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神様、拾いました。  作者: 久悟
第一部 覚醒と序章
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第16話:呉越同舟


 黒鉄の絶叫が、廃工場に響き渡る。

 それは、ただの怒りではなかった。触れられたくない傷に無理やり指を突っ込まれた者の、痛みに満ちた悲鳴だった。

 彼の瞳から一瞬だけ理性が消え、純粋な破壊衝動が溢れ出す。


「お前に……お前なんかに、何がわかる!」


 突きつけられた鬼丸国綱が、黒い神気を増幅させる。

 まずい。完全に逆上させてしまった。

 言葉が通じない相手に、奇策は通用しない。純粋な力のぶつかり合いになれば、俺に勝ち目はない。


 ――どうする……?。


 俺が一歩後退りした、その時だった。


「――彼の神を縛る、穢れの枷よ! 我が姫君の浄火にて、断ち切らん!」


 工場の奥から、詩織の凛とした声が響いた。

 彼女の儀式が完了したのだ。

 すると、霊的な繋がりがはっきりと姿を現した。黒鉄の体から、まるで黒いストローのような禍々しい霊的コードが何本も伸び、それが工場の心臓である溶鉱炉の土地神に突き刺さっている。黒鉄は、あのコードを通して、土地神の生命力そのものである神気を、じわじわと吸い上げていたのだ。


 詩織の剣先から放たれた桜色の光が、その黒いコードだけを、正確に焼き切った。

 黒鉄と土地神との、強制的な接続が断ち切られる。


 その瞬間。


「――ゴオオオオオオッ!」


 縛りから解かれた土地神が、溜まりに溜まった怒りと恐怖を、一気に爆発させた。

 無理やり力を吸い上げられていた苦痛と、魂を汚された恐怖。そして、枷が外れたことによる急激な力の解放。

 それらが、彼の理性を完全に吹き飛ばしてしまったのだ。ダムが決壊したかのように、負の感情と力が暴走する。

 もはや、彼の魂に正常な判断能力はなく、目の前にいるもの全てを敵とみなし、破壊を尽くす、荒神に近い存在へと成り果てていた。


 灼熱の腕が、最も近くにいる脅威――黒鉄へと、無差別に叩き潰さんと振り下ろされる。


「ちっ……! 余計なことをしやがって!」


 黒鉄は俺への攻撃を中断し、咄嗟に身を翻してその一撃を回避した。

 轟音と共に、コンクリートの床が叩き割られ、灼熱の破片が飛び散る。

 俺は、その隙に黒鉄から距離を取った。


「天野君、大丈夫!?」

 

 詩織が俺の隣に駆け寄ってくる。その額には、玉のような汗が浮かんでいた。

 

「あぁ、なんとか……けど、何でこんな事になってんの!?」

「仕方ないでしょう! このままでは、あの土地神様は完全に喰われていたわ! でも……まさか、これほど魂が傷つけられていたなんて……」


 詩織の顔に、焦りの色が浮かぶ。

 彼女の狙いは、あくまで黒鉄からの救出だったのだろう。だが結果的に、事態はさらに悪化してしまった。


「これではただの荒神と同じ……鎮めなければ……!」


 彼女の言う通り、状況は最悪だ。

 目の前では、暴走する土地神と、それを「新たな獲物」として迎え撃つ黒鉄との、壮絶な戦いが始まっていた。

 土地神が放つ灼熱の鉄塊を、黒鉄は鬼丸国綱で斬り払い、弾き、いなしていく。その動きには、一切の無駄がない。強い。格が違う。


『小賢しい!』


 土地神が咆哮すると、工場内に転がっていた他の工作機械たちが、ガタガタと共鳴するように動き出した。旋盤のアームが鞭のようにしなり、プレス機が巨大な拳となって黒鉄を襲う。

 この工場全体がテリトリー。その中では、あらゆる機械が彼の手足となるのだ。

 だがそれでも黒鉄は、たった一人、たった一振りで、その猛攻を凌ぎきっていた。


「どうするんだ、神楽坂さん」

「……決まっているでしょう。あの神狩りを討ち、土地神様を鎮める。それが、神祇局の役目です」

「言うのは簡単だけどな……」


 俺たちの視線の先で、黒鉄が反撃に転じた。

 彼は、機械たちの攻撃の隙間を縫うように駆け抜け、一気に土地神の懐へと飛び込む。


「図体がデカいだけなんだよ!」


 鬼丸国綱が一閃する。

 その一撃は、土地神の足――鉄の塊であるはずのそれを、バターのように両断した。

 

『グオォォォッ!?』

 

 片足を失った土地神が、バランスを崩して大きく傾く。


 ――まずい。このままじゃ、本当に土地神がやられる!


 俺と詩織は、アイコンタクトを交わす。

 今この場で、黒鉄を止められるのは俺たちだけだ。いがみ合っている場合じゃない。

 呉越同舟。好むと好まざるとに関わらず、俺たちは背中を預けるしかなかった。


「……援護しなさい。私があの男の動きを止める」

 

 詩織が低い声で言った。

 その瞳には先ほどまでの焦りはなく、覚悟を決めた者の、静かな光が宿っていた。

 彼女は、自分の剣を強く握りしめる。


「――姫様。どうか私に、少しだけ御力をお貸しください」


 彼女の祈りに応えるように、剣から放たれる桜色の神気が、今まで以上に激しく燃え上がった。

 それは、彼女がまだ使いこなせていない本来の力の片鱗。

 彼女は、俺というイレギュラーな存在を前に、自らの限界を一歩だけ超えようとしていた。


「わかった。あんたを信じる」


 俺は頷き、神座の画面に目を落とす。

 からかさ様、万象工房、物語、天網。

 俺の、全ての仲間たち。

 今までとは違う、初めての総力戦が始まろうとしていた。

 

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