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2_レヴィウス様を本当に慕っています

 

 私は今、祭壇の周囲をうろついている。



 レヴィウスがいなくなって一人になったから、「これで帰り道を探せるのでは」と張り切って探したけど、それらしいものがなかった。

 この場所はある程度行くと崖になっていて下り坂が存在しないように見える。

 こんな所まで村人が私を連れてくるのは不可能だと思うけど、魔族に捧げ物をする祭壇には不思議な力があって、そこに置かれたものは転移すると聞いたことがある。私もその方式でここまでワープしてきたのかもしれない。



(それならここの祭壇から人里に戻れないかと思ってしばらく座ってたけど、何も反応しなかったわ。人の住む場所から魔族の場所への一方通行なのかもしれない)



 そうこうしているうちに、頭が少しぼんやりしてくる。



(連れられてきてからまだそんなに時間は経ってないから、体力の限界はきてないと思うんだけど……変だな……頭が重い)



 レヴィウスがいなくなる前に言っていたことを思い出す。

 ここ一帯の環境はレヴィウスの魔力が込められていて、この霧は【レヴィウスに叛意を持つ者には毒になる】とか……。



 息をすっと吸い、私は甘やかな声を出した。



「私はレヴィウス様が大好きです! 顔もいいし声もいいし、足も長くてとてもスタイルがいいです! 祭壇も落ち着いたデザインでセンスもいいです! 素敵! 最高! ……うっ、うう……」



 ここにはいないレヴィウスへの愛の言葉を口に出してみるけど、霧の濃さと頭の重さは変わらない。むしろ、更に重くなったような気がする。



(魔族が使う魔法の詳細はわからないけど、口に出して媚びればOKという訳ではなさそうね。多分、本心からレヴィウス様大好きって思わないとダメなんだ。うーん……)



 レヴィウスの顔がいいと思うのも声がいいと思うのも私の本心だが、どうもこの霧にとってはそれでは足りないらしい。



(多分、レヴィウスを心から好きになれればいいんだ。レヴィウスを、好きに……。難しいよ~! そもそも今までの人生においても好きな人が出来たことなんてないのに。

 好きな人がいないっていうのは前の人生でもそうだったけど。前の人生か……。ああ、また私の夢は叶わずに終わるのかな……)




 私は息を吐き出して、かつてのことを思い出す。



 前世の私にはある憧れがあった。

【自分のカフェの店を持つこと】だ。



 カフェの空間が好きだ。メインの食事もデザートもドリンクもある。綺麗な調度品に、落ち着ける静かな空間。

 複数人で話している人もいたけど、楽しそうに雑談している人が多かったと思う。



 私は基本的に行くときは一人で行っていた。

 経済的な事情からあんまり高いものは頼めなかったけど、あの空間に行けると思っただけで何分歩いても苦じゃなかった。

 誰かと話すときは【その人の機嫌を損なわないように】と考えがちなので、一人でいられる空間が好きだったのだろう。




 ケーキ屋さんにも憧れた。基本的にケーキを買いに来る人はみんななんとなく機嫌がいい。あそこは幸せで満たされている空間のひとつだと思う。

 でも、ケーキ屋さんはテイクアウト専門のことが多くて、そこが私の環境だとやや減点だった。家にいても落ち着かないから、本来おいしいであろうものを食べていても味がわからなくなることがあった。人間の本能なのか、緊張状態にいると食事を楽しめるコンディションではなくなるらしい。



 だから私がやるならカフェがいい。かわいいケーキと、美味しいお茶やコーヒーが揃っていて、ゆったり落ち着ける場所を提供出来たらどんなに嬉しいことだろう。





 経済的に豊かじゃないと自分の店を持つのは難しい。仕事を長年続けた上で余裕が出来る日がいつ来るのかはわからない。でも、いつかは……。そんな風に夢想していた。




 今世の私は、生まれてからずっと「いつかは自分の店を持つ料理人になりたい」と言って、家族に料理を教えてもらっていた。

 実家は農家なので普段は家の手伝いで農作業をしていたけど、空いた時間にはよく料理やお茶を淹れることの練習をしたものだ。




(ホルト村は農業が盛んなところで、そこから生活拠点を移さない人も多い。でも、私はいつか街の方へ行って店を持ちたいと思ってたから、「成人したら村を出る」ってずっと言ってたのよね。それが村の人にとってあんまり面白くなかったのかも。それもあって生贄に選ばれたのかもしれないわね……)



 今世の私の夢は、恐らく無意識に前世の私の影響を受けていたのだろう。

 どうせなら対人関係のスキルも引き継いでおきたかった。ホルト村の住民に対してうまいこと立ち回れば、生贄には選ばれなかったかもしれない。

 その場合、他の住民が生贄になっていたかもしれなくて、それはそれで後味が悪いが……。




(あの村にはもう戻りたくないけど、天候不順で状況が悪かったというのはあるわね。それさえなかったらこんなことにはならなかったかも。

 レヴィウス、一人で飛んでいっちゃったけど、環境を変えられるくらいの力があるなら村に雨を降らせてくれればいいものを…………、ウッ)



 今までのことを回想しつつ頭の中でレヴィウスに文句を言ったら、周囲の空気がズンと重くなったような気がする。叛意ありと判断されたのかもしれない。



(まずい……)



 私はフラフラしながら歩く。

 このままだとどんどん意識が遠のいていって……やがて命を落とすのかもしれない。まだ考える力があるうちになんとかしないと。



 霧がかった視界の中には、生き物らしきものはいない。あるのは植物だ。細い葉の植物が生えていて、樹氷のように氷が枝を覆っている。




(ホルト村は春の季節だったけど、ここは気温が低いみたいね。山の上だからかな。

 ……緊急事態だわ。もう、やるしかない!)



 私は枝の氷に指で触れ、手のひらに氷を集めた。

 そして、私の口にざらざらと氷を流し込む。

 氷やアイスのような冷たいものは気分をしゃっきりさせる効果がある。私は氷を食べることで少しでも意識を保ちたかった。



「――!」



 多少眠気覚ましになればいいと思っていたけれど、想像以上の効果があった。



「お、おいしい……!」


 私が食べた氷は――美味しかった。

 予想外の美味しさに、覚醒した。



 私は歩き回り、周囲の枝の氷を集め、シャリシャリと氷を食べ続ける。



(おいしい……おいしい! この雑味のない透き通るような味わい、ふわふわシャリシャリな食感、村で食べていた氷とは大違いだわ……!!

 いつか自分の店を持ったら、この氷でドリンクを出したいわ。氷の美味しさはドリンクの味にも影響するから、みんな喜んでくれるはず。かき氷もいいな。この世界では馴染みのないスイーツだけど、夏になれば人気が出るよね)



 そんな風に夢想して、私は笑顔になる。



(ただ、仮にここを出て人里に戻れるようになったとして、この氷はもう手に入らないのかもしれないのよね。

 ここ……レヴィウスが管理しているらしい場所でしかこの氷は食べられないのかもしれない。

 なんでこんなに美味しいのかしら。魔族特有の魔力が味にいい影響を及ぼしてるとかなのかな。

 はあ、それにしても美味しい。魔族がどれくらい人に恵みをくれるのか今まで半信半疑なところがあったけど、これは明確に”恵み”ね。

 レヴィウス万歳!)



 脳内でレヴィウスを崇めた瞬間――重かった空気がぱっと軽くなったような心地がした。


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