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工場長の家にいってみた

いま工場長はシャワーを浴びている。

工場長の家に二人っきり。

心臓の鼓動がいつになく大きい。


冷静に考えろ!栗須……なぜこうなった。


話は昼休みにさかのぼる。


工場長とは割と普通に話せるようになった。

保護活動のない工場長は会議室でSNSをチェックしていた。

私も昼ご飯が終わり退屈なので会議室でグダグダしていた。


「そういえば、工場長のSNSってバズりませんよね」

と私は言った。


「バズ……。バスケットボール的ななにかか?」

と工場長は真顔で言った。



「バズというのは、その投稿がめっちゃ人気になって、あちこちに拡散されて、いいねとかめめっちゃ付くことですよ」

と私は言った。


「そのバズとやらになると、どうなる?」

と工場長は言った。


「保護ネコ活動なら、引き取り手が増えるんじゃなんですかね」

と私は言った。


その瞬間、工場長の目が光った。

と思ったらオデコだった。


「甲南。どどうやったらバズとやらになる」

と工場長は言った。


「そうっすね。可愛い猫動画とかバズりやすいですよ」

と私は言った。


「しかしな。俺動画撮るの下手だしな」

と工場長は言った。


私は過去の工場長の投稿動画を見直す。

たしかに下手だ。

さすがにしっぽだけの動画はなくなったが、

動画はぶれまくる。

オモシロ要素もなにもない。

悪いがクソ面白くない。


「そうっすね。動画……、クソ面白くないっすもんね」

と私は言った。

しまった。

つい本音を言ってしまった。


「す、すいません……」

と私は言った。


「いいんだ。そう正直に答えてくれるのは助かる」

と工場長は言った。


「よかったら、私が撮り方の指導をしましょうか?」

と私は言った。


「そうか。それは助かる」

と工場長は言った。


そして今、工場長はシャワーを浴びている。

……ちょっとまて。

なぜだ。

なぜ猫動画の指導がシャワーにつながる???

冷静に思い出せ。


「じゃあ……どこでします」

と私は言った。


「家だな」

と工場長は言った。


「家ですか……、うっすわかりました」

と私は言った。


「今晩は暇か?」

と工場長は言った。


「空いてますよ」

と私は言った。


「よし、じゃあ晩飯を御馳走しよう。じゃあ帰りな」

と工場長は言った。


「わかりました」

と私は言った。


この時点で何も私は考えていなかった。

ただ猫動画の撮り方を教える。

それだけだったのに。

なぜ工場長はシャワーを浴びているんだ。


思い出せ。私……。



17:08

私は工場長の大型バイクをスクーターで追っかける。

工場長のバイクは商店街の入口で止まった。

ここが家なのか?


「ついてきてくれ」

と工場長は言った。


私はうなづいた。

工場長はよそ見をせず、一軒の店に近づく。

精肉店。

まさかヤバイ肉を扱っている裏稼業の肉屋か。

私は背筋に寒気を感じた。


「チキンカツ2枚とコロッケ4つ。

甲南チキンカツとコロッケ食えるよな」

と工場長は言った。


「はい」

と私は言った。


「今揚げるからちょっと待っててな」

と精肉店の店主は言った。


なんだ……。

普通の肉屋か。

イメージとは違ったな。


「よく来られるんですか?」

と私は尋ねた。


「そうだな。ほぼ毎日ここのチキンカツとコロッケと食ってるな」

と工場長は言った。


「もう10年くらいになりますね」

と店主は言った。


「そうだな」

と工場長は言った。


10年間……。

長すぎる。

その間ずっとこの男はチキンカツとコロッケを食っていたというのか。

私は工場長の狂気性の一部を垣間見た気がした。


工場長はチキンカツとコロッケをバイクの荷物入れにいれ、ふたたびバイクを走らせる。

バイクのうなる音が、元暴走族総長の存在感を示していた。

元暴走族総長が毎日チキンカツとコロッケか……。

私は感慨深いものを感じた。


そこからバイクは埠頭の倉庫街に向かう。

ゴロツキの定番のたまり場。

倉庫街。

そうか私は今日、裏社会を見せられるのか。

私は覚悟を決めた。


バイクは古い倉庫の前で止まった。

工場長はシャッターを開ける。


「入ってくれ」

と工場長は言った。


「ここは?」

と私は言った。

私は知っている。

ここがアジトだという事を。

しかし工場長の口から、その答えを知りたかったのだ。


「あぁすこし変わってるだろう。実は俺の家だ。ほら保護猫してるだろ。普通のマンションとかダメなんだ。それで困ってる時に、市役所の広報を見たら、倉庫の競売物件が出てて。500万円で落札した。もともと簡易な事務所もついてたからトイレもあるし、自分でシャワーもつけて、ベッドも入れて家にしたんだ」

と工場長は言った。


倉庫の中はがらんとしていた。

ところどころ丸太のようなものが転がっている。

そして端っこには鉄パイプで何か骨組みのようなものがあった。

端っこの方に事務所らしきスペースがあった。


私たちが倉庫に入ると、猫が5匹近くに寄ってきた。

工場長にはなついているようだ。

私は盛んにニオイを嗅がれている。


「ちょっと待っててくれ」

と工場長は言った。


「はい」

と私は言った。


工場長はいきなり服を脱ぎだした。


「ちょっと、なにしてるんすか」

と私は言った。


「あぁすまん。日課のトレーニングだ。50分ほどで終わる。

その間、その子らと遊んでおいてくれ」

と工場長は言った。


「わかりました。ところでどんなトレーニングしてるんですか?」

と私は尋ねた。

私も多少体は鍛えている。

工場長のあの肉体がどんなトレーニングでできているかが気になった。


「普通だぞ。懸垂とディプスを50回。スクワットを100回。

あとは3分のシャドー、1分のリカバリーを10セット。

それだけだ」

と工場長は言った。


「そうっすか」

と私は言った。


私は驚いた。

シンプルながらもめちゃくちゃハードなトレーニングじゃないか。

私は工場長のトレーニングを見守ることにした。


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