第12話:三柱目の仲間
東京神祇局を後にしてから、数日が過ぎた。
俺の日常は、表面的には何も変わらない。朝起きて学校へ行き、授業を受け、友人と馬鹿話をして、家に帰る。
だがその裏側では、大きな変化が起きていた。
俺のアパートの狭い一室は、今や二柱の神様の住処となっていたのだ。
『――我が主。本日の東京都の降水確率は10%。荒神の発生予兆は、半径5キロ圏内において検知されず』
「お、サンキュー、神座」
朝の身支度をしながら、俺は机の上に置いた神座に礼を言う。
契約して以来、神座はその情報収集能力で、俺の有能なアシスタントになっていた。
そして、もう一つ、驚くべき能力があることがわかった。
それは契約した神様を、その神体ごと内部の『神域』に格納できることだ。
付喪神としてのからかさ様だけでなく、目の前にあった赤い唐傘本体が、光の粒子となって神座に吸い込まれていったのには、心底たまげた。
今では、からかさ様は普段、神座の中にある居心地のいい神域で過ごし、名前を呼ぶか、神座の画面の『和傘のアイコン』をタップすると、瞬時に手元に現れる。
おかげで、大事な仲間を常に安全な場所にいさせることができるのだ。スマホのストレージ同様、容量に制限があるのかはまだ分からないが。
――なんだか、すごい力を手に入れちまったな……。
そんなことを考えると、ワクワクすると同時に、少しだけ身が引き締まる思いだった。
放課後、俺はあてもなく街を歩いていた。
神座のコンパス機能を頼りに、微弱な神気の反応を探して。
そうして辿り着いたのは、再開発地区の片隅にある古びた町工場だった。
錆びついたトタンの壁には「解体予定地」と書かれた大きな看板が立てかけられている。時代の波に乗り切れず、閉鎖に追い込まれたのだろう。
工場の敷地の外れに、廃棄された機械や工具が、雨除けのシートをかけられて山積みになっていた。
その山に近づいた時、俺は声を聞いた。
『……まだ、やれる』
『……まだ、動けるのに』
『……壊したくない。作りたい』
それは、一つの声ではなかった。
いくつもの悔しそうな、悲痛な声が重なり合って聞こえてくる。
声の発生源は、ガラクタの山に置かれた、一つの大きな工具箱だった。
長年使い込まれて塗装は剥げ、あちこちがへこんでいる。だが、それは職人の手によって、とても大事にされてきた証でもあった。
俺が工具箱に近づくと、声はさらに強くなる。
工具箱だけじゃない。中に入っている、スパナやドライバー、ハンマーやペンチからも、それぞれの声が聞こえてくる。
彼らは、このままスクラップにされる運命を、心の底から嘆いていた。
――見つけた。次の仲間だ。
幸い、あたりに人影はない。俺は工具箱の前に屈み、その冷たい金属の蓋にそっと手を触れた。
俺は、こいつらの想いを汲み取り、新たな役割を与える。
「お前たちは、もう鉄くずなんかじゃない。これから、ありとあらゆるものを作り出し、直し、世界を豊かにしていく、最高の職人チームだ」
俺は、彼らにふさわしい最高の名前を考えた。
「お前たちの名前は、『万象工房』だ!」
俺がそう宣言した瞬間、工具箱が淡い光を放ち、俺との間に魂の繋がりが生まれる。
神契の成立だ。
次に、俺はポケットから神座を取り出し、その画面を工具箱にそっと触れさせた。
「神座、この子たちを、俺たちの家に迎え入れてやってくれ」
『――承知しました、我が主』
神座の声が脳内に響くと同時に、その画面がまばゆい光を放つ。
光は、目の前の大きな工具箱をすっぽりと包み込んだ。
あれほど大きくて重かった工具箱が、まるでプロジェクターの映像が消えるかのように、きらきらとした光の粒子へと分解され、神座の画面の中に、すうっと吸い込まれていったのだ。
後には何も残っていない。
神座のディスプレイを見ると、新しくハンマーとスパナを模したアイコンが追加されていた。
これで、いつでもどこでも彼らを呼び出すことができる。
三柱目の、ちょっと変わった仲間が加わった瞬間だった。
第二章 完
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