36_誘拐
「ふう……」
今日もカフェの仕事を終え、私は店の外へ出た。
段々と寒さが厳しくなってきている。
私はマフラーを巻いた。
ちなみに、私はレヴィウスに貰ったマフラーの他に、普段使い用のマフラーを持っている。貰ったものは私から見ると上等過ぎるので、日常で使い続けるのは気後れするからだ。
「最近寒いからか、野良猫とか鳥とかもあまり見かけなくなったね。冬になると人間の家に避難する動物もいるらしいから、暖かいところを探してるのかも」
「ピィ、ピィ」
「ティラミスは寒くない? 大丈夫?」
「ピッ」
私の肩に乗ったティラミスに話し掛けると、「自分はただの鳥では無いから」と言いたげに胸を張っている。かわいい。
レヴィウスは、「俺が人間界に来れなくても大丈夫なように」と、ティラミスに上限ギリギリまで魔力補給をしたらしい。栄養を溜め込んだ冬眠前の動物のようにまんまるふくふくになっている。とてもかわいいのだ。
「――ピッ」
「ん……?」
ほのぼのとした気持ちで家への道を歩いていると、急にティラミスが鋭く鳴いて私の肩から飛んだ。
私の家の周りに、誰かいる。
夜に紛れるように、何人か体格のいい男がいる……。
(誰……?)
私の背筋にぞわっと冷たいものが走る。
以前も仕事の帰り道に迷惑客に会ったことはあったけど、あのときとは状況が違う気がする。
あのときに私を待ち伏せていたのは一人だけだったけど、今回は何人もいる。そして、みんな私の方を見つめている……。
「――!」
数人の男は彼ら同士で目配せした後、私に向かって魔法を飛ばしてきた。
私は身体を守るために防御態勢を取る。
「ぐわぁっ!」
「ピィッ!」
「……ティラミス!?」
目を閉じていると衝撃音と男たちの声がする。
目を開けると、そこには男たちが倒れていて、ティラミスが誇らしげにこちらを向いていた。
「これって……あなたがやったの?」
「ピッ」
「つ、強い! 私を守ってくれたんだね。ありがとう、ティラミス」
私は男たちのそばを飛んでいるティラミスに近付く。
――が、暗闇から新たに女性の声がした。
「――はぁ。アドラー家当主の使い魔が守っているのね。うちの部下たちでも太刀打ち出来ないなんて。それに、その人間にも防御魔法を張っているのか。じゃあ致命傷は与えられないか……」
「ピピッ」
「でも、ここまで力を使ったなら、もう耐えられないわよね。じゃ、バイバイ」
「……え?」
次の瞬間、私の前に閃光が走った。
眩しい光に反射的に目を瞑り、次に開けたとき――
先程まで私の上空を飛んでいたティラミスは、羽も身体もボロボロになって地面に落ちていた。
「ティラミス……ティラミス?」
「…………」
「はー、やっと止まった! 念のために私も来といて良かったわ。じゃ――行くわよ」
「うっ……!」
ティラミスを手のひらに乗せて必死に呼び掛けるも、返事は無かった。
そんなことをしているうちに、私は後ろから女性に攻撃されて気を失ってしまった。
****
次に目覚めたとき、私は女性に連れられて空を飛んでいた。
(私、この人を知ってるわ……。ローヴァイン家のチェルシーね)
私は彼女と直接喋ったことはない。魔族会議で一方的に糾弾されただけだ。
あのときと今とで、関係が良くなるようなことも悪くなるようなことも私には心当たりがない。
でも……。
私は意を決して口を開いた。
「あのっ……。す、すみません。私のティラミス……あの小鳥の使い魔は、どうなったんですか。まだ助かるのなら……」
「は? アンタ何言ってんの? 私がこっちの邪魔してくる使い魔を復活させる訳ないじゃん。只でさえ手間取らせてるのに無駄な口を聞くなよ。やっぱ人間ってバカだよねー。アハハ」
(駄目か……)
少しでも可能性があるならと思ってチェルシーに話し掛けてみたけど、事態は何も好転しなかった。
……まあ、それはそうだろう。
助けが欲しいときに他の人の機嫌を取るというのが私の処世術だったけど、こちらを攻撃しようと考えている人にとっては何の効力も無いのだ。
(それでも、助けられる手段があるなら聞きたかった……。ティラミス、私を守ったからこんなことに……ごめんなさい)
私の家の前に羽根を散らせて倒れたティラミスのことを考えていると、頭がぼうっとしてくる。
そのまま、私は目を閉じた。




