32_レヴィウス様が街を楽しんでいるなら何よりです②
その気持ちで頭がいっぱいになって、私は思わず立ち上がる。
「あ! ……レヴィウス様、まだ飲み物を出していませんでしたね。すみません、すぐ用意します!」
「俺は程なくして帰るから、無理に用意しなくてもいいが」
「いえ。もしレヴィウス様が飲みきれなかったら私が後で飲みますので!」
私は適当なことを話しながら、貯蔵庫の方へ歩いて行く。
今レヴィウスと向き合うより、少しだけでも一人になって冷静になりたかったのだ。
(よし……ちょっと落ち着いてきた。今ならいつもと同じ感じで喋れそう)
私は息を吸って、飲み物を持ってリビングへと向かっていった。
「シルフィア。こちらを受け取って欲しい」
「……?」
テーブルに座ると、レヴィウスが何かを渡してきた。
「これは……手帳?」
「ああ。今日の店で食べたものの感想の記録だ。店の雰囲気や来ている人間の様子も記録してある」
「えっ?」
私が手帳をめくると、レヴィウスが今日頼んだらしいメニューとその味の感想や、店の様子について細かく書いてある。アドラー家の城にいる頃、レヴィウスの部屋には本が沢山あったことを思い出した。記録をつけるのには慣れているのだろう。
「沢山感想が書いてあって、読み応えがあります! 私、食べ物とか飲み物の感想を見るの好きなんです。レヴィウス様の記録は特に細かいし、見ていて楽しいです。ありがとうございます!」
「ああ、そういってくれると俺も嬉しいな」
「……でも、この記録は人間の文化を知るために作ったものなのですよね? ならレヴィウス様が持ち帰るべきでは?」
「俺の分は他にとってあるんだ。こちらはシルフィア用に同じものを作った」
「えっ? 私用に?」
「シルフィアは今カフェで働いているのだろう? 別の店が商売敵になることもあるだろう。だから俺の記録が何かの参考になればいいと思ったんだ」
私はその言葉に意表を突かれた。
「わ、私のために……? いいのですか、レヴィウス様」
「本当はシルフィアの働いているカフェに直接行って助けられたら良かったのだがな。それは禁じられたから別の方向から支援したいと考えた」
「……ハイ! この恩をどう返せばいいか……私のためにありがとうございます!」
私は破顔して手帳を受け取ることにした。
レヴィウスも微笑んでいたが、やがて彼の傍らの荷物から何かを取り出して差し出してくる。
「あと、これも……今日の街歩きで探したものだ」
「えっ? これも私にですか?」
「ああ。王都はこれから更に冷えるらしいな。これで身体を暖めて欲しい」
レヴィウスが渡してきた袋の中にはマフラーが入っていた。チェック柄のマフラーは、王家御用達の店のものだ。
(これ、暖かいし付け心地がすごくいいって噂を聞いてたけど、富裕層じゃないと手が届かないだろうなって思ってた。マフラーは丁度持ってなかったし、嬉しいな……! でも、これは……)
私はちらりとレヴィウスを見つめて言う。
「あの、私がこちらを頂いてしまってもいいのでしょうか? その、私はもう貴方の城に仕えることは無くなりました。だから、こんなに物を頂く理由は……」
「シルフィア。俺に恩を返すとか、そういうことは考えなくていい。俺はシルフィアに何かを贈ること自体が楽しみになっているからな」
「……でも……」
「――ああ、今日はもうそろそろ帰る時間だ。すまないな、シルフィア」
そう言って、レヴィウスは早々に帰って行った。
****
家に一人残された私は、近くに寄ってきたティラミスに話し掛ける。
「レヴィウス様、忙しそうだったね。私の家に来て良かったのかな。自分の城にいた方が都合が良かったんじゃ……」
「ピピッ」
「ん……でも、あなたが元気になったんだから、レヴィウス様に来て貰ったのは良かったかな」
「ピィッ」
私は、魔力供給されてふくふくになったティラミスの頭を指でそっと撫でた。
(レヴィウスは、また街に来たら他のカフェに行くのかな。私がそうしろって言ったから行くんだろうな)
彼が手帳を渡したときに言った通り、私の参考になればという気持ちもあって他の店に行ったのだろう。
でも……。
(いや……でも、って何よ? 私はもうレヴィウスに仕えている訳じゃないし、同じ組織に属している訳でもない。彼の行動について何やかんや思うのはやめよう……)
そう思って、私はさっさと寝る支度をすることにした。




