした感じではないけど。
色白っていうか肌が綺麗っていうか……少なくとも運動部ではなさそうよね)
不躾にならないよう、視線を体から顔へと上げていく。
(首とか顔、肌のキメが細かいと言うか……もしかしてファンデーションとか塗って……さすがにないか。
これが素肌だとしたら、私よりちゃんとスキンケア出来てそうじゃない?)
『もしかして私の女子力……低すぎ?』
少しだけ口元を引き攣らせてしまう多香子。
(顔だって中性的な感じでそこまで悪くないような……。
それにしても、こういうタイプの男の子ってどうして全員前髪を伸ばしたがるんだろう?)
中学から高校と、自分に告白してきた相手を思い出し少しだけげんなり。
(うん、これまでの人たちから比べればかなりまともな部類の男の子だよね。
姿勢を正して少し髪をいじるだけでも随分雰囲気が変わると思うんだけど……って、大きなお世話か)
しかし残念ながら、彼女の好みは笑顔の似合う爽やかなな歳上スポーツマン。
自分を引っ張ってくれるような力強い男性。
内向的な性格が服を着て歩いている男子にはこれっぽっちも興味など――
(んー、少しだけ筋トレして日焼けして髪の色を明るくすれば)
……ちょっとくらいしか興味など無く。
もっとも、ほとんど会話すらしたこともないのにいきなり告白してくるのはあんまりいただけないから友達から……などと考えているうちにもB組の教室に到着。
さすがに無いとは思うが……いきなり襲いかかられても困るので、自分の席から鞄を回収した後、いざという時に外に向かって助けを呼べる(かもしれない)窓際の席に移動。
机を挟んみ、並んで腰を下ろす。
「それで、お話って何かな?」
そう尋ねた多香子に目を向けることもなく俯きがちにポツリと呟く木藤。
「……そうだな。何から話せばいいのか」
窓から差しこむ光に照らされ、憂いをおびて見えるその横顔に匂い立つような色気を感じてしまい、思わず『ごくり』と生唾を飲み込んでしまう。
(……な、なんなのよもう!
いつもクラスの片隅で寝たふりしてる陰キャのフツメンのくせにっ!!)
ドキドキさせられたのがよほど悔しかったのか、心のなかで半分どころか八割悪口な八つ当たり。
そんな彼女のことなど知ったことかと髪をかきあげ、その目をじっと見つめる少年。
(む、無駄に綺麗な目をしてるわね!?
もう、もう、もう!! 本当に何なのよ!?)
ストーカー容疑から始まり、友達ならと変化していた彼女の心境が『お試しで付き合ってみても……』と変化する。
……が、彼の口から出た言葉は、
「えっとさ、西森さんって『神様』って信じてる?」
「……はい?」
想像していた『告白』とは程遠く。
その言葉の意味がまったく理解できず、素っ頓狂な声で返事をしてしまう。
「いやね、話せば長くなるんだけどさ。
それを説明できないくらい現状が切羽詰まっててさ。
ほら、エッチなマンガとかで『セックスしないと死ぬ病気』って設定が稀に良くあるじゃん?」
「どうして木藤くんは私がそれを読んだことある前提で喋ってるのかな?」
(いきなり宗教の勧誘でも始まったのかと思ったらまさかの変態だったーーー!!
ていうかこの人! 言ってることはセクハラ通り越して性犯罪者なのにどうしてそんないい顔してるの!?)
悲報:二人きりになったクラスメイトが色々とヤバいヤツだった件。
こいつ、もしかして危ない薬でもヤッてるのか……。
直ぐ側に座っている同級生からどうやって逃げようかと頭をフル回転させる多香子。
「実は俺、比較的速やかにエッチなことをしないとこの世界から消えちゃうんだ」
(何言ってんだこいつ……)
「えっと、もしかして私ってそんな話を信じちゃうような残念な女だと思われて――」
(いくらなんでもそんな馬鹿げた話を信じるような奴はいな――)
さすがにそこまで軽い、頭の悪い女だと思われていたことにむっとした顔をする多香子。
しかし彼女の前。ズボンのポケットに入れていた、彼の右手が無造作に差し出されたことで状況が一変する。
「……って木藤くんの指が消えて見えるんだけど!?
えっ? それっていったいどんなマジックなの!?」
突拍子もないことを言い出したセクハラ同級生。
そんな彼が差し出した右手の第2関節から先が綺麗さっぱり無くなっていた。




