5_魔族の食事は中々ユニークですね
私はレヴィウスの城の使用人用の寝室に泊めて貰えることになった。
「貴様のような人間を泊めることなど今まで一度も無かったというのに……まったく……。レヴィウス様の慈悲に感謝するのだぞ、人間」
「はい! レヴィウス様は私が出会った中で一番お優しい方です!」
クリムトはブツブツ言いながらも寝室を案内してくれた。
部屋の中にあるのはベッドとクローゼットと机のみ、比較的シンプルな内装だといえるだろう。でも私にとっては充分だった。
(この城自体がすごく豪華なところだから、使用人用の部屋もすごくいいところだわ。私の住んでた部屋よりずっと綺麗。ここが魔族の城でさえなければずっといたいくらいだったな……)
そんな風に考えて部屋を見回していると、クリムトがクローゼットを指しながら指示を出す。
「人間。ここには人間用の衣服などない。あるのは魔族用の服だ。あるだけましだと思えよ」
「はい! 人間の身で魔族用の服を着られるなんて感激です! 感謝致します~!」
「作業は明日の朝説明する。……といっても、人間ごときが仕事の足しになるとは思えないが。役に立たなかったらすぐにレヴィウス様に報告させてもらうからな。あと、勝手に城の中を歩くな。私の許可なく勝手に歩いたら、その時点で部屋から出さないようにするからな」
「了解です! ありがとうございます~!」
クリムトは去って行った。
部屋に一人になり、私はクローゼットの中をちらりと見てみる。
(着替えがある。でも……大きいわ。これ、180センチくらい身長がないと普通に着られなさそう。レヴィウスもクリムトも長身だったし、魔族は基本的に背が高いんだろうな)
私の身長は160センチ程度なので、サイズが合わない。
でも、私は要求出来る立場ではない。腕まくりや簡易な裾上げをして乗り切ることにした。
私はベッドの上でため息をつく。
(本当は城の中を歩きたかったな。人間界に戻る方法がどこかに書いてあるのかもしれないし。
でも、クリムトが警戒してる状況で勝手に城の中を漁ったら、ほんとうに部屋から出して貰えなくなるかも……。今は歩き回るのは危険だわ)
私は目をつむり、布団を被った。
(とりあえず生贄で殺されるのは回避出来たとはいえ、まだまだ危険な状況にいるのは変わりない。気をつけないとね……)
****
約束していた時間…の10分ほど前。
教えられた場所にいくと、そこにはクリムトがいた。
「おはようございます、クリムト様。あの、僭越ながら申し上げたいことがあるのですが!」
「なんだ」
「その、魔族の方達は食事はどうされていますか……?」
昨日は色々あって忘れていたけど、私は氷を食べて以来ずっと食事を取っていなかった。
流石に空腹が気になってきたところだ。
クリムトは肩を竦めて私に言う。
「そうか……。ミロワールが言っていたが、人間が活動するには継続的な食事が必要か。面倒なことだ……」
「ま、魔族の方達には食事が不要なのですか!?」
私は心中ざわつきながらクリムトに質問する。
魔族の城には人間用のご飯が一切無い――なんてことになったらどうしよう。大変困る。飢えちゃう。
「いや、私たちも栄養補給をする必要はある」
「そうなんですね!」
「だが、食事としての時間を取ることは少ない。私たちは魔力をエネルギー源として吸収することが出来る。そして、それはレヴィウス様が与えてくれる」
「レヴィウス様が……?」
クリムトの説明によると、こうだ。
そもそもこの世界の大気自体が魔力を帯びていて、何もしなければどんな生き物でも生きていけないような非常に乱れた状態になっている。
だが、魔族の中でも力のある者はそれを持ち前の強大な魔力で制御することが出来る。
そして、大気を制御したとき、余剰分の魔力が結晶として残る。結晶は保存することが出来る。魔族は主にそれを食糧源とするのだ。
(じゃあ、魔族がいないと人間も他の生き物も生活出来なくなるんだ。魔族のおかげで人間が暮らせるという話には半信半疑だったけど、どうやらそれは事実だったようね……)
そう考えつつ、私はクリムトに相槌を打つ。
「つまり、この城の魔族の方の食べ物はレヴィウス様が作ってくれていると……」
「そうだ。まあ、それ以外の食糧も保存はしているが、主なエネルギー源にする栄養価の高いものはレヴィウス様が与えてくれる」
「食べ物まで与えて下さるなんて本当に素晴らしい城主ですね……! 慈悲深きレヴィウス様万歳!」
「ああ。貴様にもひとつ与えてやろう」
クリムトは胸ポケットから小瓶を出して、黒いグミのようなものを私の手のひらに渡した。
(魔力の結晶ってこんな感じなんだ……)
城にご飯がないなら覚悟を決めて木とか草とかにかぶりつくしかないかも、それすら許して貰えなかったら――と戦々恐々としていたけど、とりあえず食べるものは貰えそうで良かった。
(レヴィウスの魔力で作られた氷はすごく美味しかったわよね。だからこれもきっと今まで食べたことが無いような、芳醇な――――うえぁっ!!!!)
期待しながら魔力グミを口に入れた私は、舌先で舐めて不意打ちでダメージを受ける。
全然美味しくない。
味のきついサプリメント、そのレベル100、みたいな風味がする……!!
(お、美味しくない。一回吐き出したい。けど……う、うぅ、頑張るしかない……!)
魔族の怒りを買ったら私はすぐにでも殺されてもおかしくない立場である。だから私は頑張って食べるしかない。
人から貰ったものを目の前で拒絶するのは、どうあがいても心証は良くない。これから食べ物を一切分けて貰えなくなるかもしれないし、そうなったら死活問題だ。
それに……。
(クリムトはずっと私に対して当たりが強いけど……食糧を与えてくれたのは悪意があってのことじゃないわ。よく思っていないであろう私に対しても食べ物を分けてくれたんだから、出来れば最初の一回くらいはちゃんと食べたい)
私が薄っぺらい演技をしているからこそ思うが――クリムトは本当にレヴィウスのことを慕っているんだと思う。嘘には出せない真実味が彼にはある、ような気がする。
城の中で働くために私に栄養補給をして欲しいのは本当なのだろう。
ここは無事に食事を終えたい――!
私は内心涙目になりつつも、グミをひたすらに噛み続け、やがて飲み込んだ。
(うぅ……)
……普段は胸焼けなんて滅多にしないのに、胃の中が混乱してる気がする。
多分、魔力が強すぎるものを食べたからだ。氷が美味しかったみたいに、レヴィウスの少量の魔力で作られたものはおいしく食べられるけど、強い魔力の結晶は人間には相性が悪いみたい。
それはそれとして――何だか意識が覚醒した気がするし、お腹は満たされた。
魔族にとってだけじゃなくて、人間にとっても栄養になるのは間違いなさそうだ。
クリムトは私をじっと見ながら聞いてくる。
「どうだ、人間?」
「えっと……満腹になりましたし、頭もしゃきっとしました! 流石レヴィウス様のお作りになったものです!」
「そうだろうそうだろう。レヴィウス様の恵みに感謝するのだな」
「ですが……! 私にこんなにいいものは勿体ないです。人間にはこんなに大量の魔力は必要ないですし、身体にも少々負担がかかったようで……」
「なに。負担だと?」
「レヴィウス様の魔力の結晶は素晴らしいものです! 私の消化器が貧弱なのがいけないのです! ……クリムト様、ここにはもっと栄養がないものとか、食べる期限が迫っているものがあるのではないでしょうか? それを私に回していただきたいです!」
「ふむ。確かに、魔力が薄く食べる期限が近い食糧はいくつかあったはずだ。城のものたちはあまり食べようとはしない。あれを貴様の食糧としよう」
(助かったわ……)
私はクリムトに感謝の礼をしつつ、内心でそう思った。
他の食糧がこの魔力グミよりもマシな味かはわからないけど、魔力が薄いなら少なくとも身体に負担なく食べることは出来るだろう。




