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3_部下の方とも仲良くなりたいです

「あれ……?」


 私は周囲を見回した。



 先程まで濃い霧が掛かっていたのに、今は霧が晴れている。

 重かった身体も仮眠を取った直後のようにすっきりしていた。

 少し感じていた空腹感も今はない。



 なんというか……身も心も元気になっている。

 セーブポイントに立つと体力が全回復するゲームを前世にやったことがあるが、そんな感じだ。



「もしかして、霧の判定ではさっきのがOKだったの!?」



 さっき氷を食べたとき、私は心の底からレヴィウスを崇めた。こんなに美味しい氷を作ったのはレヴィウスの力だからだ。


 それが「この人間はレヴィウスに心酔している」という判定になって、霧の毒がなくなったらしい。



(あれか……AND判定かOR判定か、みたいな話か。私が全身全霊をかけてレヴィウスに心酔している訳ではなくても、どこかひとつのポイントで心酔していれば霧にとっては判定OKになるのね。


 私としては助かったけど、それでいいのかしら。魔族の魔法……想像よりもザルなのかもしれないわ)



 そんな風に考えていると、私の頭上から羽ばたくような音がする。




「おや。これは……」

「レヴィウス様、あれが生贄の人間ですか?」

「そうだクリムト。シルフィアという女の人間だ。だが、俺の想定とは違う状況になっているな。俺への言葉は偽りで、既に霧で亡くなってしまったのかと思っていたが……」



 レヴィウスが上空から舞い降りるのを見るのはこれで二回目だ。

 でも、今回は単独ではなく、もう一人男性の魔族を引き連れている。レヴィウスは鷲みたいな羽根を持っているけど、男性はコウモリのような羽根をしていた。



(クリムト、って呼んでた。こっちの魔族はクリムトっていうんだ。


 魔族の年齢が人間と同じなのかはわからないけど、レヴィウスよりも五歳くらい年上みたい。レヴィウスは貴族の領主みたいな服装をしてるけど、クリムトは執事みたいな服を着てる。敬語も使っているみたいだし、上下関係があるのかしら……)



 舞い降りてきたクリムトは、私を見て険しい顔つきになった。



「人間、貴様……この霊峰の氷を口にしたのか?」

「はっ、はい」

「ここはレヴィウス様の魔力が流れている場所。そんな場所の物を人間ごときが損なうとは! 恥を知れ! レヴィウス様、これ以上ここを汚される前にこの不敬な人間を殺しましょう」



(めちゃめちゃ怒ってるわ……!!)



 クリムトは手袋をはめた指先からバチバチと光線のようなものを出している。あれが当たったら死ぬ――と直感で感じる。

 やっぱりクリムトはレヴィウスに仕えている魔族だったようだ。

 しかもかなり過激派らしい。クリムトは人間を殺すことを何とも思ってなさそうだ。



(せっかく生き延びたのに殺されるなんてイヤ! 何とかしなきゃ。何とか……)



 私は近くに降り立ったレヴィウスのもとに走り――彼の影に隠れた。



「こらっ人間! レヴィウス様に近付くとはなんたる不敬か!」

「すみませんクリムト様。ですが、レヴィウス様に私の気持ちを伝えたかったのです!」

「気持ち……?」



 怪訝な顔をするクリムトとレヴィウスに、私はぐっと拳を握って声を張り上げた。



「私は一人になってからもレヴィウス様のことを想い続けておりました。レヴィウス様のご尊顔は美しく、その瞳はとても鋭く輝いていて、艶やかな声は耳から離れず。もっとレヴィウス様に近付きたいと願っておりました。この地に流れている魔力はレヴィウス様のもの、自分もレヴィウス様の魔力が欲しいと思い、氷を味わってみることにしたのです。とてもとても美味でした! 人間界でも大人気になること間違いなし。そして、その中でも私はレヴィウス様のことが一番に好き。私はレヴィウス様の魔力も愛しております!!」




 私はそう高らかに謳った。

 私の言うことの八割程度は嘘なのだが、最後の言葉はまごうことなき本心だ。本物っぽい迫力は出すことが出来たと思う。



 クリムトは私の勢いに気圧されたようだが、相変わらず微妙な顔をしている。



「確かにレヴィウス様の魔力は質が高く素晴らしいが、だからといってこの辺りの物を勝手に食べるのはいただけない。やはり人間は野蛮な……」

「魔族のもとに来たのは生まれて初めてなんです! 滅多にないチャンスだと思って、つい先走ってしまいました。あっでもレヴィウス様の魔力を勝手に貪ることが不敬ならばここから追放してくださっても構いません! レヴィウス様のお心は全てに優先されるので……!! 人里に戻ったらレヴィウス様を称える教えを全力で布教するようにします!」




 話の流れでさりげなく「私が邪魔ならここから追放してもいいよ」と伝えてみた。クリムトは私を目の敵にしているようだが、それを利用させてもらうことにした。



 レヴィウスが私をじっと見つめ、そしてクリムトの方へ向き直って宣言した。



「クリムト。とりあえず今は下がっていろ。この人間の処遇は俺が決める」

「れ、レヴィウス様……!」

「レヴィウス様!! ありがとうございます本当にあなたのお心遣いに、うわぁっ」



 どうやら命は助けて貰えそうと見て感謝感激の言葉をレヴィウスに述べるが、言い終わる前に私の身体はグンと浮遊していた。



 魔力の泡のようなものに前身を包まれ、私は遥か上空へと飛ぶ。私は自力では飛べないので、レヴィウスに魔力で操作されているようだ。

 その後ろからクリムトが追いかけてきていた。




「レヴィウス様! まさかこの人間を居住区に連れて行かれるのですか!?」

「ああ。俺に叛意を持っているならば霧で殺してやろうと思っていたが……どうやら俺を慕っているのは嘘ではないらしい。それならば俺たちの住処に連れて行っても問題なかろう」

「しかし、人間を魔族の住処に住まわせるなど……」

「永遠に住まわせる訳ではない。クリムト、今度各地の魔族の集会があるのだろう。そのときに土産物としてミロワールに人間を引き渡すことを考えている」

「なるほど、あの方は実験用の生き物を欲しがっていましたからね……」

「魔族を殺しにかかる人間だと土産物として不適切だが、こいつ……シルフィアは俺に惹かれているらしい。魔族に好意的な人間ならば上等だろう」

「なるほど。この人間を贈り物にするということですね。ミロワール様には世話になりましたからね」

「まあ、シルフィアの様子を見た上で、やはり贈り物にそぐわないと判断すれば始末すればいい」

「そうですね。流石のご判断ですレヴィウス様!」





(あ、あれ? なんかクリムトとレヴィウスの間で勝手に話が進んでる気がする。私、魔族への贈り物にされるの? ミロワールって誰? 魔族って集会があるの? レヴィウスやクリムトが住んでいるところってずっと高い場所にあるの? 結局魔族に引き渡されて実験台にされるなら人間の街には戻れないってこと?  それ以前にやっぱり殺される可能性もあるの?


 それ以前に、こんなに高いところに行って私大丈夫なの、魔族にとってはいい環境でも私は気温差とか気圧差とかでどうにかなったりして……。ああ、だめだ……高いところ怖い。前世で階段から落ちたのを思い出しちゃったから、怖い、怖いい……ッ、ウッ……)



 色々と言いたいことは山ほどあったが、どんどん高度を増していく恐怖から私は何を言うことも出来なかった。


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