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黄昏の国で吸血鬼は嗤う  作者: 惰浪景


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第17話

 ネクレシアに向けて必死に謝罪を繰り返すオークキング。

 シエナとクレアは状況が読み込めず、顔を見合わせた。


 ――時は遡り。



 洞窟の向こうから聞こえる声の主を助けようとシエナが駆け出したあと。

 ネクレシアは気だるそうにため息を漏らした。


「どうして、顔も知らない同族を助けようと思うのかしら」


 ぼんやりと呟き、首を傾げる。

 オークキングを倒せば、群れは瓦解する。

 恐慌状態になったオークの群れから脱出するのなんて容易なのに――


 何故、わざわざ危険を犯すのか。


「本当に度し難いわね、人間は」


 まぁ、下僕にしたからには面倒は見ないといけないわね。

 ネクレシアは胸の奥でそう決意を固め、シエナが行った道を辿り始めた。

 

 しばらくして。


「あら?」


 突如立ち止まったネクレシアの目の前では、洞窟が二つに分岐していた。

 

「あの子ったら、どっちに行ったのかしら?」


 分かれ道の入り口をじっくりと観察するが――

 冷たい岩肌と地面があるだけで、目印らしきものは特にない。


「私が追いかけてくることを期待してたんじゃないの?」


 それぐらいの打算はあって行動したと思ったのだけど……

 ネクレシアは困惑し、眉をひそめて唸る。


 そしてふと――閃いた。


「シエナは夜目が効かないから、分岐していることに気付かなかったんだわ!」


 目印がない理由はわかった。

 しかし、右と左、どちらに行けばいいのか。


 それは結局分からない。


「まぁ、こういう時は勘が一番だわ、右ね」


 こうしてネクレシアはシエナが進んだ左側ではなく右側へと進んだのだった――

 

 進んだ方向を間違えた。

 そのことにネクレシアが気付いたのはさらにいくつかの分岐を過ぎたあとだった。


「グギャァァアアアア!!」


 オークたちの断末魔が洞窟を駆け抜ける。

 洞窟の岩肌はオークの血で赤く染まり、無数の死体が散乱していた。

 

 そこでネクレシアは思ったのだ。


 ――シエナ一人でこんなオークだらけのところを進むのは厳しいのでは?と。


「うーん、困ったわね……」


 戻ろうにも、道を覚えていない。

 適当に前へ前へと進んでいたネクレシアは――


 道に迷っていた。

 

 こうしている間にも暗い洞窟でシエナが助けを待っているのだ。

 そのことがネクレシアに僅かな焦りを与える中。


 ネクレシアは突如、大きく開けた空間に出た。

 視線の先では今までのオークよりも遥かに大きい巨体が目を見開き、こちらを見ている。


「あら?オークキングじゃないの」


 ――丁度いいわ、ちゃちゃっと片しましょう。

 ネクレシアがそう思って槍を射出しようとした。


 ――その瞬間。


「ま、待ってクレ!!!オレたちはアンタに従う!だから殺さないでくだサイ!!」


 両手を前に突き出し、命乞いを始めたオークキング。

 彼がオークキングにまでなったのは強者の気配を避け続けたからだ。

 だからこそ、目の前の少女から溢れ出る“圧倒的な魔の気配”を敏感に察知できた。


 敵う相手じゃない――


 それを悟ったオークキングは、生き残るため、必死に言葉を搾り出す。

 

「あなた達みたいな下僕は要らないわ」


 ネクレシアは冷ややかに言い放つ。

 その声には知性も品性も欠いた存在への軽蔑がこもっていた。


 それでもオークキングは食い下がる。


「に、荷物もちデキル!力仕事、デキル!俺たちの宝!も持っていて良い!」

「宝?」

「そうデス!!ここを通ったニンゲンから奪った物、沢山ある」


 そう言ってオークキングが指し示す指の先へ視線を向けた。

 襲った冒険者や商人のものだろう。


 そう思われる、剣や槍などの武具、鎧や衣服が乱雑に積まれていた。

 女物の服も何着かあり、このオークの群れがどれだけの人を殺めたのかがよくわかる。


「これ、全部貰っていいの?」

「もちろんデス!!全て貴女に捧げマス!!」

「ふーん……」


 シエナに合いそうなサイズのものもいくつかあるし、冒険者がギルドへ持っていけば相応の金にはなるだろう。

 オークキングは殺すよりも奴隷にして、こき使う方が後々楽になるのでは?

 

 それに――この宝の山をシエナと自分で運ぶには人手が足りないわ。


 ネクレシアは心が次第にオークキングを生かすという選択へ傾いていった。


「いいわ、ペットとしてぐらいは使ってあげる」

「ありがとうゴザイマス!!!」

「それで、洞窟の中で逸れた下僕を探しているのだけど、手伝って貰えるかしら?」

「もちろんデス!!!」


 オークキングは生きている仲間を呼び寄せ、洞窟の中の人間に手を出さないように命を下す。


「下僕は助けを呼ぶ声の元へ行ったのだけど、心あたりは?」

「ニンゲンのメスを一匹捕まえてたノデそこかもしれマセン」

「案内しなさい」

「ハイ!」


 そして。


 案内された先でオークリーダーに首を絞めあげられるシエナが目に入った瞬間――

 

 ネクレシアの表情から温度が抜け落ちた。

 背後の虚空から放たれた槍が目にも止まらぬ速さでオークの腕を穿つ。


 それを見たオークキングが慌ててネクレシアの配下に手を出したオークリーダーに制裁を加えたのだ。


 ――そして時は戻り。



「ドウカ、ドウカ……!お許しを!!!!」


 地面に頭を擦り付け、必死に許しを乞うオークキング。

 その哀れな姿をネクレシアは凍えるような視線で見下し続けた。


「許さないわ」


 一片の情さえも感じさせない冷たい宣告。

 その一言に、オークキングの顔色が青ざめる。

 

 刹那――


 暗闇から飛来した二本の槍がオークキングの腕を撃ち抜いた。

 巨体が吹き飛び壁に叩きつけられる。

 そのまま槍は岩肌に突き刺さり、オークキングを磔にする。


「さて――どう殺してあげようかしら?」

「ヒィ!どうかお許しを!!」


 ゆっくりと足音もなく近づいてくるネクレシア。

 その無音の一歩ごとにオークキングの顔が引き攣った。


「待っていただいても良いですか!!」


 それに、待ったをかけたのはクレアだった。


「なに……?」


 邪魔をするな、そう言いたげな視線がクレアへ降り注ぐ。

 しかし、クレアはその圧に怯まず強い目でネクレシアを見返した。


 ――その瞳を憎悪で燃やしながら。

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