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神様、拾いました。  作者: 久悟
第一部 覚醒と序章
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第7話:神々の戸籍係

 第二章:神祇庁という鳥籠


 俺は今、人生で最も理解不能な状況に置かれている。


「……ここ、どこですか?」

「国会議事堂の、地下です」


 目の前の少女は、感情の読めない顔で端的に答えた。

 国会議事堂。その単語だけで、一般市民には縁遠い場所だ。そのさらに地下。俺はまるで、スパイ映画の主人公にでもなったかのような気分だった。


 あの後、俺は彼女に半ば強制的に連行され、黒塗りの車に乗せられた。断る隙も、逃げる隙もなかった。からかさ様を握りしめることだけが、俺に許された唯一の抵抗だった。


 案内されたのは、異様な空間だった。

 壁や床は、空港のロビーのように近未来的で、青白いライン照明が走っている。だというのに、そこに置かれている調度品は、博物館で見るような漆塗りの長椅子や、年代物の屏風ばかり。天井からは、釣り合わないほど巨大な和紙の提灯がいくつもぶら下がっている。

 SFと和風が、無秩序に、しかし奇妙な調和を保って混在していた。


「ようこそ、天野宗佑君。我々『神祇庁(じんぎちょう)』が管理する、聖域へ」


 奥の扉から現れたのは、柔和な笑みを浮かべた、四十代くらいの男性だった。上質なスーツを着こなし、いかにも「できるビジネスマン」といった風情だ。

 しかし、その目だけは一切笑っていなかった。品定めするような、鋭い光が宿っている。


「私が、(たちばな)だ。詩織から報告は聞いている。単独で荒神と渡り合い、あまつさえそれを無力化したそうじゃないか。素晴らしい」


 橘と名乗った男は、パチパチとわざとらしく拍手してみせた。

 俺はどう反応していいかわからず、ただ黙って突っ立っていることしかできない。


「神祇庁……?」

「そうだ。我々は、神々の起こす超常的な事象から、この国の秩序を守るための組織だ。そして、この国会議事堂の地下に広がる庁舎は、その関東における最大拠点……東京神祇局だ。私は、ここの局長を務めている」


 ――神祇庁の、東京神祇局。初めて聞くな。


 俺が組織の構造を完全に理解できていないのを察してか、橘は話を続けた。

 

「まぁ、今はまだ理解できなくていい。簡単に言えば、我々の本当の仕事は、君が今日遭遇したような神々の問題から、一般社会を守ることにある。いわば神々の戸籍係、といったところかな」


 橘は、俺の隣に立つ、詩織(しおり)と呼ばれた少女に目配せする。

 

「詩織。君は少し席を外してくれ。彼とは二人で話がしたい」

「……承知しました」


 詩織は不満そうな顔を一瞬見せたが、黙って一礼し、部屋を出て行った。

 橘は、俺に長椅子に座るよう促す。革張りのソファとは違う、硬い木の感触が尻に伝わった。


「さて、宗佑君。君のその力について、少し聞かせてもらおうか」

 

 橘は、俺の鞄から少しだけ覗いている、赤い和傘の柄に目をやった。


「その付喪神……我々のデータベースにも記録がない、未知の存在だ。君は、どうやって()()と契約した?」

「契約、と言われても……。ただ名前を呼んだだけで……」

「名前、か」


 橘は、興味深そうに顎に手をやった。

 

「君には聞こえるのかね? 神々の声が」

「……ええ、まあ」


 肯定すると、橘の目の光がさらに鋭くなった。

 

「そして君が呼んだのは、ただの名前ではない。神の本質たる『真名(まな)』だ。それは、神と魂レベルで対話し、その存在を心の底から理解しなければ、決して知ることのできないものだ」


 ――真名(まな)

 その言葉に、どきりとする。


「君のような人間は極めて稀だ。数百年、いや、千年に一人現れるかどうか……。我々は、君のような存在をずっと探していた」


 橘は立ち上がり、ゆっくりと俺に近づいてくる。その体から放たれる威圧感に、俺は思わず身を固くした。


「君のその力が本物かどうか、試させてもらおうじゃないか」

 

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