第13話:外からの声
【その頃、詩織は】
私は、赤い迷宮の中で、一人立ち尽くしていた。
しんと静まり返った、不気味な空間。敵の気配はない。けど、それが逆に私の焦りを増幅させていた。
――宗佑は……どこに?
穴に落ちる最後の瞬間。
確かに、彼の手を握っていたはずだった。
けど、目を覚ました時、私は一人だった。双子神は、意図的に私たちを分断したらしい。各個撃破を狙うために。
私と宗佑。
どちらが彼らにとっての本命の獲物か。考えるまでもない。
「名付けの祖」の力を継ぎ、そして、もう一つの「勾玉の欠片」を持つ、天野宗佑その人だ。
ならば今頃、彼はたった一人で、あの双子の相手をしているはず。
――無茶をするに決まっているわ、あの馬鹿は。
彼の、お人好しで、自己犠牲的な性格。
そして彼の戦い方は、私という攻撃の「剣」があってこそ真価を発揮する。
早く合流しなければ。
私は剣を抜き、目の前の鳥居の壁を力任せに斬りつけた。
けど、炎の刃は甲高い音を立てて弾き返されるだけ。この空間は、強力な結界で守られている。物理的な破壊は、不可能に近い。
「くっ……!」
どうすればいい。何か方法はないのか。
私が焦燥に駆られていると、私の魂の奥底から、契約神である木花咲耶姫様の穏やかな声が響いてきた。
『――詩織、落ち着きなさい。道は一つではありません』
「……姫様……」
『物理的な繋がりが断たれているのなら、魂の繋がりを辿ればよいのです』
「魂の、繋がり……?」
『あなたと、あの少年との間には、すでに我ら神々でさえ羨むほどの、強い「絆」が結ばれている。その絆を信じなさい。そして、あなたの想いを声に乗せるのです』
――私の想いを、声に。
そうだ。
私にできることは、まだある。
私は目を閉じ、意識を集中させた。
全ての雑念を払い、ただ一点。天野宗佑という、たった一人の戦友の魂の気配だけを探る。
それは、嵐の海の中から、たった一つの灯台の光を見つけ出すような、途方もない作業だった。
けど、私は諦めなかった。
彼の、不器用な優しさ。
彼の、仲間を想う温かい心。
彼の、戦場で見せる驚くべき覚悟。
その全てを思い浮かべ、私のありったけの想いを声に乗せる。
「――宗佑!」
私の声は、物理的な音波ではない。
魂の叫び。
この異次元の壁を超えて、彼の元へと届けと。
「――聞こえる!? 宗佑!」
返事はない。
けど、私は呼びかけ続けた。
私の声が枯れ果てようとも。
私の魂がすり減ろうとも。
彼が一人で戦っている。その事実が、私に諦めることを許さなかった。
†
その頃。
絶体絶命の窮地に追い込まれていた、宗佑の脳内に。遠くから幻聴のような、しかし、確かに聞き覚えのある声が響いていた。
――……佑……!
――……聞こえる……!? 宗佑……!
「……詩織……?」
朦朧とする意識の中。その声は、まるで暗闇を照らす一筋の光のように。
彼の折れかけた心を、確かに繋ぎ止めていた。




