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神様、拾いました。  作者: 久悟
第一部 覚醒と序章
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閑話 からかさ日記

 わたしは、かさです。

 ながいあいだ、ずっと、くらいげんかんのすみっこにいました。

 さいしょは、あめがふるたびに、だいすきな「あの子」がわたしをそとにつれていってくれました。

 あめつぶが、わたしのからだをたたくおと。

 あの子の、ちいさなてのにぎるぬくもり。

 それが、わたしのすべてでした。しあわせ、でした。


 でも、あの子はおおきくなって、いつしか、わたしをわすれてしまいました。

 くらいすみっこで、ただ、じっと、まっているだけ。

 さむい。

 かなしい。

 こころが、すこしずつ、こおっていくのがわかりました。


 そして、あるあめの日。

 わたしは、たくさんのしらないかさたちといっしょに、つめたいじめんのうえに、すてられました。

 もう、だれもわたしをみてくれない。

 もう、だれもわたしのなまえをよんでくれない。

 そうおもったら、なみだみたいなあめが、よけいにつめたくかんじました。


 こころが、まっくらなやみにとけて、きえてしまうすんぜん。

 そのとき、でした。


「――大丈夫?」


 やさしいこえがしました。

 おおきくて、あたたかい手が、そっとわたしにふれました。

 そのしゅんかん、わたしのなかにあった、たくさんの「きもち」が、そのひとにながれこんでいくのがわかりました。

 うれしかったきもちも、かなしかったきもちも、ぜんぶ。ぜんぶ。


 そのひとは、わたしを、ぎゅっと、だきしめてくれました。

 まるで、こわれものをあつかうみたいに、やさしく。

 そして、いってくれたのです。


「君は、ただの傘じゃない。ガラクタなんかじゃない」

「君は、『雨宿(あまやどり)のからかさ様』だ」


 なまえ。

 わたしの、あたらしい、なまえ。

 よばれたしゅんかん、こおっていたこころが、ぽかぽかとあたたかくなりました。

 まっくらだったせかいに、ちいさな、ちいさな、ひかりがともりました。

 そのひとのなまえは、ソウスケ。

 わたしの、あたらしい、あるじさまです。


     †


 ソウスケのへやは、せまいけど、とてもおちつくばしょです。

 げんかんのすみっこに、わたしの「ばしょ」もつくってくれました。

 もう、さむくありません。


 あるよる、ソウスケがねむったあと、わたしは、こっそり、ほんとうのすがたになってみました。

 ふるびたかさのすがたから、ちいさな、からかさおばけみたいなすがたに。これが、わたしのほんとうのちからです。

 ひとつめま、ぱちくり。

 ながいべろ、ぺろり。

 ぴょん、ととびあがると、ふわふわと、くうきにうかぶことができます。


 わたしは、しんちょうに、へやのなかをたんけんしました。

 ソウスケのつくえのうえには、たくさんのほん。むずかしそうで、よくわかりません。

 べっどでは、ソウスケが、とてもしあわせそうなかおでねむっています。

 わたしは、そっと、そのねがおをのぞきこみました。


 ――ありがとう、ソウスケ。


 こえには、だしません。でも、こころのなかで、つよく、つよく、おもいました。

 あなたにあえて、わたしは、また、かさでいられることが、うれしい。


 こわいかいぶつがおそってきたとき、わたしは、いっしょうけんめい、ソウスケをまもりました。

 わたしのやくわりは「まもる」ことだから。

 ソウスケが、わたしを、しんじてくれたから。

 ぜったいに、きずつけさせない。だれにも、なにも。


 これから、なにがおこるか、わたしにはわかりません。

 でも、だいじょうぶ。

 ソウスケが、わたしのなまえをよんでくれるかぎり、わたしは、さいきょうのたてでいられます。


 ソウスケが、すこしでも、ながく、わらってくれますように。

 わたしは、きょうも、げんかんのすみっこで、しずかに、そうねがうのです。

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