24_俺を好きだと言ってくれた人間について①(レヴィウス視点)
魔族会議が終わり、シルフィアがいなくなってから数週間経った。
俺は、魔族の領主としての仕事に邁進している。
これまでの作業に加えて、人間と魔族の関係を好転させるための資料集めも並行して行っている。
筆頭使用人のクリムトには度々身体を休めるように言われるが、その言葉に従おうとは思わなかった。
それでも、体力の限界はある。
意識が朦朧とするくらいまで働いた後、俺は私室に戻ってひと眠りした。
(シルフィアに会いたい……)
目覚めた後、天井を見つめる俺の脳裏に浮かんだのはそれだ。
寝台から出て、ソファに移動した。
指先でソファに触れて、同時に記憶が呼び起こされる。
(そういえば、一度シルフィアをこの部屋に呼んだとき、ソファが気に入った様子だったな。あの顔は……可憐だったな……)
そう思い浮かんだ刹那、胸が軋むような心地がした。
――寝ても覚めてもシルフィアが頭の中に浮かんでくる。
『レヴィウス様、私にまた会うためにお仕事に明け暮れていると聞きました……! 私なんかのために手を尽くしてくれるなんて、身に余る光栄です!』
『――ですが、今更になってあれこれやっても、もう遅いのではないですか?』
『このたびは人間界に戻ることになりましたが、私もずっとずっと会いたいと思っています……! 貴方が恋しいです。レヴィウス様、大好きです!』
『私はレヴィウス様と一緒にいたいって最初から言っていたのに、貴方は取り合ってくれなかった。酷い人です』
『……でも、レヴィウス様にご負担が掛かるくらいなら、私はまた会えなくても構いません。こうして夢の中で会えるならばそれで……!』
『夢の中だけでは足りないです。絶対に現実でも会いに来て下さいね!』
(現実に近いシルフィアと、俺の罪悪感から生まれたシルフィアが交互に語り掛けてくる……)
作業をしているときは没頭しているからまだマシだが、空白の時間が出来るとこうして頭の中に甘いシルフィアと厳しいシルフィアが浮かんでくる。
そして、自分は休んでいる場合ではないと思い知らされるのだ。
魔族会議で人間を魔族の住処に住まわせることは認めてもらえなかった。
――シルフィアが来る前に他の魔族がそう主張していたら、俺も同様に反対していたことだろう。
シルフィアが会議で厳しい目に晒されたのは、根回しが足りていなかった俺の責任だ。
(だが、奇妙に思った者もいる。ローヴァイン家……会議でのあの家の振る舞いは怪しかった。人間を警戒するといえど、あそこまで苛烈に排除しようとするものか? 特にあの、筆頭使用人らしいピンクブロンドの魔族。あいつがシルフィアを排除するように誘導していたように思う。あの者の動向も追加で確認するようにしないとな)
……また作業を増やしたら、クリムトが嘆くだろうか。
クリムトに、人間のために貴方がそこまでする必要は無いと嘆かれたことがある。
だが、俺があれこれ調査するのはシルフィアのためだけではない。本質的には自分がそうしたいからやっているのだ。
人間と魔族の関係について、俺では気づけない新たな可能性を示して貰った。
笑いかけて褒めてもらうと満足感を感じた。
いつからか、城の中にシルフィアがいることが自分の日常となった。
最終的には他の者に渡すことなんて考えられなくなった。
最初はシルフィアのことを怪しい人間としか思っていなかったし、敵意が無いとわかってからはミロワールに引き渡すことを考えていた。
会議が近くなった頃は……やるべきことを終えた後、シルフィアと触れ合う時間を増やそうと思っていた。
こんな結末になるのなら、彼女が城にいる頃に領地の観察のために出掛けたり、部屋で共に茶をしたり、そんな機会をもっと増やすべきだった――そう思う。
(シルフィアはミロワールに身柄を引き渡すという俺の計画を受け入れてくれたが、内心ではずっと悲しんでいたのだろう。酷なことをした……)
俺は一人ソファに身を預けて項垂れる。
シルフィアが城にいる間、俺は領地の見回りなどに専念していたため、城を不在にすることも多くあった。
上司として接することが多かったクリムト、同性の仲間として距離が近かったリモネ、シルフィア手ずから世話を焼いていたハウディ……。
シルフィアと過ごした日々を考えると、使用人らのことも羨ましいと思ってしまう。
(もっとシルフィアと話したい。城の仕事をして貰わなくてもいい、他愛もない話を出来るだけで俺は……)
そう思い、俺は掌で目を覆った。
――人間界の季節は、そろそろ肌寒くなってくる頃だろうか。
シルフィアは人間界に頼る者がいないようだ。別れ際に人間の金貨を渡しはしたが、金があるとしても心細さは晴れないのではないか。女性一人で家族もおらず、無事にやっていけるのだろうか。
彼女は働きもので、生活関連のスキルを沢山身に着けているようだったが、それは一人で生き延びないといけない環境だったからそうせざるを得なかったのかもしれない。
これからは自分が共にいることで、シルフィアの負担を無くしてやりたい。代わりに、有り余るほどの喜びを与えられるようになれば……。
だが、シルフィアは人間界に帰ってしまった。
魔族に人間の文化について浸透させてシルフィアを迎えられるようになるまで、あとどれくらいかかるかはわからない。
――俺とシルフィアは、もう二度と会うことは叶わないのか?
(……いや! やりようはある。あの方法ならば……)
長いこと頭を悩ませた果てに、俺の頭にはある方法が浮かんでいた。
実現するためには、もう少し俺の魔法の精度を上げないといけないだろう。だが、シルフィアに会う為ならば――。
そう考えている俺のもとに、呼び出しのベルが鳴った。




