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神様、拾いました。  作者: 久悟
第二部 陰謀と深淵
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第5話:龍神『淵凪』②


「警告する! 速やかに、その龍神から離れなさい! 君は天野宗佑君だね? 神祇局の管轄にない、未登録の神契者。我々には、君を危険因子として実力で拘束する権限がある!」


 部隊の隊長らしき男が、拡声器を通して威圧的に言い放つ。その言葉は、もはや交渉ではない。最後通牒だ。

 彼らは、俺と淵凪を、対話の余地もないただの「駆除対象」としか見ていない。


「……断る」

 

 俺は、短く、はっきりと答えた。

 

「こいつは、荒神なんかじゃない。俺の大切な仲間だ。あんたたちの好きにはさせない」


「……ならば、やむを得ん。総員、攻撃開始! 龍神は封印、抵抗する神契者は無力化せよ!」


 隊長の号令と共に、部隊の男たちが一斉に動き出す。

 彼らが構えるのは、剣や槍ではない。

 銃だ。

 ただしそれは、実弾を撃つためのものではない。銃身には複雑な呪印が刻まれ、銃口からは、神気を打ち消す特殊な霊的エネルギーがチャージされているのがわかる。

 対神霊用の、特殊兵装。

 神への敬意など微塵も感じられない、あまりにも効率的で、無慈悲な武器。


『――フン。我をそのような玩具で止められるとでも思ったか』


 俺の足元で、淵凪が静かに、しかし圧倒的な威厳を込めて呟く。

 彼が天を仰いで咆哮すると、池の水がまるで生き物のようにその身にまとわりつき、巨大な水の鎧を形成した。


「撃て!」


 数十発の対神霊用の光弾が、一斉に淵凪へと撃ち込まれる。

 だがその全ては、淵凪が纏う水の鎧に触れた瞬間威力を失い、霧散してしまった。

 格が違う。

 たとえ弱っているとはいえ、彼は気高き龍神。

 人間の作った小賢しい武器など、通用しない。


『――我が主よ。どうする? こやつら、一息に池の藻屑としてくれようか』

「いや待ってくれ、淵凪!」


 俺は慌てて彼を制した。

 彼らは、神祇庁の人間だ。橘とは違う派閥とはいえ、殺すわけにはいかない。

 俺が求めているのは争いじゃない。


「……威嚇だけで追い払うぞ。できるか?」

『……承知した。主の優しすぎる心には、些か呆れるがな』


 淵凪はそう言うと、天に向かって再び大きく息を吸い込んだ。

 すると、今まで晴れていた夜空が、にわかに黒い雲で覆われ始めた。

 ゴロゴロと、遠くで雷鳴が轟く。

 風が吹き荒れ、大粒の雨が地面を叩きつけ始めた。

 天候操作。

 これこそが、龍神の持つ根源的な力の一つ。


「な……なんだ、この豪雨は!?」

「怯むな! 攻撃を続けろ!」


 隊員たちが、動揺しているのがわかる。

 だが、彼らはそれでも攻撃をやめない。

 まずい。このままでは埒が明かない。

 何か決定的な一撃で、彼らの戦意を完全に喪失させる必要がある。


 その時。

 公園の入り口から、一つの強い光が、まっすぐにこちらへ向かってくるのが見えた。

 桜色の炎の光。

 間違いない。


「――詩織!」


 駆けつけてきたのは、神祇局の制服に身を包んだ詩織だった。

 彼女は、俺と、俺が乗る龍神、そして、それを包囲する部隊を見て、一瞬息を呑んだ。


「神楽坂君! なぜ君がここに! 我々は、橘局長とは管轄が違う特務部隊だ! 君の出る幕ではないぞ!」

 

 隊長が、苛立たしげに叫ぶ。

 

「それはこちらのセリフですわ、田所隊長」


 詩織は冷たく言い放つと、その剣の切っ先を、彼らへと向けた。

 

「その龍神と、そこにいる天野宗佑は、東京神祇局がその処遇を検討している、重要対象者です。あなたたち特務部隊の、独断専行は認められません」

「なんだと……!? 我々は本庁直属の命令で動いている! いち地方局の小娘が我らに指図する気か!」

「えぇ。もう一度言いましょうか? 独断専行は認められません」


 詩織は一歩も引かなかった。

 彼女は、組織の命令よりも、自らの信じる正義と、そして俺との絆を選んでくれたのだ。


「――もし彼らに、これ以上手を出すというのなら」


 彼女の剣から、桜色の炎が激しく燃え上がる。


「この神楽坂詩織が、全力であなたたちを排除します」


 彼女の、あまりにも堂々とした、力強い宣言。

 特務部隊の男たちが、その気迫にたじろいだのがわかった。

 組織の論理よりも、個人の信念。彼女は、高尾山での戦いを経て、大きく、強く変わったのだ。


 ――ありがとう、詩織。


 俺は、彼女の頼もしい背中を見つめながら、心の中で呟いた。

 俺たちの戦いは、ここから新しいステージへと進んでいく。

 神祇庁という巨大な組織の、内なる矛盾と戦うステージへと。

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