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追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜  作者: はりねずみの肉球
第1章:【追放と覚醒】枯渇する祖国と、砂漠に降る恵みの雨

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シーン2:【国境越えと切断】繋がりが消滅した瞬間、王城の噴水は爆け散る

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

ガタゴト、ガタゴト、ガタゴト。

車輪が荒野の硬い石を噛み砕く不快な振動が、粗末な荷馬車の床板を通して、私の痩せ細った身体を容赦なく打ち据える。

隙間だらけの幌の向こうから吹き込んでくる風は、先ほどまでの甘く湿った王都の夜風とは全く違う。

喉の粘膜を焼き焦がすような、ざらついた砂の匂いと強烈な熱気。

手首に食い込む荒縄の感触と、長時間の揺れによる吐き気に耐えながら、私はただじっと暗闇の中で目を閉じている。


「おい、馬を止めろ! ここが国境線だ!」

「やれやれ、こんな夜更けに砂漠の入り口まで送り迎えとはな。全く、とんだ貧乏くじだぜ」


前方の御者台から、護衛の兵士たちの苛立った声が鞭のように鼓膜を打つ。

ギィィィッという車輪の軋みと共に、乱暴に馬車が停止する。

直後、荷台の幌が荒々しく捲り上げられ、松明の赤い炎が私の網膜をチカチカと刺激する。


「さっさと降りろ、罪人! 貴様の送り先はここまでだ」

「……はい」


兵士の怒声に従い、私は軋む関節をなだめながら、荷台から乾いた大地へと足をつく。

足の裏から伝わってくるのは、生命の気配が一切しない、パサパサに乾燥した熱砂の感触。

松明の光に照らされた足元には、風化して半分崩れかかった古い石碑が立っている。

そこが、豊かな水源を独占する我が祖国と、不毛の砂漠が広がる隣国とを隔てる絶対的な『境界線』だ。


「ここから先は隣国の領土だ。一歩でもこちらの領地へ戻ってくれば、その場で斬り捨てるよう王太子殿下から命令されている」

「ご心配なく。二度と、あの国へ戻ることはありませんから」

「ふん、生意気な口を。水も食料もない砂漠のど真ん中で、せいぜい魔物の餌にでもなるんだな」


兵士たちが下品な嘲笑を浮かべながら、私を境界線の向こう側――隣国の大地へと力任せに突き飛ばす。

よろめきながら、熱い砂丘の上へと数歩、足を踏み出す。


その瞬間。

――ブツンッ!!!


私の鳩尾の奥深くで、極太の鋼鉄のワイヤーが弾け飛ぶような、強烈な破断音が響き渡る。

「え……?」

思わず胸元を強く押さえる。

痛みはない。

けれど、物心ついた時から私の魂に深く食い込み、絶えず私の生気と魔力とを吸い上げ続けていた『見えない何万本もの管』が、国境線を越えたという絶対的な物理法則によって、根元から一斉に引き千切られたのだ。


ブツンッ! ブブブブブツンッッ!!


連鎖的に弾け飛ぶ魔力の接続線。

祖国の城の噴水、街の井戸、広大な農地の用水路、そして巨大な防壁。

それら全てを稼働させていた水魔石群への『供給ルート』が、私の手元から完全に失われる。

それと同時に、今まで無理やり外へ引きずり出されていた私の莫大な魔力が、行き場を失って体内の奥底へと凄まじい勢いで逆流してくる。

ドクン、ドクンと心臓が力強く跳ねる。

干からびていた細胞の隅々にまで、清らかで冷たい水魔力が津波のように押し寄せ、パサついていた水色の髪に鮮やかな艶が戻っていく感覚。


「あ、ああ……っ」


肺の奥まで新鮮な空気が入り込み、私はあまりの身体の軽さにその場へへたり込む。

だが、その時だった。

切断された魔力の糸の断面から、強烈な『残響エコー』が私の脳髄へと直接流れ込んでくる。

それは、繋がりを絶たれた瞬間の祖国の魔石たちが上げる、断末魔の悲鳴。

視界がぐにゃりと歪み、目の前の暗い砂漠の景色が、一瞬にして華やかな王城の中庭へと切り替わる。

幻視だと分かっていても、あまりにも鮮明な光景。


『なんだ、今の嫌な音は!?』


幻視の中で、バルコニーに出たザイードが不快そうに眉をひそめている。

彼の視線の先にあるのは、王城の象徴である白亜の巨大噴水。

毎秒何十リットルもの水を天高く噴き上げ、その豊かさを誇示していたはずの巨大な水柱が、今、空中で不自然にピタリと静止している。


『キャアアッ!? ザ、ザイード様ぁ! お水が……お水が空中で凍りついていますわ!?』


アリスがドレスの裾を握りしめ、甲高い悲鳴を上げる。

違う。凍りついているのではない。

魔力の供給を完全に絶たれたことで、水を形成していたマナそのものが『崩壊』を始めているのだ。

空中に停止した水滴が、次々とサラサラの乾いた砂へと変質し、風に乗ってボロボロと崩れ落ちていく。


『おい、どうなっている!? 噴水管理の魔導師は何をしているッ!』

『で、殿下! 大変です! 噴水の心臓部にある特大の水魔石が……っ!』


ザイードの怒声に、駆けつけてきた魔導師が顔面を蒼白にして叫ぶ。

その言葉が終わるよりも早く。

限界まで魔力を搾り取られ、ただの脆い石塊と化した巨大な水魔石が、ピキ、ピキピキッという不気味な亀裂音を立て始める。


『まさか……砕けるというのか!? 離れろ、アリス!』

『いやぁぁっ! 私の綺麗なドレスが汚れてしまいますわ!』


――ドッッッガァァァァンッッ!!!


次の瞬間、凄まじい爆発音と共に、巨大な噴水が内側から弾け飛ぶ。

飛び散るのは水飛沫ではない。

完全に干上がり、細かい粉塵と化した魔石の破片と、無残に砕け散った白亜の瓦礫の雨だ。

美しかった中庭が一瞬にして砂煙に飲み込まれ、貴族たちの絶叫が夜空に木霊する。


『ゴホッ、ゲホッ! なんだこれは!? 街の方はどうなっている!』

『報告します! 街の井戸も、農地の用水路も、すべて水が完全に干上がりました!』

『防壁の魔石もです! 稼働率がゼロになりました!』

『馬鹿な……ッ! ルリアを追放した途端に、なぜこんなことが起きる!?』


砂埃に塗れ、完璧にセットされていた金髪を振り乱しながら、ザイードが信じられないというように目を見開く。

その顔に浮かんでいるのは、先ほどまでの傲慢さなど微塵もない、純粋な恐怖とパニック。


『ええい、騒ぐな! アリス、お前の魔法だ! お前の聖女の魔法ですぐに水を出して、魔石を満たせ!』

『む、無理ですわ! なぜか空中にマナが……私に集まってくるはずの魔力が、一滴もありませんの!』

『なんだと!? 役立たずめ、それでも聖女かッ!』


怒号、悲鳴、そして全てが乾ききっていく絶望の音。

私を散々虐げ、見下してきた者たちが、私が彼らに与えていたものの本当の価値に気づき、醜く慌てふためく様。


(……ああ。なんて、滑稽な光景なのかしら)


幻視がふっと途切れ、視界が再び夜の砂漠へと戻る。

先ほどまでいた護衛の馬車は、すでに国境の向こう側へと走り去り、闇の中に小さく消えようとしている。

私は熱い砂の上に座り込んだまま、ゆっくりと夜空を見上げる。

見渡す限りの星空と、身を焦がすような乾いた風。

何もない。水も、食べ物も、帰る場所も。

けれど、私の心の中には、今まで感じたことのないほど澄み切った静寂と、圧倒的な自由への歓喜が広がっていた。


「さようなら、私の地獄」


ひび割れた唇から、自然と笑みがこぼれ落ちる。

搾取されるだけの人生は、たった今、終わったのだ。

私はゆっくりと立ち上がり、重い足取りで、不毛の砂漠の奥へと一歩を踏み出した。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


ルリアのお返し(復讐)を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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