表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜  作者: はりねずみの肉球
第3章:【奇跡の証明】魔物襲来と無限の泉の誕生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/29

シーン3:【慈雨の祈り】「私はもう、誰の道具でもない。私の意志で、あなたを守る!」

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

赤。

どす黒く、ひどく生々しい赤色が、レオンの漆黒のマントを染め上げ、石畳の上へとポタポタと滴り落ちている。

その一滴一滴が、私の心臓に鋭い杭を打ち込むように激痛を走らせる。


「あ……いや……っ」


呼吸が浅くなり、視界がぐらぐらと揺れる。

子供を背後に庇い、左腕をだらりと下げたまま、必死に大剣を構え直すレオン。

彼の周囲には、もはや数え切れないほどの魔物たちが、涎を垂らしながら幾重にも取り囲んでいる。

防衛部隊は完全に分断され、誰も彼のもとへたどり着くことができない。

絶体絶命。

あと数秒もすれば、あの巨大なサソリのハサミが、あるいはゴーレムの無慈悲な拳が、彼の命を完全に刈り取ってしまう。


(私のせいだ……私が、あの水を出してしまったから)


絶望と罪悪感が、黒いタールのように私の内側を塗り潰していく。

祖国の地下室で、ザイードに言われ続けた呪いの言葉が耳の奥で反響する。

『お前は無能だ』

『何もできない、ただの役立たずだ』

『誰かの役に立たなければ、生きている価値もない』


そうだ。私は結局、無力なのだ。

誰かに守られなければ一日だって生きていけない、惨めな小鳥。

せっかく見つけた温かい場所すら、自分のせいで壊してしまう疫病神。

だから、私はここでただ泣き叫び、彼が死にゆくのを眺めることしかできない――。


『――君はもう、誰の道具でもない。君はここで、ただ君自身の幸せのためだけに、自由に生きていいんだ』


不意に。

泥沼のように沈みかけていた私の意識を、強く、温かく引き上げる声があった。

今朝、私を抱きしめ、涙を拭ってくれたレオンの言葉。

彼の猛禽類のような黄金色の瞳と、不器用なほどに優しい手の温もりが、鮮明に蘇る。


ドクンッ!!


その瞬間、私の胸の奥で、何かが激しく弾けた。

そうだ。私はもう、誰の道具でもない。

祖国のために、見栄のために、無理やり魔力を搾取される『ただの浄化係』ではないのだ。

この身体を満たしている、溢れんばかりの純粋な水魔力。

これは誰の所有物でもない。私自身のものだ。

ならば。


(この力を……私が本当に使いたいと願う、たった一つのことのために!)


「ルリア様!? だめです、危ないっ!」


私を庇うように押さえていたメイドたちが、悲鳴を上げる。

私は彼女たちの腕を、自分でも驚くほど強い力で振り払った。

「離して」という私の声は、ひどく冷たく、それでいて絶対に揺るがない熱を帯びていたはずだ。

メイドたちが弾かれたように後ずさるのを尻目に、私はバルコニーの手すりへと駆け寄る。


『キュルルッ!』


私の腕の中で、チクタクが私の感情の変化に呼応するように、背中の水色の棘を逆立てて高く鳴く。

チクタクの身体から、パチパチと青い火花のような魔力の粒子が弾け飛ぶ。


私は大理石の分厚い手すりの上に、躊躇うことなく両足を乗せた。

一歩でもバランスを崩せば、遥か下方の石畳へと真っ逆さまに墜落する、死の境界線。

凄まじい熱風が下から吹き上げ、私の水色のシフォンドレスと、長く伸びた髪を激しく空へと舞い上がらせる。

眼下には、王都を蹂躙する魔物の群れと、今まさに死の淵に立たされている愛しい人の姿。


「レオン様……ッ!!」


ありったけの空気を肺に吸い込み、私は喉が張り裂けんばかりの声で、彼の名を叫んだ。

戦場の喧騒、魔物の咆哮、金属の衝突音。

そのすべてのノイズを切り裂いて、私の声が一直線に中央広場へと届く。


『……ッ!?』


満身創痍で膝をつきかけていたレオンが、弾かれたように顔を上げる。

遥か上空、王城のバルコニーの縁に立つ私と、彼の黄金色の瞳が、真っ直ぐに交差した。

彼の瞳が、驚愕に見開かれる。

『馬鹿な、そこから離れろ!』と、彼の唇が動いたのが分かった。

私を心配して、怒っている。自分が死にかけているのに。


その顔を見た瞬間、私の内側に残っていた最後の迷いが、完全に消え去った。


「私は……無能なんかじゃない! 誰の道具でもない!」


叫ぶ。

世界中に響き渡るように。

私を虐げてきた祖国の愚か者たちへ、そして何より、自分自身にかけられていた呪いを完全に打ち砕くために。


「私の力は、私の意志で使う! 私は、あなたを……この国の人たちを、守る!!」


私はチクタクを胸に抱いたまま、両手を高く、天に向かって突き上げた。

その瞬間。


ゴァァァァァァァァッ……!!!


私の足元から、いや、魂の底から。

これまで何重にも鍵をかけ、無意識に抑え込んでいた『無尽蔵の水魔力』が、巨大な間欠泉のように大空へ向かって爆発的に噴き上がった。

それは、祖国で鎖に繋がれ、無理やり引きずり出されていた時の、あの内臓を抉られるような激痛とは全く違う。

熱く、心地よく、どこまでも澄み切った清流の束が、私の全身の血管を駆け巡り、指先から天へと一直線に立ち昇っていくのだ。


「あ……ああああっ!」


視界が、圧倒的な青い光に染まる。

私の身体を起点として発生した極太の魔力の柱が、砂煙に覆われた王都の空を貫き、分厚い雲の層へと突き刺さる。

空気が震える。

空間そのものが、私の放つ異常なまでの魔力濃度に耐えきれず、ミシミシと悲鳴を上げている。


『ギ、ギィィィッ!?』

『グオォォ……ッ!』


広場を埋め尽くしていた魔物たちが、上空から降り注ぐ恐ろしいほどの神聖なプレッシャーに、一斉に動きを止める。

レオンに振り下ろされようとしていた大サソリのハサミが、空中でピタリと静止し、ゴーレムたちが怯えたように後ずさる。


「ルリア……お前、その光は……」


眼下で、レオンが剣を取り落とすのも忘れ、天を貫く青い光の柱――その中心にいる私を、ただ呆然と見上げている。

周囲の兵士たちも、逃げ惑っていた民衆も、まるで時間が止まったかのように空を見上げている。


私の指先から放たれた膨大な魔力は、上空で急速に渦を巻き、真っ黒な雨雲を形成し始めていた。

ただの雲ではない。

一つ一つの水滴が、極限まで圧縮された高純度のマナを宿した、奇跡の雲だ。

チクタクが私の胸の中で『キュィィィィン!』と共鳴の鳴き声を上げ、その小さな身体からさらに濃密な青い光を放ち、私の魔力を増幅させていく。


(足りない……もっと。この乾いた大地を、すべて潤すほどの……!)


私は目を閉じ、さらに強く、深く祈る。

どうか、この過酷な砂漠で生きる心優しい彼らに、恵みを。

どうか、私に生きる意味をくれたあの人に、救いを。


パツンッ。

私の中で、何かの限界を突破する音がした。


「――降り注げ!」


私が両手を振り下ろした、その瞬間。

黒く染まった王都の上空から、数百年間この国が待ち望んだ『奇跡』が、ついに地上へと放たれた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


ルリアのお返し(復讐)を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ