拉致
私はじっと手を見ていた。
別に生活が苦しいわけではない。
ただじっと手を見ていた。
生命線はやっぱり太い。
いままで何度も生死の淵をさまよった。
それでも生きて帰ってきた。
今回も工場長のアジトに行っても帰ってこられた。
私は運命の神に見放されてはいない。
やはり生命線が太いからか。
工場長のアジトに行ってから1週間が過ぎようとしていた。
明日は休み。
たまには街にでも出かけようかと思う。
私は会社からスクーターで帰る。
途中私の前で白いバンが止まった。
なんだろう。
白いバンからは4人の男が出てきた。
私は囲まれ、白いバンに押し込まれる。
ヤバイ。
やはり事件に巻き込まれた。
私は手を後ろで縛られ、口を手拭いでふさがれる。
「あなた。工場長の手下なの?」
と私は言った。
でも相手にはわからないようだった。
男の一人が、手拭いを外す。
騒がれたら面倒とかで塞がれたままっていうのが、セオリーだけどいいのかな?
ふと疑問を感じた。
「騒がれたら面倒とかで塞がれたままっていうのが、セオリーだけどいいの?」
と私は言った。
「まぁそうだけど、なに言ってるのか気になったから」
と男は言った。
「あっそれはご丁寧に。あなた。工場長の手下なの?と言ったの」
と私は言った。
「手下じゃないよ」
と男は言った。
私は男たちの服を見る。
あれは特攻服。
黒のつなぎに、白字で文字が刺繍してある。
これが男の名前か。
早川早朝
「はやかわそうちょう」
と私は言った。
「おぉお前なんで俺の名前知ってるんだ」
と男は言った。
「いや。そこに名前が書いてあるから」
と私は言った。
「あぁそうか、でもこの早朝と書いて総長と呼ばせるのを、見抜くとはなかなかお前するどいな」
と男(早川総長)は言った。
「早川早朝ってもしかして悪玉菌具?」
と私は言った。
「おぉおめえ、、、なななんで、それがわかった。お前探偵か?」
と早川総長は言った。
「そうね。特段外れてないわ。あなたもなかなかの推理力ね」
と私は言った。
「おぉおうよ」
と早川総長は言った。
「ところで、なんで私捕まってるの?スクーターは」
と私は言った。
「あぁスクーターは、舎弟が後ろから乗ってきている。大丈夫だ」
と早川総長は言った。
「ところで私はどこに連れていかれるの?」
と私は言った。
「へっへっへっアジトだ」
と早川総長は言った。
アジト……、
裏社会。
「帰して」
と私は言った。
別に帰される事を期待してなかった。
むしろこれからどうなるのかのワクワク感がたまらなかった。
「いや。ゴメンな。あの黒金総長をおびき寄せるための餌なんだ。
しばらく付き合ってくれ。あっバイト代1日6000円出すから」
と早川総長は言った。
「なによ6000円って」
と私は言った。
「ごめん。安かった。おいお前ら、ちょっと金出せよ。なんだよ。大の大人が全部かき集めて3800円かよ」
と早川総長は言った。
「総長すんません。その千円はおかんが豆腐買ってきてって頼まれた奴なんで、それはムリっす」
と若い男は言った。
「そうか。すまんかった。
じゃあ8800円だ」
と早川総長は言った。
「わかったわ。とりあえず。逃げないから縄外しなさいよ」
と私は言った。
「まじで。まじで逃げない。本気?」
と早川総長は言った。
「本気よ。痛いのよ。結び目が……」
と私は言った。
「えっゴメン。すぐ外すわ」
と早川総長は言い、縄を外した。
私は体を起こし、裏からスクーターがついてきてるかどうか確認する。
だいじょうぶ。
ついてきている。
でもムダにエンジンをふかしている。
「それ新車なのよ。エンジンふかさないで」
と私は言った。
「すんません」
と私のスクーターに乗っている男は言った。
「しかし姉さん。俺らが怖くないんすか」
と早川総長は言った。
私は彼らを見回した。
ぜんぜん怖くない。
そうか……、
常に工場長を見ているから、怖くないんだ。
「私もずいぶん危ない橋を渡ってきたからね」
と私は言った。
「おぉー」
と早川総長を始め、その手下っぽいのが納得したようだった。
「それで、工場長が黒鉄総長なのね」
と私は言った。
「そうです、姉さん」
と早川総長は言った。
「それで勝ち目はあるの?」
と私は言った。
「姉さん。黒鉄総長のマブでしょ」
と早川総長は言った。
「マブって真正拳銃の事?」
と私は言った。
「ポリ用語のマブじゃなくって、愛人とか恋人って意味の」
と早川総長は言った。
「愛人?恋人?違うわ。ただの工場長の部下よ」
と私は言った。
「マジ。えっマジか。いやでも、普通に家に上がらんでしょ」
と早川総長は言った。
「そうかしら」
と私は言った。
私はよくよく考えた。
もしかしたら、ものすごく危険な……。
男と女的な展開もあったのでは。
そう思うと、急に恥ずかしくなってきた。
ちょっとまて、なんで恥ずかしい。
工場長のシャワー後の姿が急に脳裏を浮かんだ。
「姉さん。なに紅くなってるんすか」
と早川総長は言った。
「紅くなんて……」
と私は言った。
私はバックミラーで顔を確認する。
耳まで紅くなっていた。
もしかして、
私は……
そう思った瞬間。
「総長着きました」
と声がした。
「姉さん。アジトにつきました。案内します」
と早川総長は言った。
私は早川総長のあとをついていく。
そこは倉庫街の古びた倉庫だった。
倉庫の前には50台ほどのバイクが止まっていた。
もしかして私を人質に50対1で戦うっていうの。
いや工場長がわざわざそんな危険を犯すはずはない。
私はただの会社の部下。
そして秘密を探る女。
消したほうがいいに違いない。
私はそう思った。
早川総長に一斉に礼をする若者たち。
この早川総長というのは、ものすごく強いのか。
好奇心を抑えられず
「あなたが総長になったのは喧嘩」
と私は言った。
早川総長はふっと笑い。
「おい。お前ら用意しろ」
と早川総長は言った。
(はい)
男たちが声を合わせる。
しまったマズい事を聞いてしまったか。
いつもそうだ。
私の好奇心は、私を危機に招き入れる。
きっと私は不幸を呼ぶ女なんだ。
「用意しました」
と声がする。
あれはサイダー?
「おぅ見てろよ」
と早川総長は言い、サイダーを一気飲みしていく。
途中で(ゲプ)となりながら、30秒ほどで一気に飲み干した。
「これだ。これがチームの中で一番俺が早いんだ」
と早川総長は言った。
周りから拍手が聞こえる。
「やっぱ総長の一気飲み早いわ」
「あの腰に手が漢だわ」
「今日記録更新してね。30秒だぜ」
そんな声が聞こえた。
私はとんでもない所にきてしまったと、
今更ながらに後悔していた。




