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34_忘れられない日になりました①

 冬の季節も深まってきた。最近ではちらほらと雪がふる日もある。

 それに伴って、街のライトアップが少しずつ豪華になってきた。



 この国では積雪が見られる頃に、冬に親しい人にプレゼントを贈ったり、ケーキを食べたりする、雪祭りというイベント……前世でいうところのクリスマスのようなイベントがあるのだ。それに向けて王都の店は各自準備をしているのである。



 うちの仕事場のカフェもそれには漏れず、店を飾り付けることになった。

 一緒に作業することになったアリアさんと雑談をしながら手を動かした。



「うちのカフェも忙しくなるでしょうか」

「どうかな。ある程度はなるだろうけど、冬祭りは奮発していいところに行く人も多いからね。ここのカフェはリーズナブルだから、客足はそこまで増えないかも。でもケーキを買いに来る人は沢山来るだろうから、いっぱい用意しておきたいね」

「そうですね。この機会に沢山作りたいです」



 お菓子類を作ることは好きだ。普段はカフェで作るにしても数に限りがあるけど、限界突破して作れる機会があるならそうしてみたかった。沢山作ることで調理の上達にも繋がるだろうし。



 そう言って張り切った様子を見せてみるけど、アリアさんは思案げに私を見やって言った。



「ただ、最近はオーナーが店長にネチネチ言うことも少なくなったから、無理して売上を上げようと頑張らなくてもいいかなって思ってるの。ケーキを作るのって結構体力がいるから、シルフィアも大変だと思ったら早めに言ってね」

「そうですね……落ち着いてくれたみたいで良かったです」

「シルフィアがオーナーとの話に付き合ってくれてるからだって店長が言ってたけど、シルフィアの方は大丈夫なの? オーナーと話すのがしんどいなら私がバシッと言うけど」

「大丈夫ですよ! 色々話してみてわかったんですけど、雑談の時間は意外と上機嫌で話してくれるので……」




 私はアリアさんの心配にそう返した。

 オーナーと雑談して店長への嫌味を減らそうという私の作戦は、今のところうまくいっている。

 話が長いオーナーと話すのは面倒といえば面倒だけど、これで店が平和になるなら儲けものだと思った。



 ****


 今日もカフェの仕事を終えて、家への道についた。

 雪祭りの影響で、夜の街はいつもよりも賑やかだ。



(前世のクリスマスの頃を思い出すな。……)



 イベントごとについては、気分が浮ついて好きだという気持ちと、落ち着かない気分になるから苦手だという気持ち、どちらもある。



 一人で街を歩いたりしている分には好きなのだ。街中で仲間うちで楽しそうにしているところを見るのも好きだった。

 でも、家に帰るときが鬼門だった。



 微妙な仲の家族と暮らしている場合、何のイベントも無い方がよほど良いものだと思う。

 家に戻ると親達だけで出掛けたという書き置きがあって、私は一人だけで過ごす、みたいなことが沢山あった。

 いつもはそれでも何とも思わないけど、友人たちが「イベントは家族と過ごした」みたいな話をするとき、私はどう話を合わせればいいかわからなかったり……。



(いや、こんなことわざわざ思い出すものじゃないわね……。やめよう。それよりも、仕事とかこれからのことを考えなきゃ)



 そもそも私は現世の家族とは仲が良かったのだから、わざわざ楽しくなかったときのことを考える必要はないのだ。

 まあ――現世の家族は、みんな亡くなったけど。

 家族が亡くなった後も、故郷の村の人間とささやかながら一緒にパーティをしたことだってあった。

 まあ、最終的に私は生贄に捧げられた訳だけど……。



(いけない。なんか、妙に明るくないことばかり思い出すな。今日は早めに帰って休もう……)



 こんなことを考えるのは、私の生活が安定しているからこそかもしれない。生存の危機にあるときは過去のことなんて考える余裕はないから。

 そう考えれば、これは割と良い兆候なのかもしれない……。

 そう思いたい。



 ****



「ピピィッ」

「あっ……レヴィウス様。お疲れ様です!」

「シルフィア。今日も何とか時間が作れそうだったから、来たぞ」



 私の家の前にはレヴィウスがいた。

 彼の手には二つほど大きめの紙袋がある。

 その紙袋のロゴには見覚えがあった。



「それって、シャロームの袋じゃないですか……!?」

「ああ、そうだ。今日店に寄って買ってきた」

「本当に!?」




 シャロームは王都にある店の中でも歴史が長い洋菓子店だ。私がカフェに出勤する際の通り道にあるので、そこの看板を必ず見ることになる。だからかなり印象に残っている。

 ただ、知っているというだけで行ったことは無い。

 そこは人気店のため、貴族や功績をあげた冒険者など、一定程度の地位が無いと入れないのだ。私にとっては未知の世界だった。




「行きたくとも一生行けない方も多くいると聞きます。レヴィウス様、一体どうやってシャロームに……?」

「人間たちが考えている程には難しくない。人通りの多い酒場を辿って、資格持ちの人間に多めに金を渡して一時的に入店証を借りているだけだ」

(う、裏口からだった……)




 レヴィウスからすれば人間界の貨幣を稼ぐことは容易だろうけど、そこまでしてシャロームに行ってみたいと思っていたのは意外だった。




「人間の習俗の研究のために動かれたのですね。レヴィウス様の探究心は流石です!」

「……いや。今回は研究のためとは言いがたい。純粋に、いい菓子を求めてみたいと思った。今は人間界の祭りの期間らしいからな……」




 そう呟いたレヴィウスは、紙袋の中から箱を取りだした。



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