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黄昏の国で吸血鬼は嗤う  作者: 惰浪景


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第21話

 オークの宝の山まで無事に辿り着いたネクレシア一行。

 シエナはその宝の山の前で真新しい黒と真紅を基調とした侍女服をひらひらと揺らしていた。


「いいわ、とても似合ってるじゃないの」

「そう、ですか?」


 膝下までのロングスカートと肩までを覆う黒い外套。

 そして頭に乗せた小さなヘッドドレスがささやかな気品を漂わせていた。


「すごくいいですよ!」


 商隊の仲間の遺品がないか物色していたクレアも、顔を上げて親指を突き立てる。

 

 二人に褒められたシエナは頬を赤らめて俯いた。

 

「あった!!!」


 直後、突然大きな声をあげたクレア。

 その手には持ち手に複雑な紋章が刻まれた小さなナイフが握られていた。


「良かった……」

「それが、お仲間の……?」

「うん、うちの商隊のリーダーの家宝なの」


  クレアはそのナイフを大事そうに胸に抱え込む。

 そして、ネクレシアの方へと頭を下げた。


「ネクレシア様、何から何まで、本当にありがとうございました」

「対価は、しっかりと求めるわよ」

「対価ですか……?」


 命を救って貰ったばかりか、遺品を持っていくことも許してくれた。

 ――そのお礼なら血でもなんでも差し出すわ。


 クレアは背中を向けて、服をはだけさせると肩筋を露出させた。


「美味しいかはわかりませんが良かったら……」


 クレアの献身を目にしたネクレシアは、つまらなさそうにため息を吐き出す。


「どうして、まずそうなヤツはみんな自分から血を差し出してくるのかしらね……」

「ま、まずそう……?」

「えぇ、今のあなたの血はまずそうで要らないわ」

「そうですか……では、この借りはいつか必ず」

「期待しているわよ」


 ――まずはこの吸血鬼が何を喜んでくれるのかじっくりと観察する必要があるわね。

 商人の意地と誇りに賭けて、心の底から喜んで貰えるお礼をしてみせる。


 クレアはそう決意した。


「それでは、シルヴァレンに戻りましょうか?」


 いくつかのお金になりそうで、運びやすいモノを見繕ったシエナが立ち上がる。

 オークも倒したしあとは帰るだけ。


 ――討伐報酬に加えて、武具も買い取って貰えばしばらくはお金には困らないんじゃないかな。


「私もシルヴァレンで一度護衛を雇いたいので同行させてください」


 クレアとシエナが満足気な表情で帰りの支度を始めたその時。


「ちょっと、待ちなさい」


 ネクレシアが“待った”をかけた。

 シエナとクレアは顔を見合わせると、二人揃ってネクレシアの方へ顔を動かした。


「あなたたち、まさかこのお宝の山を置いて帰るつもり?」

「そんなに持てないですよ……」

「一応、街道沿いに私たちの馬車はあると思いますけど……」

「馬車に乗せるわよ!」

「馬はオークに殺されて居ませんよ……」


 ネクレシアは、自分の所有物となった物を全て持って帰れなければ気が済まなかった。

 しかし――運ぶ手段がない。


 そのことに気づき、不満そうに頬を膨らませる。


「シルヴァレンに帰ったら、馬車を借りましょう?」


 シエナがやんわりと諌める。


「ここまで往復しているうちに、誰かに取られたらどうするのよ」


 しかし、ネクレシアは拗ねたようにプイッと横を向く。

 そして――ふと何かを閃いたのか、はっと顔をあげた。


「そうだわ……」


 ――ネクレシア様がこの表情をすると、碌なことにならないんだよね……

 何やら愉快そうに瞳を細めるネクレシアにシエナの脳裏を嫌な予感が走った。


「馬車を引く役目の“できる奴”を連れて来ればいいのよ」

「そ、それはそうですけど……」


 どうやって、ここで馬を調達するのか?

 クレアが困惑した声を上げる。


「そうと決まれば、これを全部、馬車に積み込むわよ!」

「何に、馬車を引かせるんですか……?」


 シエナが恐る恐る尋ねる。

 ――馬ではないことはわかるんだけど。

 ネクレシア様のことだから、あの飛び回る槍にでも馬車を引かせようとしてるのかも……

 

 細かい力加減ができないと言っていた槍。

 ――そんな事故が前提の馬車、絶対に乗りたくないなぁ。

 

 シエナは心の中でそうぼやいた。


 だが、ネクレシアの回答はシエナの予想したものでは無かった。


「食べては寝てるだけの暇そうなゴロツキに心当たりがあるのよ」

「ゴロツキ……ですか?」

「山賊とかこの辺にいましたかね?」


 “ゴロツキ”と聞いて賊を思い浮かべたクレア。

 それに対してシエナの嫌な予感はどんどん増大する一方だった。


 ――絶対、ヤバい奴だ。


 吸血鬼の友達とか出てきたらどうしよう……


 シエナがそんな不安に押しつぶされそうになっていた時。

 洞窟の向こうから仄かに光が差し始めた。

 

 歩みを進めるごとに、光は徐々に大きくなり――

 三人はついに青空の下に出たのだった。


「やっと出られた……!」


 クレアがしばらくぶりの太陽の光に眼を細める。

 その頬に静かに一筋の涙がつたう。


「良かったですね……!!」

「えぇ!」


 開放感に満ちた二人の抱き合うような喜び。

 対して――


「それで馬車はどこにあるの?」


 ネクレシアは平常運転だった。


「あっちの街道を進んだ先にあると思います」

「早く行くわよ」


 クレアたちが感傷に浸る間もなく、ネクレシアはずんずんと先を進み出す。

 クレアとシエナは苦笑を浮かべながらその後を追った。


 しばらく街道をシルヴァレンとは反対側に進んだ先に、その馬車はあった。

 荷車の上に幌がついた簡素なもので、白い布には赤黒いくなった血がべっとりと付いていた。

 

 中を覗き込めば、燻製やドライフルーツなどの保存食が無惨に食い散らかされていた。


「ちょっと掃除すれば、オークの宝は全部乗るわね。シエナ」

「はい」

「掃除してもらえるかしら?」

「かしこまりました」


 シエナは荷台に乗り込むと、いそいそと動きだす。

 

「クレアと私は洞窟と馬車を往復して、宝を積み込むわよ」

「あ、はい」


 ――そりゃ、人手があれば使うような人だよね。

 また洞窟に戻らねければならないと悟りとぼとぼと歩きだすクレア。


 そして――


 登り切った太陽がゆっくりと高度を落とし始めた頃。


 血のついた幌は取り払われ、むき出しになった荷台には、剣や鎧、衣服、貨幣などが山積みになっていた。


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