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第4章 消えたNaomi

 夏休みが終わった。この世で一番憂鬱な日と言えば、日本中の小学生、中学生、高校生は、9月1日と答えるであろう。Kynoにとって、9月1日は一番嫌いな日だった。また、この憂鬱な日々が年末まで続くのである。17年後には世界は滅びるというのに、勉強をしなければならない。なんだが、それを理由にだらだらと無気力な日々を過ごしていた。高校も地元の試験を受ければ受かるような高校に行くつもりだった。そもそも、勉強は嫌いだったし、今やっている勉強がいったい将来何の役にたつのか、さっぱり想像できなかった。まだ、残暑が残っており、2階の自分の部屋は勉強をまともにできるような温度ではなかった。


 夏休み後の登校初日の日は、かなり眠かったが学校にはとりあえず行った。男子はみんな日焼けして真っ黒だった。久しぶりに、クラスメート全員の顔を見た。が、その中にNaomiの顔はなかった。Naomiとは昨夜一緒にピザを食べたり、最後の宿題を手伝ってもらったりしたばかりだった。昨日の様子だと、彼女が病気で休むとは考えられなかった。しかも、出欠のときもNaomiの名前は呼ばれず、彼女の机があった場所には、別の女子が座っていた。一体、どういうことなのかKynoにはさっぱりわからなかった。クラスの誰もが、それについて何も言わないし、何も感じていないようだった。かなりクラスの中では目立つほうの女子だったし、友達も多い子だったので、そのことが彼には理解できなかったが、教室内の空気では、彼女は最初からいないことになっているという感じだった。とりあえず、下校時に親友のJayを捕まえて、Naomiのことをそっと聞いてみたが、Jayは不思議そうな顔をしていた。

 

 Jay「Naomiって誰だよ。しかも、夏休み前にはそんな名前の女子がいたって、なんかお前どうしたんだ?」

 

 Kyno「おいおい、冗談だろ。いつも3人でつるんでいたじゃないか。そういうの気味悪いからやめてくれよ。」

 

 Jay「いや、お前こそ気味悪いのだけど。そんな女子いなかったし、お前どうかしたのか?大丈夫?なんか、夢とかテレビで見た何かとかと、現実がごちゃごちゃになっているのじゃないか。」

 

 どうやら、Jayは真面目に言っているようだった。そもそも、彼はそんな気味の悪い冗談を言うような性格ではない。かなり動揺してしまったが、その話はとりあえず終わらせたほうがよさそうだった。

 

 Kyno「いや、なんでもない。この話は忘れてくれ。なんか、混乱している。」

 

 結局、Naomiのことは全く無かったことになっているようである。あのJayが自分を騙しているとは思えないし、クラス全体で、しかも先生まで含めて、自分一人をどっきりにかけているとも思えなかった。ただ、そういえば、あまり気にもしなかったが、他にもいろいろと少し以前とは違う風景が学校で見られた。校庭の西の端にあった小さな木が、いつの間にか無くなっていた。夏休み中に伐採されたのだろうと、勝手に思い込んでいたのだが、これも何か気になる。あまり目立たない木で、いったい何の木かさえ知らなかったが、無くなるとやはり気になるものである。担任の先生の様子も以前とは何か違っていた。何が具体的に違っているのか、はっきりとは明言できないが、何かが違うような気がした。夏休み前の先生とは話し方も表情も、顔のほくろの位置も同じだが、なぜか別人のような気がした。あまり気にもしなかったが、何か全体的に靄がかかったような違和感がずっとつきまとっていた。それ以来、なぜか周囲の様子や、人々の様子などが異様に気になってきた。通学路を歩いて自宅に戻る間も、いろいろと周囲を気にしながら歩いた。何かがいつもと違うのである。そう、何か全体的に、いろいろな風景、景色の色がほんの少しだけ薄まったような感じがするのである。ただ、それを誰かに言ったところで、何がどうなるわけでもないし、頭がおかしいと思われるだけだろうと思った。

 

 なぜか、その日の帰宅途中で、変な出来事が起こった。普通に徒歩で自宅のほうへ歩いていたのだが、まわりに見える人も車も一瞬全てが止まって見えた。それと同時に空から大きな破裂音が聞こえてきた。空を見上げると、遥か彼方に何かが飛んでいるのが見えた。目を凝らしてよく見ると、それは巨大な龍のようだった。しかも、その龍は頭が九つもあった。確かに、この辺りの地方では、九つの頭を持つ龍の伝説があったが、まさか実在しているとは思いもよらなかった。ただ、その龍以外のものは、人も物もピタリと止まっていた。前のほうを歩いていた中年の女性、自分の横を通り過ぎようとしていた車、空を飛んでいた何羽かの鳥、目の間を横切ろうとしていた猫、全ての動きが止まり、そして音も止まった。そういえば、子供のころから、何度か同じようなことが起こっていた。まわりの世界の動きが一瞬全て止まり、数秒後にはまた何事もなかったように動き出すのである。そして、それが今日も起こった。まわりを見渡したが、動いている人や物は無く、自分だけが動いている。まるで、2次元の背景の前で自分だけが演技をしているようなそんな感じである。そして、はるか前方に目をやると、Naomiの背中が見え、そして彼女はこちらに振り向いた。その世界では、KynoとNaomiだけが動いている世界だった。Naomiはこちらに振り向いて、Kynoをじっと見つめていた。Naomiの唇は全く動かなかったが、彼女の声が聞こえた。聞こえたといっても、彼の耳に物理的な空気の振動としての声音が届いたのではなく、彼の心にNaomiの言葉が響いたのである。Naomiはただ一言、彼に言った。

 

 Naomi「私は、Kynoちゃんのなかに存在している実体のない存在。私は消えたわけじゃない。Kynoちゃんがその気になれば、私はいつでも戻ってこられる。もし私を必要としているのなら、祈って。」

 

 一体、今日という日はなんなのだろうか。いろんな理解できないような出来事が次々と起こり、精神的にかなりしんどいと思った。そして、ほんの数秒間の静寂のあと、また世界が動き始めた。何事もなかったかのように、空の鳥は飛び続け、前に歩いていた女性はそのまま歩き始めた。空の彼方を再度見上げたが、九つの頭を持つ龍は姿を消していた。そして、やはりというか、Naomiの姿は跡形もなく消え去っていた。


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