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11_レヴィウス様と二人でいられるなんて光栄です②

 

 レヴィウスは、日記の中身を見せながら過去のことを教えてくれた。

 ゴルディウス……レヴィウスの父が生きている頃のことを。



 ゴルディウスがこの城の主をやっている頃、レヴィウスはまだ幼かった。

 ゴルディウスの妻、かつレヴィウスの母はレヴィウスを産んだ後にほどなくして亡くなってしまったらしい。だが、ゴルディウスの働きによって支配下の領地は安定しており、この城にはも沢山の使用人がいた。レヴィウスもそれに世話されてきた。だから生活に困るようなことは無かった。



 ゴルディウスは、人間に興味を持っていた。

 人間から送られる捧げ物の中に、書物や記録があった。それを読んで人間の文化に親しんだゴルディウスは、『いつか人間と直接触れ合ってみたい』と考えるようになったのだ。

 そして、ある日お忍びで人間界へと降りていった。

 魔族は羽根や角など人間にない特徴を持つものだが、その気になれば隠して人間に溶け込むことも出来た。



 ゴルディウスが降りていった先で、ある男に出会った。

 その男は路地裏の奥に追い詰められていて、複数人の男に武器を持って取り囲まれていた。



 ゴルディウスは慈悲深き王として魔族たちに慕われていた。

 人間に対してもその慈悲は発揮された。

 今にも命を落としそうになっていた男をゴルディウスは助けた。

 その男はカストロと名乗った。



 人間界では考えられないような強い魔力を放出するゴルディウスを見て、カストロは「ゴルディウスは魔族だ」と勘付いたらしい。

 人間と魔族は相容れないもの、別の世界で生きるべし――そう伝えられてきたが、カストロはゴルディウスに深く感謝して、また会いたいと願った。

 ――人間であっても裏切って殺しにかかってくる者もいれば、そんな自分を助けてくれる魔族もいる。自分は助けてくれた相手を信じたい。

 カストロはゴルディウスに対してそう伝えたらしい。



 ゴルディウスはその後も度々カストロのもとに会いに行くようになった。お忍びで会いに行っていたこともあって機会は限られていたが、二人で観光地を回ったり、人間の文化を教えて貰ったりして、親密な時間を過ごした。

 その中で、カストロが人間の国の王であるということも知った。ゴルディウスが支配下に置いている人間の地域の中にいくつかの国があり、カストロはその中の王の一人だった。

 ゴルディウスと初めて会ったときに追われていた相手は、王位継承争いのために密かにカストロを暗殺しようとしていたようだ。



 ゴルディウスは、自分も魔族の領主であるとカストロに伝えた。

 種族は違えど、上に立つ者としての話には通じ合うものがあり、二人は更に仲を深めた。

 やがて、カストロは「今までは密かに二人で会っていたが、次は互いの部下を連れて親睦会を開きたい」と申し出てきたそうだ。

 ゴルディウスは喜んでその提案に賛成した。



 ****


 レヴィウスが見せてきたゴルディウスの日記は、カストロとの会合を楽しみにしているところまでで終わっている。



「ここから先は……どうなったのですか?」

「父はこの次の日に亡くなったから、日記はもう残っていない。ここから先に起きたことは、間接的な情報になるが……当時の使用人から伝えられたことで把握している」



 ゴルディウスは約束通り部下を数人連れてカストロに会いに行ったらしい。

 魔族と人間の正式な会合というよりは、その前段階のようなものを想定していたようだ。今回の親睦会で人間とうまくやれそうだと判断したら、公的な会を開こうと考えていたらしい。

 魔族と人間は生きる世界を分けるべしという言い伝えは魔族側にも存在したが、ゴルディウスはその教えに対して懐疑的だった。世界が出来た頃と今とでは状況も違うのだから、魔族と人間は交流をするようにしても良いのではと考えていたのだ。




「だが、ゴルディウスとカストロは、最後の会合で二人とも死んだ」

「……!」

「父が何を考えていたかは、全て日記に残されている。父は人間との親睦会を楽しみにしていた。だから、人間側が裏切ったんだ。魔族はその場で攻撃を受けた。だが、父の部下が抵抗したこともあって、カストロとその部下も死んだ。だが、王を亡くした国は、そこで留まることは無かった……」



 人間たちは魔族に対する捧げ物で武器を隠し持った人間を送るようにしたのだ。

 人間よりも魔族の方が戦闘力が高いとはいえ、人間たちに住処を荒らされて、魔族たちは混乱に陥ったらしい。

 魔族の住処に来た人間を皆殺しにすることで、その一件は沈静化することとなった。



「魔族たちはその事件を引き起こした者を恨んだ。その当人……ゴルディウスは死んでしまったが、まだその家、アドラー家が残っている。アドラー家滅ぼすべしと有力魔族は声を揃えたし、俺の家からは使用人が次々と逃げていった。アドラー家に敵対する者もいた」

「……そんな恐ろしいことが起きてしまったのですね」

「だが、かつてアドラー家が離散しそうになったときも残ってくれた使用人はいる。今、城にいる使用人……クリムト、リモネ、ハウディ。彼らはそのときの使用人の縁者に当たるものだ」



 レヴィウスの話を聞いて、この城に使用人が少ない理由がわかった。彼が本当に信用が置けると判断した者を使用人にしているのだろう。



「使用人が残ったといえども、アドラー家に対する風当たりは強かった。が、そこに異論を唱えたのが、当時のストレイウス家の家長だ。ストレイウス家はその領地で金脈になる炭鉱を次々と掘り当てる力を持っていて、魔族の中でも発言力の強い家だ。その家がアドラー家を援助して、家を取り潰す話は無くなった。だからうちにはストレイウス家に大きな恩義がある」

「なるほど。レヴィウス様たちはストレイウス家の方に助けられたのですね」

「ああ。その家の現在の長がミロワールだ」




 その名前は以前に聞いたことがある。レヴィウスが人間――つまり私を差しだそうとしている相手がミロワールだ。



(他の家に送るなんて横暴じゃないかと最初は思ったけど、レヴィウスとしては筋が通ってる話なんだな。今の話を聞くと……ミロワールに贈り物をしようとする彼の気持ち自体は否定出来ないわ)



 そう考えつつ、私はレヴィウスに改めて笑いかけた。



「レヴィウス様……大変なご事情を教えて頂き、ありがとうございました。そのお話を聞くと、私がミロワール様のもとへ行くのは大変な名誉だなと改めて思いました。ミロワール様への立派な捧げ物となれるよう、約束の日までは今まで以上に城内の仕事に励もうと思います! 私ごときの働きでは、中々評価していただけるかはわかりませんが……!」

「……シルフィア」



 レヴィウスは私の目を見つめて、低い声で呟いた。




「お前は魔族の城の中でよくやってくれている。使用人たちもお前を信頼するようになっている。だからこそ、俺はこの部屋に来たのだ。過去の失敗を忘れないために」

「……」

「俺がお前の働きの一部を評価するのはいい。だが……人間の全てを信頼することは恐ろしい。父ゴルディウスと同じ轍を踏んでしまうかもしれない。俺はアドラー家を守らないといけない身だからな。そういう事情があるということ、お前には伝えておきたかった」

「……ありがとうございます」




 私は改めてレヴィウスに頭を下げる。




「過去に魔族と人間との間にそんな出来事があったとは存じ上げませんでした。そういった事情があるなら、人間を信用出来ないのは当然だと思います。むしろ、私をここまで重用してくれたことに感謝するばかりです……!」

「人間を信用出来ない、か……」




 レヴィウスはその言葉をオウム返しに呟き、そして首を小さく振る。



「――いや。俺は人間だけが嘘をつくとは思っていない。まあ、カストロの一件があった影響で、人間に対する締め付けは以前よりも強くするよう心がけているが……。カストロよりも、ゴルディウス……父の方が恨めしい。父は俺に嘘を付いていたからな」

「え? そうなのですか?」

「父がまだ生きている頃、城に戻る時間が遅くなる日が増えて、俺は父にいつもと違う場所にでも行っているのかと質問した。父は、仕事を少し増やしただけだと笑っていた。そのとき、父はカストロと仲良くやっていた訳だ……。とんだ裏切りだ」



 レヴィウスは深く息をついた後、憎々しげに呟いた。



「俺は嘘が嫌いだ。父を騙した人間も、俺を騙していた父のことも。その気持ちは晴れない。今になっても、いつまでも……」

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