男男
掲載日:2026/02/07
焦げた味のするインスタントコーヒーを主人は好んで飲んだ。あの味のどこがいいのかわからないのだけど、ゆっくりと舌で味わって、機嫌のいい猫みたいに目を細めて嬉しそうに笑いかけた。
「飲むか?」
「それはコーヒーじゃねえし、そんなの美味しそうに飲むやつの気がしれない」
「ここに飲んでるやつがいるんだが」
くつくつと喉の奥で笑う音が心地よく聞こえ始めたのはきっと、なにかの間違いだ。
こいつは俺が殺さなきゃいけない人種のやつで、こいつは俺にとって害悪でしかなくて、こいつはこいつはこいつは……。
黒が目の前を覆う。主人が立ち上がったのだ。
「考え事をしてるな」
さらっと前髪をかき分けられて主人の黒くて吸い込まれそうな瞳に見つめられる。細長い指はひんやりと冷たくてまるで血の通ってない人形のようだ。
「してねえよ馬鹿。近づくんじゃねえ」
「その生意気な口を今すぐに塞ぎたかったんだが残念なことに迎えがきた。大人しく待ってろ」
名残惜しそうに前髪から指を離すと、傷だらけの額に優しく唇を押し付けた。
「冷えよ」
「熱いくらいだ」
「死ねボケ」
「残念ながらまだ死ねない」
そう言って闇に溶け込んでいった主人の背中をじっと見つめた。胸のポケットに隠し入れている銀の短剣がやけに重たく感じた。




