31_レヴィウス様が街を楽しんでいるなら何よりです①
「ゴッフェくん……売上を見せてくれるかな」
「はい、オーナー。こちらに。今月は大幅に売上を伸ばしました」
「ふーん……ふん。まだまだカフェ・メルタンが一位であることは変わらないが、まあ及第点と言ったところか。でもね、これだけで終わりにする訳じゃないよね?」
「えっ?」
「最近、王都には店内で音楽を聴かせるサロンが出来たんだ。評判も上々なんだという。うちだってそういう付加価値を与えていかないと客が離れるかもしれないんだぞ。なんなら、私が店内で演奏してやってもいい。私には楽器の心得があるからな! 新たな集客も見込めるかもな」
「えええ。しかし、今の間取りだと新たなスペースを作るのは難しいので……」
「もうオーナー、店長に無茶ぶりするのやめてくださいよ」
今日も私はカフェ・キャンドルで働いている。
閉店後、オーナーが店へ訪問してきた。
オーナーが店長に何やかんやと言っているところに、アリアさんが割って入ってくる。
男性二人がアリアさんに小言を言われた後、オーナーは今回は退散すると宣言して去って行った。……何回か見た事のある流れだけど、いつまでこれを見ることになるんだろう。
(アリアさんが率先して注意してくれるから、今のところ私は何もしてないけど、定期的にオーナーがやってきて店の雰囲気がピリつくのは変わってないのよね……)
言い争いを見るだけで、仕事以上に精神的な疲れが溜まるような気がした。
****
店を出たとき、アリアさんと帰り道が一緒になった。
私は帰る道すがら、彼女にオーナーについてそれとなく聞く。
「最近、オーナーがよく店に来るようですけど、実は店の経営状況が大変という事情があるのですかね?」
「いや、そんなことないよ。単純に、オーナーは寂しいのよ。だから私たちに構って欲しくてカフェに来てるだけ」
「寂しいって……」
「オーナー、私生活で色々あって、嫁と子どもと別れて今は独り身なんだって。だから話し相手が欲しいのよ。この店に来て経営状況について言えば、気が弱い店長は絶対に話を聞くでしょう? だからそうしてるのよ」
「なるほど……。オーナーも折角なら普通に雑談しに来ればいいと思いますが……」
「でも、話を持ち掛けて聞いて貰えなかったら悲しいじゃない。オーナーには自分が一番偉いという意識があるから、弱いところを見せたくないんじゃないかな?」
そういうものなんだろうか。
カフェ・キャンドルで働いている同僚たちはみんな基本的に穏やかだから、雑談くらいふつうに聞いてくれると思うけど……。
(……でも、それは私だって同じか。カフェの同僚はみんないい人だと思ってるけど、私がやりたいことについては黙ってるもんね)
いつかカフェを開きたいという夢について、私は周囲に開示した訳ではない。この店のキッチンで働いている分には褒めて貰えるけど、別の場所で独立するなら必ずしも味方という訳ではなくなる。
店について色々言ってくるオーナーなんかは、確実に嫌味を沢山言ってくると思う。だから黙っていた。
(でも、例えばアリアさんが新しい店を開くって言ってきたら……私は応援したいな。たくさんお世話になったもの。私にその話を聞かされないままいなくなられたら、ちょっと悲しくなるかもしれない。まあ、私はわざと人付き合いを薄くしてるんだから、そうなっても文句は言えないけど)
私はアリアさんと話しつつ、内心でそんなことを考える。
「シルフィア、ところでその小鳥、どうしたの? かわいいね」
「あ、この子、最近飼い始めたんですよ。ちょっと知り合いから譲ってもらうことになって」
「へえ。小鳥にこんなこと言うのはアレだけど、なんか番犬みたいにシルフィアを守ってるように見えるな。こんなにちっちゃいのに凜々しく見えるかも……」
「わかります。でも、家だとちょっと緩んでてかわいいんですよ~」
私たちはティラミスの話題で和やかに盛り上がりつつ道を歩く。
――私が先程感じたあれこれは伝えることはなく、アリアさんとは解散した。
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「あっ……!」
家に着いたとき、私は驚きの声を出した。
いくつか荷物らしき紙袋を持ったレヴィウスが私の家の前にいたからだ。
「シルフィアか。仕事は大丈夫だったか?」
「は、はい。私の方は平気ですが、レヴィウス様の方こそ大丈夫ですか? こんな遅い時間に……」
「ああ。何とか時間を作れそうだったから、シルフィアの顔を見たくなってな」
レヴィウス曰く、数時間人間界に滞在出来る時間が出来たから、緊急でこちらに来たらしい。
私は彼を家の中に通した。
とりあえず、ティラミスに魔力補給をしてもらう。
レヴィウスの魔力を受けて、ティラミスはよりもこもこのふわふわになったような気がする。より元気になったようで、良かった。
「シルフィアの魔力を探ったところ、まだ仕事中だったようだから、とりあえず別の場所を見て回っていたが……」
「そうだったのですね。あ、食事などは大丈夫でしたか? 私は仕事場で食べてきたのですが」
「ああ。そもそも魔族は人間と別の形でエネルギーの補給を出来るからな。だが、今日は文化の勉強も兼ねて人間界で食べることにした。だからもう済ませてある」
(あ……)
レヴィウスの持っている紙袋を見て、私の胸はドクンと鳴った。
それは、カフェ・メルタンの紙袋だった。
「軽食も甘味も揃っている店だったから、たらふく食べさせて貰った。人気の店らしいな」
「あ……わあ! そうだったんですね……!」
レヴィウスに笑いかけながらそう言いつつ、私の胸は以前として鳴り続けている。
高揚している訳じゃなくて、何だか、見たくないものを見てしまったような気持ちで……。
……いや、私はなんだ?
レヴィウスに私の職場に来るなと言ったのも、他の場所を見て回ればいいと提案したのもすべて私だ。
彼はそれに応えただけ。
王都の中のカフェを回るなら、人気のあるところから行くのは自然なことだ。彼がカフェ・メルタンに行ったのも他意は無いはずだ。
(それなのに……私、何でちょっとだけショックを受けてるんだろ……?)




