表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様、拾いました。  作者: 久悟
第二部 陰謀と深淵
56/56

第16話:鞍馬の試練

 風を切り裂く音。

 眼下には、宝石を散りばめたような、京都の夜景が広がっている。

 俺と詩織は、大天狗の太い腕に抱えられ、夜空を飛んでいた。あまりの高度と速度に、声も出ない。詩織は恐怖で顔を青くしていた。


 やがて、俺たちが降ろされたのは、鞍馬山の山頂近くにある、巨大な杉の木々に囲まれた苔むした岩の上だった。

 空気は澄み渡り、月明かりが神聖な光のように、その場所を照らしている。

 ここが彼の縄張り。彼の神域。


「……さて」

 

 大天狗は岩の上に胡坐をかくと、改めて俺たちを見下ろした。

 

「まずは名乗れ、小僧。そして、そこの巫女娘もだ」

「……天野、宗佑」

「……神楽坂、詩織です」


 俺たちが名乗ると、大天狗は満足そうに頷いた。

 

「うむ、天野宗佑。お主、あの双子の小童どもを退けたそうだな。しかも、ほとんど無傷で。……どうやった?」

 

 彼の問いは、単刀直入だった。

 俺は、隠しても仕方がないと観念し、伏見稲荷での戦いの一部始終を話した。

 詩織と魂を繋ぎ、内外から連携して、神域迷宮を破壊したことを。


「……ほう。魂を繋ぐ、か」

 

 大天狗は、興味深そうに顎に手をやった。

 

「お主の先祖叢雲も、似たようなことをしておったわ。彼は、神々の魂の本質を見抜き、その役割を正しく結びつけることで、争いを収めた。……お主の力は、その片鱗か」


「……あなたは、俺の先祖を知っているのか?」

「知っておるとも。千年ほど前、この鞍馬の山で、一度だけ相まみえたことがある。……まあその時は、一言二言、言葉を交わしただけで終わったがな。我は、人間の矮小な争いには興味はないのでな」


 彼はそう言いながらも、その目は楽しそうに輝いていた。

 彼は退屈しているのだ。この、何百年も変わらない日常に。そして、俺という新しい「玩具」の出現を、心の底から歓迎している。


「……詩織」

 

 彼は、今度は詩織に向き直った。

 

「お主は、神楽坂家の娘か。天津神の血を引く巫女の家系。……その剣に宿すは、富士の女神か。悪くはない。悪くはないが、あまりにも型にはまりすぎている。まるで、鳥籠の中の鳥よ」

「……!」


 彼の指摘に、詩織が息を呑む。

 大天狗は、全てをお見通しなのだ。


「……さて。お主らの素性はわかった」

 

 彼は、にやり、と挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「では、ここからが本題だ。……我を楽しませてみよ」

 

「……は?」

「我は退屈しておるのだ。もしお主らが、その力で、この我を心の底から『面白い』と思わせることができたなら、お主らを解放し、力を貸してやらんでもない」


 それは、あまりにも自分勝手で、理不尽な提案。だが、俺たちに断るという選択肢はなかった。


「……何をするの? まさか、あなたと戦えとでも言うの?」

 

 詩織が警戒しながら尋ねる。

 

「戦い、か。それも一興。だが、お主らでは我の相手にはなるまい。……もっと、別の趣向が良い」

 

 彼は、俺をじっと見つめた。

 

「――天野宗佑。お主の、その仲間たちとやらを見せてみよ。お主の、そのガラクタどもが、一体どれほどの芸当を見せてくれるのか。じっくりと見物させてもらうとしよう」


 それは、彼からの試練。

 そして俺たちにとって、唯一のチャンス。

 俺は、詩織と顔を見合わせた。

 彼女の瞳には不安と、しかし俺を信じるという、強い光が宿っていた。

 俺は頷き返すと、覚悟を決めた。


「……面白い。やってやるよ」


 俺の前代未聞の、大妖怪を相手取ったエンターテインメントが、今始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ