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神様、拾いました。  作者: 久悟
第二部 陰謀と深淵
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第12話:風と音の狩人

 頭が割れるように痛む。

 ゆっくりと瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは、どこまでも続く赤い鳥居の列だった。

 じめりとした土の匂い。そして、完全な静寂。

 俺はどうやら、気を失っていたらしい。


「……詩織!」


 俺は、跳ねるように体を起こした。だが、周囲に彼女の姿はどこにもなかった。

 ポケットの中を確認する。幸い、神座は無事だ。神域の中にいる仲間たちの気配も、ちゃんと感じられる。

 だが。


『――我が主。外部との霊的通信が、完全に遮断されています』

 

「……どういうことだ?」

『この神域迷宮は、複数の異なる次元が複雑に折り重なって構成されています。おそらく、詩織殿は今、我々とは別の次元の迷宮に囚われているものと推測されます』


 ――最悪だ。


 あの双子神は、俺と詩織の連携を警戒したのだ。そして、俺たちを別々の空間に隔離することで、戦力を半減させた。

 いや、それ以上だ。

 詩織というアタッカーを失った俺は、もはや守ることしかできない、ただの丸裸の王様も同然。


「――お目覚めかな? お兄ちゃん」


 その声は、すぐ背後からした。

 振り返ると、そこには双子の妹がにこにこと笑いながら立っていた。

 いつの間に。気配さえ感じなかった。


「僕の相手は君か」

 

 今度は、前方から兄の声。

 俺は挟み撃ちにされていた。彼らは、この迷宮のどこにでも、瞬時に現れることができるらしい。


「さあ、鬼ごっこをしようか」

「一人でどこまで逃げられるかな?」


 彼らの瞳にはもう、遊びの色はない。

 確実に獲物を仕留めようとする、狩人の冷たい光だけが宿っていた。

 俺は、神座からからかさ様を呼び出す。そして、ひたすらに走り出した。だが、それは絶望的な逃走劇の始まりだった。


「――そっちは、行き止まり」


 角を曲がれば、兄が待ち構えている。


「――こっちだよ、お兄ちゃん」


 別の道へ逃げれば、妹が先回りしている。

 風を操る兄の圧倒的な機動力。

 音の反響で全てを見通す、妹の完璧な索敵能力。

 この閉ざされた空間で、彼らから逃れる術はなかった。


「――風よ、刃となりて舞え」


 兄が手をかざす。

 無数の風の刃が、四方八方から俺を襲う。

 俺は、からかさ様を必死に振り回し、その猛攻を凌ぐ。

 だが、その防御に集中していると。


「――音よ、楔となりて穿て」


 妹の歌声が、不快な超音波となって、俺の三半規管を直接揺さぶってきた。

 

 キィィィィン!

 鼓膜の奥で甲高い音が鳴り響く。

 激しい頭痛とめまい。立っていることさえままならない。


 ――くそ……! このままじゃ、やられる……!


 攻撃と妨害。

 その完璧な連携攻撃の前に、俺はただ防戦一方。じりじりと追い詰められていく。


「……どうしたの。もう終わり?」

「つまらないな。もっと楽しませてくれると思ったのに」


 双子の嘲笑が聞こえる。

 俺の体力も精神力も、限界に近づいていた。

 その時。

 胸元で、じいちゃんの形見のネックレスが、再び熱を帯びた。

 そして、その温かい力が俺の魂に直接流れ込み、超音波による頭痛を和らげてくれる。


 ――じいちゃんが、守ってくれてるのか……?


 いや、違う。

 この石は、ただの形見じゃない。

 俺はまだ、こいつの本当の使い方を知らないだけだ。


 ――俺が諦めてどうする。


 俺は、ふらつく足で再び立ち上がった。

 俺には派手な攻撃技も、圧倒的なパワーもない。

 だが俺には、俺だけの戦い方がある。

 俺は、神座に最後の望みを託した。


「神座……! この迷宮の、一番霊的な歪みが大きい場所はどこだ!?」


 敵を倒すんじゃない。

 この迷宮そのものを、内側から破壊する。

 それしか、この絶望的な状況を覆す方法はない。

 神座のディスプレイに、一瞬だけ光の道筋が表示された。

 俺はその一点だけを目指して、最後の力を振り絞り駆け出した。

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