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4_レヴィウス様の城で働けるなんて嬉しいです

 

「着いたぞ」


 どんどん高度を増していく恐怖心から目を瞑っていた私は、レヴィウスに話しかけられて目を開ける。


 そこは鬱蒼とした木々が生い茂る森の中だった。



「魔族の居住区に行ったら私は生きていけないのではないか」という恐怖があったけど、意外と大丈夫だった。近くに自然があるからか空気が澄んでいる気がするし、暑くも寒くもなくて快適だ。

 飛んでいる最中は色々なことが気になってそれどころじゃなかったけど、思い返してみればレヴィウスの魔力の中も快適だった……ような気がする。




「レヴィウス様、飛行は初めてで驚きましたが、あなたの魔力のおかげでとても快適な旅でした。私のような人間にも慈悲を下さるなんて流石です!」

「レヴィウス様。このような人間にあなた様がそんな丁寧な対応をしなくてもいいと私は思いますが……」

「フン。クリムト、あれくらいの魔力操作は造作も無いものだ。そう目くじらを立てるものではない。さて……あそこだ」



 レヴィウスが指し示した場所には厳めしい城門が立っている。

 魔族の住処があると聞いて、貴族の屋敷みたいなものを想像したけど、私が知っているものよりもずっとずっと大きくて広い。城門だけで私何人分の広さがあるかわからない。




 これは門を開くだけで重労働ではないのか……と考えていたが、レヴィウスが城門の前に立つとゴゴゴと自動で開いた。魔族式のオートロックみたいなシステムになっているのかもしれない。便利だ。



「わあ……」



 レヴィウスとクリムトに連れられて城の中に足を踏み入れた私は声をあげる。



 城に入った先は、大きな広間になっていた。

 天井には豪華なシャンデリアが置かれ、大理石のような材質で出来た床はダンスホールの如く綺麗に磨かれている。

 この城の周りは森で覆われていて太陽光が入らないけれど、城の壁にはランプが取り付けられていて、部屋をオレンジ色の灯りで照らしている。



「とっても綺麗です……」



 私は思わずそう呟いた。



 前世ではカフェが好きだったけど、好きな理由のひとつが「内装が綺麗だから」だ。



 家で普段使いするには高価だったり、管理が大変そうな家具も、カフェに行ったら気軽に楽しめる。所謂昔ながらの純喫茶に行ったら瀟洒なアンティークの調度品を見ることも出来る。

 そして、この魔族の城の中にあるものはかつて見たどの調度品よりも美しく見えた。



 私の言葉を聞いたクリムトは、ふうと息をつきながら口を開いた。



「人間ごときには魔族の道具の美しさはわかるまいと思っていたが、そうではなかったか。それに関しては褒めてやろう。だが私は未だにお前のことを信じていない。レヴィウス様の城の調度品を壊したり盗もうとはしないだろうな?」

「い、いえ、まさか! 美しい道具は美しいお方のものにあってこそより映えるものであります。レヴィウス様のものは見つめるだけで目の保養になりますので……!」

「クリムト。今のところ、シルフィアは俺に対して悪意を持っている訳ではない。だから余計な心配は無用だ」

「そうでありますか……」



 クリムトはレヴィウスの言葉にしぶしぶ引き下がった。

 レヴィウスが使った嘘判定の霧の魔法には脆弱性がありますけどね――と内心思ったが、黙っておいた。私の身の安全のために、都合の悪いことは黙っておくに限る。



「ですがレヴィウス様。魔族の集会までまだ多少の期間があります。その日までこの人間はどう保管しますか? 贈り物にするというなら、魔法で保存してその日まで寝かせておきますか?」

「そうだな。保存状態を良くするというのなら、魔力漬けにして保存しておくのもありか……」

「あ――あの! レヴィウス様、クリムト様! 折角ならば、このお城で働かせて欲しいのですが!」



 レヴィウス主従が何やら不穏なことを言っていたので、私は無理矢理話に入っていくことにした。どうも、話の流れに身を任せているとすぐに不穏な方向に持って行かれるようだ。魔族怖い。



 クリムトはギロっと私を睨み付けて反発する。



「人間。言っておくがな、レヴィウス様の居城で働くことは能力と信頼がある者にしか出来ないのだ。我がバッツ一族のような伝統ある魔族だからこそ、ここで働くことを許可されている。ぽっと出の人間が働けるか!」



(あ。クリムトって、バッツって家名なんだ。レヴィウスはアドラーって家名じゃなかったっけ? 同じ一族という訳ではないのね……)



 クリムトの怒りの言葉を受けつつ、私は内心考える。

 人間の城であっても住んでいる全員が親族という訳ではない。魔族もそこは人間と変わらないのだな――と思った。

 それはそれとして、このままでは眠らされて他の魔族に引き渡されてしまいそうだ。

 私はあがいた。



「ええ、レヴィウス様のお城で働くことは大変な名誉であることは想像に難くありません。ですが、それでもレヴィウス様のお力になりたいのです。このお城はとても広いと認識しています。クリムト様も働くにあたって手が回らない雑用などはあるのではないでしょうか。それならば私にそれを……! 掃除でも洗濯でも何でもやります!」



 私は必死に言い連ねる。



 ――レヴィウスの力になりたい、という気持ちは特にない。



 城の内装が素敵だと思ったのは本心だけど、それはそれとして「一周回って見るだけ見たらはやく帰りたい」という気持ちが強い。

 レヴィウスにはクリムトという腹心の部下がいるので、それでいいと思う。私の出る幕はない。



 でも、この城の中をくまなく見たら、人間界に戻る魔道具なんかがあるかもしれない。

 それを確かめるためになんとか城の中で働きたかった。

 仮に人間界に帰れるものが無かったとしても、魔族の知識をある程度得ることで、ミロワールという魔族に引き渡されてもうまいこと立ち回れるかもしれないし。



「そうだな……シルフィア、お前は雑用になれ。クリムト、世話はお前がするんだ」

「レ、レヴィウス様? 本当にこの人間を雇うのですか!?」

「ミロワールに引き渡すまでの間だけだ。そこまでクリムトや使用人の負担を減らすというのは悪くはあるまい」

「……はっ。レヴィウス様、私のことを労ってくれるとは……なんとお優しい!」

「本当に、レヴィウス様は世界一お優しいですう~! クリムト様に対しても私に対しても優しいなんて素晴らしい上司様です! ありがとうございます~!」



 私は平服してレヴィウスにお礼を言った。



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