SNSに投稿したい
美容室でチラ見したファッション誌に
『人に見られることを意識するとキレイになる』
そう書かれていた。
しかし生まれてから、人の視線を感じることなんて、これっぽっちもなかった。
しかし今私は視線を感じている。
私はもしかして誰かに狙われているのかもしれない。
いったいなぜ。
工場長に深く入り込み過ぎた?
それとも誰かに惚れられた?
心臓の鼓動が早くなる。
今日……
ここで終わるのかもしれない。
いやちょっと待てよ。
ドキドキというと。
恋?
いやいや誰に?
ないない。
では動悸?
私はインターネットを検索する。
心臓 ドキドキ 原因
カフェインやアルコールの過剰摂取 ないない。
緊張や気分の高ぶり ないない
喫煙 ないない
不整脈、狭心症、心不全、甲状腺機能亢進症
私……
この歳でもう余命が短いのだろうか。
私は手相を見る事にする。
生命線は……
太っ!!
どうも手相的には死ななそうだ。
では……
なんだ。
私は辺りを見渡す。
すると工場の2階がきらっと光った。
やばい。
スナイパー。
私はさっと身をかがめる。
よけれたか?
いや何も起きない。
私は物陰に隠れて、2階の方を見る。
するとじっとこちらを見つめる工場長がいた。
あぁやっぱり裏社会の人間で、私を監視しているんだ。
そう思った。
(かんかんかんかん)
工場の階段を駆け降りる音がする。
遂に来た。
今日消されるんだ。
まぁいいか。
人生悔いは……あるのかないのか。
しまった。
冷蔵庫のプリン。食っておけばよかった。
「甲南……」
と工場長の低音ボイスが響く。
来た。
私はどう調理されるのだろうか。
「ど・う・し・た・ん・で・す・か」
と私は言った。
緊張のあまり、音声付き自動販売機みたいな声になっている
「実はな。アカウントを取りたいんだ」
と工場長は言った。
アカウント?
どういう事だろう。
そうか私は聞いたことがある。
裏社会の人間はSNSなどのアカウントを多量に作り、それで犯罪行為を行うと。
これはきっと始末する前に、アカウントを作らせて、用済みになってから消されるんだ。
という事は、とりあえずは命拾いした。
しかし、ここでアカウントを作れば、犯罪の片棒を担がされることになる。
それは嫌だ。
「ア・カ・ウ・ン・ト・と・は」
と私は言った。
やばい、余計なことを聞いてしまった。
消される。
いや……でも聞いておけば、知らなかったで済むよな。
これは言い訳に使える。
「いや。俺保護ネコの活動をしてるんだが、引き取り手を知り合い経由で探しているから、いまいち広がらなくてな。それで今SNSで保護ネコの引き取り手を探したりできるそうじゃねぇか」
と工場長は言った。
私は少し意味が分からなかったが……
「そうですね。たしかに保護ネコ活動とかされてますよね」
と私は言った。
「そうだろ。でもな。俺SNSのアカウントとか作ったことがなくてな。どうしたらいいのかわからないんだ」
と工場長は言い、スマホの画面を見せてきた。
どうも認証で手間取っているようだ。
とりあえず認証くらいならと思い私は手順を説明する。
「これでメッセージが送られてくるので……」
と私は言った。
「そうか。わかった」
と工場長は言い、戻っていった。
よかった。首の皮一つでつながった。
今日から、食べたいものはその日のうちに食べておこう。
死んでも後悔しないように。
私はそう誓った。
それからしばらく工場長からのコンタクトはなかった。
一週間ほどした時、朝に会議室で工場長と二人っきりになってしまった。
沈黙が流れる、
気まずい……。
「アカウントどうでした」
と私は思わず言ってしまった。
天気の話題とかにしておけばよかった。
後悔する私。
でも今日は冷蔵庫には何もない。
後悔はないはず。
「よく聞いてくれた。実は甲南に相談したかったんだ」
と工場長は言った。
私は多少躊躇したが、
「どうされたんですか」
と私は言った。
「実はな、アカウントを作ったんだが、フォロワーが増えないんだ。
タグをつけて、動画も投稿したんだが。
もちろんプロフィールも入れたぞ」
と工場長は言った。
「では。それ見せてもらっていいですか?」
と私は言った。
「あぁ頼む」
と工場長は言い、SNSのアカウントの画面を見せてくれた。
まずプロフィールの画像に驚いた。
強面の坊主頭が必死で作り笑いをしている。
そしてアカウント名が保護ネコおじさん~助けたい命
プロフィールの文章が、保護ネコしてます。助けたいです。命を…
そして極めつけが、投稿した動画。
猫に逃げられているのか、しっぽしか写ってない。
猫の写真はピンボケでホラーにしか見えない。
正直、これでフォロワーがつくほうが奇跡に思えた。
でもフォロワーを見ると、5件ほどフォロワーがついている。
私はフォロワーをチェックする。
1件目 副業しませんか?
2件目 副業紹介します
3件目 多重債務の方へ
4件目 私のエッチな姿を…
5件目 お金配りしてます10万円差し上げます
なにこのゴミ垢?
私はこのツッコミどころ満載のアカウントにどう突っ込めばいいんだ。
どうしろと……
私は口頭で指摘すると、命の危険を感じるので、とりあえず工場長のアカウントをメモし、
そのアカウントを添削し、改善点を明記した上でメールを送ることにした。
もちろんいけない理由を角がたたないように時間をかけて考えた。
そうして1週間後。
工場長のアカウントは、普通の保護ネコアカウントに生まれ変わった。
アカウントに地域名を入れる事によって、地域に根付いた層がフォローしてくれた。
工場長の顔の写真は、
「猫ちゃんのアカウントなので猫ちゃんを入れたほうがいいと思います」
と柔らかく調整した。
工場長が強面なのでとは、恐ろしくて言えなかった。
そこから順調にフォロワーが増え続け、1か月後には300人のフォロワーを抱えるアカウントに成長していた。
よかった。
これでまた首の皮がつながった。




