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29_私の家で良ければ①

 私はレヴィウスを連れて自分の家へと帰った。



 彼は何故わざわざ私のもとに会いに来たのか、魔族たちの間で何かあったのか、帰るまでに何かされてもおかしくないかも――と内心想像して少しだけ恐ろしかったけど、何も起きなかった。

 レヴィウスは前以上にチラチラとこちらを見つめてきていると思ったが、それだけだ。



(レヴィウスに何か思惑があるなら、さっき私を助けたりしなかっただろうしね……そう深く考える必要はないのかも)

 私はある程度緊張を解くことにした。




 私の自宅は王都の外れにある。

 普段は住みやすくていい家だと思っていたけど、いざレヴィウスを連れてくると気後れしてしまう。

 家の門の前で、私は彼に話し掛けた。




「えっと……アドラー家の城から見れば、非常に狭い家ですよね。すみません、こんなところに連れてきて」

「何故そのように言う? シルフィアが選んだというだけで、俺にとってはいい家だ。落ち着いた色味の建物で、ここが自宅ならば帰る度にほっとすると思うぞ。それに、住居は広ければいいというものではない。自分が過ごしやすい場所が一番だ。俺の部屋もそこまで広いものではなかっただろう」

「……そうですね」



 レヴィウスのその言葉を聞いて、私は少々むずむずする。

 自分の家に誰かを連れてきたことはない。

 けど、「いい家だ」と言われるのは思いのほか嬉しかった。

 将来カフェに改装することも含めて、どんな家にするか迷ったので、そこも含めて苦労が報われたような気がする。



「そうお褒めいただけると嬉しいです! ありがとうございます、レヴィウス様!」

「ウッ……!」

「レヴィウス様?」



 私がレヴィウスに笑顔で感謝すると、彼は一瞬よろめいて身体のバランスを崩した。



「ど、どうされたのですか?」

「すまない。シルフィアが……可愛くてな……」

「えっ?」

「会うのは数ヶ月ぶりだろう。シルフィアが可憐だということくらい前々からわかっていた。だが、実際に会うと、想像以上に我が胸が……。その服も自ら選んだものなのだろう。城にいた頃とは印象が違うが、冬用の外套もよく似合う……、いやすまん。取り乱したな」

「いえっ、いいですよ。むしろ、お褒め頂きありがとうございます! あはは……」



 レヴィウスに予想外のことを言われて、私は戸惑いつつも礼をする。

 そんな私を見て、レヴィウスは更に衝撃を受けたように「くっ……」と呟いていた。



「別れた後も城にいた頃のシルフィアのことを何くれとなく思い返していたが……本物のシルフィアが一番だな」

「あ……ありがとうございます!」



 そんなことをしていたのか――内心困惑しつつも、とりあえずレヴィウスに湧いておいた。



(時間が経てば私のことは忘れていくだろうと思っていたけど、そうはいかなかったのね……。レヴィウスはこの数ヶ月、どう過ごしていたんだろう)



 ****


 私は家のリビングにレヴィウスを通して、飲み物を用意する。



「レヴィウス様、どの種類にしますか? 紅茶とコーヒーと……あと、今が旬の果物のジュースもあります」

「最後のものが気になるな。それにしよう」



 私はグラス二つにフルーツジュースを用意した。

 飲み物を口にしたレヴィウスは、驚いたようにまばたきをしている。



「――うまい。甘いのに酸味もあって、後味がすっきりしている。休憩時間にこのドリンクがあると嬉しいものだろうな……」

「お口に合ったのなら良かったです! 今が旬の果物を蜂蜜に漬けたものなんですよ。それに加えて少量のハーブを入れています」

「シルフィア手製のドリンクか。城にいた頃よりも更に腕を上げているな。これはリモネが喜びそうだ……」



 その名前を久々に聞いて、私の脳裏にリモネの姿が浮かぶ。

 彼女には何くれと呼び出されて彼女の希望のメニューを作らされたり、雑談の相手をさせられたりした。

 魔族の住処にいる限り、いつ地雷を踏むかもしれないという恐れは少なからず心の中にあったけど。無事に帰ってきてから思えば……彼女の話に付き合うのは、結構楽しかった。




「アドラー家のみなさんはお元気ですか?」

「あぁ。クリムトもリモネもハウディも、相変わらず俺のもとで働いてくれている。だが、シルフィアがいた頃とは少し様子が変わったな。シルフィアがいなくなったことを惜しんで、皆少々気落ちしているようだ」

「そ、そうなのですね……」



 アドラー家の使用人たちも落ち込んでいるという話を聞いて、私は内心で戸惑う。

 ――いや。

 どちらにせよ、私が魔族の住処に居続けることは出来なかった。私にはアドラー家から去る以外の選択肢は無かったのだ。

 だから、私が後ろめたく思う必要はない。……と思いたい。



 でも、何となくこの話を続けたくなくて、私は他の話題へと逸らすことに決めた。



「では、ミロワール様はどうでしょうか? お元気ですか?」

「ミロワール……」

「あ、でも、魔族会議でもない限り顔を合わせることは無いですかね。なら……」

「シルフィア。あいつのことはもう考えなくていい。忘れろ」

「――えっ?」



 想像と違った言葉が返ってきて、私は思わずレヴィウスの顔を見る。

 彼は苦々しい表情をしていた。



「ミロワール様に……何かあったのですか?」

「いや、そういうことではない……。あいつは相変わらずだ。だが忘れろ。ミロワールのことは何も考えなくていい。わかったな?」

「は、はい。レヴィウス様がそう仰るなら!」



 何があったんだろう。喧嘩でもしたのだろうか?

 ……まあ、私も話の流れで名前を出しはしたけど、ミロワールは何となく苦手だ。レヴィウスの言う通り、忘れることにしよう。




「――シルフィア。俺は今、人間を魔族の住処に迎えるために資料を集めている。他の魔族たちを説得するために」



 レヴィウスが静かな声でそう言った。



「そうなのですか。魔族会議では反発されましたが……レヴィウス様は今もそれを叶えようとしているのですね」

「そうだ。一年や二年では変わらないかもしれないが、それでも諦めたくない。情報を揃えて根気よく説得すれば、魔族たちの意見も変わるかもしれない。そうしたら……シルフィア。またアドラー家の城に住もう」

「えっ?」

「俺はシルフィアを妻のような立場で迎えてやりたいと思っていた。今の状況下では無理だとしても、いずれ人間を呼べるようになったら、またシルフィアと一緒に過ごしたい。前のように城での仕事をしなくとも構わない。……俺の伴侶として、共に在ってくれないか」

「は……伴侶!?」



 私は声を震わせた。

 ……そういえば、魔族会議のときにレヴィウスはそんなことを言っていたような気がする。私をアドラー家に迎えたいとか何とか……。

 レヴィウスは長いこと城に誰も迎えずに過ごしていたようだ。だから、私みたいな者相手でも簡単に熱を上げてしまったのかもしれない。

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