表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様、拾いました。  作者: 久悟
第一部 覚醒と序章
35/56

第28話:絆の力、覚醒の兆し


 金色の光が、俺の瞳から溢れ出す。

 世界が、変わって見えた。今までとは、まるで違う。あらゆるものの「魂」の形が、その役割が、色とりどりの光の糸として俺の目に映り込んでくる。


 詩織の剣に宿る、木花咲耶姫の気高く燃える炎の魂。

 黒鉄を苛む、魔刀『国崩』の、何千もの怨念が絡み合った黒く渦巻く絶望の魂。

 そして、この高尾山そのものが持つ、傷つき、悲鳴を上げている巨大で優しい魂。

 その全てが、俺の中に情報として流れ込んでくる。


 ――これが、「名付けの祖」の力……?


 あまりの情報量に、頭が割れるように痛む。

 だが、同時に確信があった。今の俺ならできる。黒鉄を救う唯一の方法が。


「……その眼、まさか……」

 

 黒鉄が俺の変化に気づき、警戒するように後ずさる。

 彼の魂を操っている国崩の怨念が、俺のこの力を本能的に恐れているのだ。


 俺は、黒鉄を睨みつけながらも、その意識を彼が持つ魔刀『国崩』ただ一点に集中させた。

 戦うべき相手は、黒鉄じゃない。この悲しい神々の魂の集合体だ。


「お前たちの、声が聞こえる」


 俺は、国崩に向かって静かに語りかけた。

 

「天津神に国を追われ、人間に忘れ去られ、千年もの間、暗闇の中で憎しみを募らせてきたお前たちの悲しみが」


 俺の言葉に、国崩の刀身がびくんと震えた。黒鉄の腕が、意思とは関係なく勝手に動いている。


『……小僧が、我らの何をわかる!』

『我らの苦しみを、悲しみを……知ったような口をきくな!』


 国崩に宿る、無数の神々の怨嗟の声が、俺の脳内に直接響き渡る。

 それは、聞いているだけで魂が凍てつくような絶望の合唱だった。


「わかるさ」

 

 俺は、怯まなかった。

 

「俺の仲間たちも、みんな、お前たちと同じだった。忘れられて、捨てられて、独りぼっちで泣いていた。だから、わかるんだ。お前たちが、本当はこんなこと望んじゃいないってことが」


『黙れ!』


 国崩が、俺の言葉を拒絶するように、黒い衝撃波を放つ。

 だがその一撃は、俺には届かなかった。


 俺の前に、すっと赤い唐傘が割り込み、その全てを受け止める。からかさ様もまた、この戦いの意味を理解してくれていた。


 俺は、一歩、また一歩と、黒鉄に、国崩に近づいていく。

 俺の金色の瞳は、国崩に宿る、数多の魂その一つ一つの「本当の姿」を、捉えていた。


 ――お前は、故郷の山を守りたかった、猪の神様。

 ――お前は、川の氾濫を鎮めたかった、ナマズの神様。

 ――お前は、子供の成長を見守りたかった、道端の石の神様。


 みんな、誰かを守りたかっただけなんだ。

 誰かの役に立ちたかっただけなんだ。

 その想いが、憎しみに塗りつぶされて、歪んでしまっただけなんだ。


「お前たちは、呪いの塊なんかじゃない」


 俺は、彼らの魂の根源に向かって語りかける。

 それは、説得ではない。命令でもない。

 ただ、その存在をありのままに認め、肯定する魂の対話。


「お前たちの本当の名前は『憎悪』じゃない。その根っこにあるのは、ただ、ひたすらに純粋な、『悲しみ』だ」


 俺が、その感情に「悲しみ」という名前を与えた、その瞬間。


『――ア……アァ……』


 国崩から、黒い怨嗟のオーラが嘘のように薄れていった。

 千年の憎しみに覆われていた、神々の魂が、その本来の純粋な輝きを、少しだけ取り戻し始めたのだ。

 憎悪という役割から解放され、ただ「悲しむ」ことを許されたかのように。


「な……国崩の力が、弱まって……!?」


 黒鉄が、自らの手の中で起きている変化に、信じられないという顔で狼狽えている。

 魔刀の力が弱まったことで、彼の魂を縛っていた枷も、緩み始めていた。


 ――今だ!


「詩織!」

 

 俺は、後方で息を呑んで戦況を見守っていた詩織に向かって叫んだ。

 

「今なら、あんたの炎が届くはずだ!」

「……ええ!」

 

 詩織は我に返ると、力を振り絞って炎の剣を再構築する。

 狙うは、弱体化した黒鉄。そして、その魂を浄化する最高の好機。


 俺たちの勝利は、目前だった。

 だが、俺たちは知らなかった。

 この舞台には、まだ俺たちの知らない「役者」が潜んでいたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ