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20_争いがそれで無くなるのならば…!

 

 レヴィウスの発言に、議会はざわついている。



「ゴルディウスがカストロに裏切られて殺されたという事実は存在しなかっただと……!?」

「カストロが死んだ理由が事故だったというなら、当初は人間側に悪意は無かったということか!?」



 まごつく魔族たちに向かって、レヴィウスは落ち着かせるように言った。




「俺もこの事に関しては混乱した。魔族と人間は対立すべしという考えで長いこと動いていたからだ。だが、今の考えは違う。かつての事故は魔族と人間の知識が双方に無いからこそ起きたものだ。シルフィアを城に迎えてから、アドラー家の出す成果は見違えて改善した。人間の知恵をシルフィアが与えてくれたからだと、そう捉えている」

「レヴィウス! 貴様は、アドラー家の収益の増加は人間の仕業だと言うつもりか!?」

「俺の部下たちの働きもあるが、シルフィアがそれを大いに助けてくれたということははっきりと主張しておく。ここ数十年の魔族が出す収益が停滞していたのは皆も知るところだろう。人間との交流によって魔族たちにもいい影響が出る――俺はその可能性を提示したい。そう考えてこの会議に出席したんだ」



 魔族たちはレヴィウスの発表に慄くも、「でも我々の領地収入が長いこと伸び悩んでいたのは事実だな……」「アドラー家の言うことも一理あるのか……?」などと小声で話し合っている。




(半信半疑って感じではあるけど、でも魔族たちは結構レヴィウスの言うことを聞いてくれているわね……)



 今まで議論の流れを静観していたが、どうやらこの会議の魔族たちは、「領地収入が高いこと」を重視しているらしい。

 会議の前に、魔族間で御三家と呼ばれている家はストレイウス家・ローヴァイン家・アドラー家だとレヴィウスに教えてもらった。

 領地収入が一番高いらしいストレイウス家のミロワールは、今回は会議のホストになっている。近年急激に力を付けたらしいローヴァイン家と、過去に事件を起こしたもののまた領地収入が伸びているアドラー家の発言の重みは、恐らく同じくらいの効力を持つのだ。



(最初は人間を殺すべしと言っていた魔族たちも、レヴィウスの話に前向きになっているみたい。もしかしたら、本当に人間と魔族との関係はいい方向に向かうのかもしれない……!)




「……ぐすっ。こ、こわいわ……!」



 私がそう考えていると、不意に女性の泣き声が聞こえた。



 ローヴァイン家のチェルシーがさめざめと涙を流し、その隣の領主ダズが狼狽して彼女の肩を抱いていた。



「おおどうした、チェルシーよ! 俺に何でも言ってみなさい」

「ここにいる魔族の皆さんが……レヴィウス様の発言を鵜呑みにしていることが怖くて。皆さんは、人間を魔族の住処に受け入れることに賛成するのですか!? ゴルディウス様とカストロの一件が誤解だとしても、その後に人間が魔族に攻撃を仕掛けてきたことには変わりないのでしょう!?」

「……!」

「なら、結果は同じですわ。今後も人間は魔族に叛意を向ける可能性は充分にあるということ。それなのに、共に暮らそうとするなんて! また前みたいな事件が起きると思うと、私、怖くて……! うっ、うぅ!」

「チェルシー! 大丈夫だ、お前の不安は全て俺が晴らしてみせよう。……お前たち! チェルシーの言う通り、人間と魔族の間に殺し合いが起きたことは事実だ。人間と交流をするのはチェルシーのようなか弱い者に不安を与える行為ではないか。いっときの収入に目を眩ませて危険を呼び込むのは恥ずべき行為だ!」




 泣き出したチェルシーと、それを受けてやはり人間を排斥するべきと主張するダズに、「まあそれも確かに……」「危険具合は調べた方がいいかもな」「チェルシー様……!」「チェルシーちゃん泣かないで」などと魔族たちはざわめいている。



(なにこれ。また雰囲気が変わってきた気がする。……もしかして、魔族って……女性の涙に弱いの!?)



 チェルシーが泣き出したら、「確かに人間は危ないかも」「人間がどのような攻撃力を隠し持っているかわからない」「力を持たない魔族を脅かす行為ではないか」「チェルシーがかわいそう」という意見が俄に浮上してきた。



 目の前で異変を起こした出席者がいれば、そのリアクションに引っ張られる。弱っている者がいたら守りたくなる……。

 そういう点では、人間も魔族も変わりないのかもしれない。



「どうだ。これこそが魔族の総意だ! レヴィウス、その人間を始末しろ。それが皆の平穏の為になると知れ!」



 ダズは意気揚々と宣言した。

 その隣で、チェルシーは私を嘲るような目で見ている。



 ……やっぱり、チェルシーの振る舞いはわざとだ。

 私を追い詰めようとして泣き真似をしたのだろう。



 そんな彼女に、私は……。




「違う! シルフィアは……」

「うっ……」

「……!?」



 口を開こうとしたレヴィウスの隣で、私は小さく震えだした。


 か細く、か弱く、哀れな声で……すすり泣く。



「すみません、皆様……ほんとうにすみません! 私は、レヴィウス様と一緒に暮らして、魔族の方の素晴らしさに気付きました。ですが、実際にここに出席して、人間がこれほどまでに疎まれていることを知りました。私は魔族の方々を尊敬しております。あなた方の総意が人間を排除すべしというものなら……私は!」



 涙ぐんでいた私は、意を決して顔をあげる。



「人間が魔族の住処にいると争いの火種になるのは間違いないのでしょう……! ならば、私は今すぐここを去りますっ……! 煮るなり焼くなり、ご自由にどうぞ! それでみなさまに平和がもたらされるならば、本望です!」




 チェルシーが教えてくれたこと。

 それは、「魔族には泣き落としが結構効く」ということだ。

 故に、私ははらはらと涙を流して、思いっきり哀れみを誘うことにした。




(前世、私は周囲の人に媚びるために、色んな表情を作れるように努力してた。その中のレパートリーのひとつが、涙よ。涙というのはリスクが高いもの。同情してくれる人にはてきめんに効くけど、泣いて状況を動かそうとするなんて卑怯だって厳しく見られる可能性もある。でも、チェルシーが先に行動してくれたおかげで、賭けてみようと思えた。ありがとう、チェルシー) 


 この会議が始まってから初めてリアクションを起こした私に、魔族たちの注目が集まっているようだ。



「に、人間が泣いている……!」

「人間も涙を流すというのか!?」

「かつて魔族を攻めてきたような攻撃力を有しているとは思えないな。あまりにも弱く、儚い」

「哀れな姿だ。あのような生き物を、本当に処罰するべきなのか……? 我々は誇り高い魔族だぞ……!?」



(……これは賭けだったけど、結構効いてるみたいじゃない!? 良かった。これでまた、議論の風向きが変わりそう)



「シルフィア! ああ、すまない……そんな顔をさせてしまって……! こんな会議に連れてきて、辛い思いをさせたのは全て俺のせいだ! シルフィア、こんな時間はすぐに終わらせるからな!」



(……なんか、私の涙が一番よく効いてるのはレヴィウス相手な気がする。大丈夫かしら、この人。そのうち詐欺とかに引っかかったりしないかしら)



 レヴィウスに必死に呼び掛けられながら肩を抱かれた私は、下を向きながらそんなことを考えた。




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