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神様、拾いました。  作者: 久悟
第一部 覚醒と序章
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第15話:信念の激突


 隣で詩織が静かに剣を抜いた。その切っ先は、寸分の狂いもなく黒鉄(くろがね)に向けられている。

 彼女の全身から放たれる神気は、縁結びの荒神と戦った時よりも、さらに練り上げられているように感じた。


 黒鉄は、太刀をゆらりと構える。

 先に動いたのは、詩織だった。


桜華一閃(おうかいっせん)!」


 地を蹴る鋭い踏み込みと共に、桜色の炎を纏った斬撃が、桜の花びらを散らしながら黒鉄へと奔る。

 速く、そして美しい必殺の一撃。

 だが、黒鉄はそれを、まるで予測していたかのように、鬼丸の腹で軽々と受け止めた。


 キィン! と甲高い音が響き、火花が散る。

 

「……ほう。見かけ倒しじゃねえらしいな」

「っ……!」


 攻撃を真正面から受け止められ、詩織の顔に驚愕の色が浮かぶ。

 黒鉄はニヤリと笑うと、受け止めた体勢から、そのまま力任せに詩織の剣を弾き返した。

 体勢を崩した詩織に、鬼丸の切っ先が蛇のように襲いかかる。


 ――させるか!


「からかさ様!」


 俺は詩織の前に割り込み、神座から呼び出したからかさ様を盾として構えた。

 

 ガギンッ!

 

 今まで聞いたこともないような、激しい金属音が響き渡る。

 からかさ様が、ミシリと軋む音がした。


「ぐっ……うぅっ……!」


 腕に、凄まじい衝撃が走る。

 縁結びの荒神の時とは、まるでレベルが違う。純粋な「力」の塊が、俺の全身を叩き潰そうと圧力をかけてくる。


「どうした、それだけか! 雑魚神使いのガキが、エリート様を守って褒めて貰おうってか!?」


 黒鉄は、俺を嘲笑うかのように言い放つ。

 その瞳は、絶対的な強者のそれだ。揺るぎない信念に支えられた、圧倒的な自信。


「天野君……!」

 

 背後から、体勢を立て直した詩織の声が聞こえる。

 

「手を出すな! こいつは俺が引き受ける! 神楽坂さんはそこの溶鉱炉の土地神様を!」


 俺は、歯を食いしばりながら叫んだ。

 このままでは二人まとめてやられる。役割分担が必要だ。

 詩織は一瞬ためらったが、俺の意図を正確に理解したのだろう。「……わかったわ!」と短く返事をすると、工場内に囚われている土地神の解放へと向かった。


 一人になった俺を、黒鉄は面白そうに見つめる。

 

「仲間を逃がすか。優しいこったな。だが、その優しさが命取りになるってことを、教えてやるよ!」


 黒鉄がさらに力を込めて、鬼丸を押し付けてくる。

 

 ――このままじゃ、ダメだ!


 俺は押し込まれる力に逆らうように、逆に一歩前へ踏み込んだ。

 一瞬、黒鉄の目に驚きが浮かぶ。

 その隙に、俺はからかさ様で鬼丸の刃を強引に横へ逸らし、距離を取る。

 間髪入れず、叫んだ。


「万象工房、やれ!」


 俺の号令に応じ、神座から無数の光が飛び出し、実体化する。

 スパナやドライバー、ハンマーといった工具たちが、カタカタと音を立てて小さなゴーレムとなり、一斉に黒鉄へと襲いかかった。


「ちっ、鬱陶しい!」


 黒鉄は、鬼丸を軽く一振りする。

 その剣風だけで、数体の工具ゴーレムが、まるで木の葉のように吹き飛ばされた。 

 だが、彼らは怯まない。

 一体が足元にまとわりつき、一体が背後から飛びかかる。その連携は、詩織のような洗練されたものではないが、泥臭く、しぶとい。


 そのわずかな時間稼ぎが、俺に思考の猶予を与えてくれた。

 ポケットの中で、神座が鬼丸の情報を表示する。


【対象:鬼丸国綱(付喪神)】

【来歴:鎌倉幕府執権・北条時頼の佩刀。主の夢枕に現れる小鬼を、ひとりでに鞘から抜け出て斬り伏せたと伝わる】

【特性:主を守護する強い意志。邪を払う力】


 ――主を守護する……? だとしたら、おかしい。


 鬼丸国綱から感じるのは、守護の力なんかじゃない。ただ、ひたすらに力を求める、飢餓感のようなものだ。

 まるで、主である黒鉄の感情に、無理やり染め上げられているかのように。

 なぜ、彼はそこまでして力を求める? その瞳の奥に宿る、深い絶望と渇望は、一体どこから来るんだ?


「小細工は終わりだ!」


 工具ゴーレムたちを全て払い除けた黒鉄が、再び俺へと肉薄する。

 鬼丸国綱の切っ先が、俺の喉元へと突きつけられる。

 絶体絶命。

 だが、俺は恐怖を感じていなかった。それよりも、目の前の男が抱える、魂の叫びを聞きたいと思った。


「お前の鬼丸国綱は、泣いているぞ!」


 俺は、ほとんど叫ぶように言った。

 俺の言葉に黒鉄の動きが、ほんの一瞬、コンマ数秒だけ止まった。

 その瞳が、激しく揺らぐ。


「……何、を……」

「鬼丸国綱は、主を守るための刀なんだろ! あんたを守りたいはずなんだ! なのに、あんたはそいつに他の弱い神様を喰わせて、ただの殺戮の道具にしようとしている! そんな戦い、そいつが望んでいるはずがない!」


 俺の言葉は、確信ではなかった。

 だが、神座から得た情報と、俺が感じた違和感を繋ぎ合わせた、精一杯の推測だった。


「だまれええええっ!」


 黒鉄が、今までで一番の怒声を上げた。

 それは、図星を突かれた者の悲鳴のような叫びだった。

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