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40_伝えなかった理由

 ストレイウス家の一室で数日過ごして、私はメイドにその後の顛末を聞かされた。

 処置としては、こうらしい。



 ホールで告発されたチェルシーの暗躍には裏付けが取れたようだ。

 それに加えて、ローヴァイン家がこれまで人間が起こした問題として取り上げてきたものを洗い出し、どこまでが正しいものだったかの調査が進んでいるらしい。いずれにせよ、ローヴァイン家の権力は非常に大きく削がれることになるようだ。



「今回の騒動について、深くお詫びをします。シルフィア様は人間界へ戻すことになります。今回あったことの補填は魔族間で改めて会議を開いて、あなたに渡されることになるでしょう」

「そうですか。受け取れるものは受け取ります。あと、このようなことはもう起きないようにしていただけると……」

「ああ。シルフィアのいる場所は、この世界で最も安全な場所にすると約束しよう。そのために、アドラー家も力を尽くすと誓う」



 私たちの会話に新たに入ってきた声に、私は思わず表情を強張らせる。



「レヴィウス様……」

「すまない。シルフィアと二人で話したいんだ。席を外して貰ってもいいか」




 ストレイウス家のメイドはレヴィウスの要望を聞き、退席した。

 私はレヴィウスと二人で残される。




(気まずいな……)



 レヴィウスと二人になったとき、私は緊張することの方が多かった。

 しかし、今回は今までとは状況が違う。私がレヴィウスに嘘をついていたというのは既にバレているらしい。




 レヴィウスは私の隣の椅子に座り、顔を覗き込んでくる。



「あれから何日か経ったが……調子はどうだ?」

「ストレイウス家は、沢山私の世話をしてくれました。お陰様で元気です。問題なく人間界へ帰ることが出来ると思います」

「人間界へ帰る、か……」

「はい。レヴィウス様、ありがとうございました。あなたには本当にお世話になりました。今回だけじゃなくて、これまでもずっと」

「――シルフィア。俺はその話をしようと思ってここに来た。お前が俺と会うときに、話していないことが色々あったということ――俺はもう気付いている」

「……」

「だが……今回ばかりは、すべて本当のことを話して欲しい」

「……、はい」




 私は、レヴィウスの言葉に静かに頷いた。

 彼には何度も助けられた。流石に、これ以上隠し事をするのは忍びない。



 レヴィウスにいつからか全部バレていたというのは、気まずい……。

 気まずいが……。

 でも。



(不思議だわ。私、ちょっとほっとしてる……)



 私は隠し事をしながら彼と会い続けることに、罪悪感を感じていたのだろう。

 この先は会うことも無くなるだろうけど……それはそれで、あるべき場所に戻ったという気がする。

 レヴィウスを騙しながら会い続けた、今までの日々の方が特殊だったんだ。



 私は深く息を吸ってから話を切り出す。



「レヴィウス様。あなたはもうわかっていると思いますが、私はあなたに嘘をついていました」

「……ああ、そうだな。俺が気付いたのは人間界に来てからのことだが……」



 レヴィウスはそう言って、気付いた経緯について話してくれた。

 ミロワールに私が嘘をついている可能性について言われた上に、ティラミスを通して私の過ごす姿を見たら、疑惑が確信に変わったとのことだ。



 話し終わったレヴィウスは、私の方の事情を話して欲しいと促した。

 私は頷いて、今までのことを打ち明ける。




「村人に魔族への生贄にされたと気付いたとき……私が第一に思ったのは、死にたくないということでした。生きて人間界へ帰りたかった。そのために出来ることは何でもしようと思いました。自分一人だけでは戻る方法がわからなかったので、とりあえず魔族に……あなたたちに頼るようにしました」

「……」

「レヴィウス様に一目惚れしたというのは、嘘です。保身のためにそう言いました。私が出会った魔族がレヴィウス様以外の誰であったとしても、私はすり寄ったでしょう。城で働きたいと言ったのも、少しでも私の生存確率を上げる為です。レヴィウス様が人間に対する見方を変えた後は、それを極力利用するようにしていました。私は人間界に帰りたいという気持ちが最優先でしたから」

「……。そうか……」

「レヴィウス様。あなたを騙しておいて、こんなことを言える義理ではないかもしれませんが……人間がみんな私と同じとは思わないで欲しいです。王都には沢山の人間がいます。私の仕事場でも尊敬出来る人はいます。レヴィウス様のことを何の裏もなく慕う人間も沢山いるはずです。あなたがくれたお金で家を持つことも出来たけど、それも返します。褒美として貰った魔石も、他の贈り物も。ケーキは……もう食べちゃったから、返すことは出来ませんが。出来る限り精算させてください」



 私は一気に言って、レヴィウスに頭を下げる。



 今住んでる家を売ったら、カフェを開くという目標も一旦潰える訳だが……

 それはそれで、受け入れようと思った。

 レヴィウスがいなければ私の今の生活は無かった。だから、彼の意向に従うのが筋だと思った。




 レヴィウスは息をついて、私に向き直った。



「シルフィア。お前が俺に隠し事をしていたのは……少し、堪えた」

「……はい。すみません」

「だが――それだけだ。俺はシルフィアを愛しく思う。今でもなお、そうだ」

「れ、レヴィウス様……? でも、私は……」

「シルフィアが俺を愛してくれたから好きになった訳ではない。俺の中に長年あった、父親と人間についての蟠りを解消してくれたこと、うちの家のために誠実に働いてくれたこと、生贄にされても腐らずに励み続けたこと……シルフィアを好ましく思うところはまだ沢山ある。それらは、消えて無くなったりしない」

「――!」



 驚いた私が顔を上げると、レヴィウスが身を寄せて、私の手を握ってくる。



「シルフィア。俺は利用され続けるだけでも良かったんだ。基本的に魔族は人間よりも強い。そして俺は魔族の中でも強い。シルフィアに寄りかかられても、凡百な人間と違って消耗したりしない。シルフィアを守れるならそれで良かった。自分の身を守ることを後ろめたいなんて思うな。シルフィアがそう動いてきたからこそ、俺は今お前とこうして過ごすことが出来ているのだから」

「レヴィウス様……」

「俺が渡したものは全て受け取って欲しい。引け目を感じる必要はない。俺の方も小狡いことをしていた。秘密を知った後も、このまま黙っていればシルフィアに会い続けられると思った。シルフィアにあの店をケーキを渡しに行ったのは、下心もあったんだ。シルフィアがあの道を通って看板を見る度に、俺を思い出して欲しいと思った。俺ともう会わないと言い出されても、俺のことを覚えて貰えるように……」



 レヴィウスは、じっと私を見つめて静かに切り出す。



「シルフィア。お前が俺との約束を避けていたのは、お前が秘密にしていることが原因だったのかもしれない。なら、今はどうだ?」

「今……」

「これからの話をさせてほしい。シルフィア、俺は今でもお前と一緒にいたい。人間界に行ったときに話をした、伴侶として迎えたい、城で一緒に暮らしたいという願いも……まだ諦めていない」

「……」

「人間は魔族の住処には住まわせないと前の会議では決まった。だが、今回のローヴァイン家の暴走の補填としてシルフィアを特例で迎えるように取り計らうことも出来るだろう。シルフィアが望むのなら、うちの領地でカフェを開いて魔族たちを客として迎えることも出来る」

「……」

「だが、これは俺の願いだ。俺の意見に無理に合わせる必要はない。シルフィア。今一度、お前の気持ちを聞かせて欲しい」

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