第11話:共鳴する魂
張り詰めていた空気が、少しだけ和らぐ。
俺と詩織の間に、初めて穏やかな時間が流れた。
その時だった。
俺が制服のシャツの下に、ずっと身に着けているネックレス。亡くなったじいちゃんの唯一の形見。何の変哲もない、磨かれた黒い石の欠片。
それが不意に、俺の胸元で、じわりと確かな熱を帯びた。
そして、共鳴するように千本鳥居の奥の方からよく似た、しかし、どこか冷たく禍々しい別の気配が返ってくるのを感じた。
――なんだ……? この感覚……。
それは、初めて感じるはずの気配。
なのになぜかひどく懐かしく、そして、どうしようもなく惹きつけられる感覚。
俺の魂そのものが、その気配に引き寄せられているかのようだ。
「……宗佑? どうしたの、急に」
詩織が、訝しげに俺の顔を覗き込む。
「いや、今……」
俺が説明しようとした、その時。
前方の鳥居の影から、二つの人影がすっと現れた。
幼い双子の兄妹。あまりにも唐突で、まるで最初からそこにいたかのようだった。
「――見つけた」
兄らしき少年が、俺の胸元を指さしながら言った。
その瞳は、子供らしい無邪気さとは程遠い、貪欲な光に満ちていた。
「まさか、二つ目の欠片が向こうからやってきてくれるなんて」
「ラッキーだね、兄さん」
妹らしき少女が、くすくすと笑う。
彼女の手の中には、俺のネックレスによく似た、歪な形をした石の欠片が握られていた。
あれが共鳴の発生源。
俺のネックレスを見て「二つ目の欠片」だと言った。
「――その、ネックレス。渡してもらおうか、お兄ちゃん」
ネックレス?
じいちゃんの形見のことか。だとすれば、渡すわけにはいかない。
「……詩織」
「……ええ。わかっているわ」
詩織が、静かに剣の柄に手をかける。
問答無用。こいつらは子供じゃない、敵だ。
彼らが、何を言っているのかはわからない。
だが、彼らがじいちゃんの大切な形見を、狙っていることだけは確かだ。
それだけで、戦う理由は十分だった。
「……残念」
「遊びは後みたいだね」
双子が同時に指を鳴らした。
その瞬間、俺たちが立っていた空間が、ぐにゃりと歪む。周囲の景色が滲み、混ざり合い、現実感が希薄になっていく。
神域迷宮。
俺たちを、他の人間たちから隔離するための結界だ。
そして、俺と詩織の足元の地面が、突然崩れ落ちた。
「「きゃっ……!?」」
俺と詩織はなすすべもなく、その突然現れた暗い穴の中へと落下していく。
それは、空間の断絶。
俺の意識が遠のく、最後の瞬間。
俺の手を、強く握りしめる詩織の手の感触だけが、妙に生々しく残っていた。




