表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然痘から始まる伊達政宗転生の天下統一~ 独眼竜と呼ばれても中身はただの美少女好き戦国オタクです~  作者: 常陸之介寛浩★OVL5金賞受賞☆本能寺から始める信長との天下統一
第一章(第1巻分目)『独眼竜、でも中身はただのオタク高校生です』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/196

『秋の夜の邂逅と、侍女の始まり』

 秋――。


 山の色が紅へと変わり始め、風に乗って乾いた落ち葉の音が耳に届くようになった頃、寺のある里でも、年に一度の収穫祭の季節がやってきた。


 俺たちが育てた稲の収穫は不作だったとはいえ、里全体としての実りはまずまずのようで、村人たちは笑顔を交わしながら準備に奔走していた。


 この寺に身を寄せてからというもの、季節の節目ごとに里の行事に招かれることはあったが、収穫祭の規模は別格だった。寺の門前の広場には、すでに仮設の屋台や舞台が組まれ、若者たちの歌声や太鼓の音が夕暮れの空に響いていた。


「梵天様も、今日はよろしければお出かけくださいませな。皆、梵天様のことを“福の子”として噂しておりますゆえ」


 そう言って、喜多が俺に用意してくれたのは、紺地に銀糸の刺繍が施された一張羅だった。


「……目立ちすぎるのは苦手なんだけどな」


「目立ってこその御曹司でございましょう」


 小さく溜息をつきながらも、俺は衣を整え、くノ一の伊佐と小夜に護衛として付き従ってもらう形で、寺から里の収穫祭へと向かった。


 夜の帳が下りるころには、祭りの熱気が広場を包み、提灯の明かりがまるで星のように空を映していた。どこからともなく漂う甘酒と焼き団子の香りが、鼻をくすぐる。


 その時だった。


 人混みの外れで、小さな声が聞こえた。


「やめてください……っ!」


 振り返ると、屋台裏の物陰で、村娘が数人の男に絡まれていた。


「折角の祭りなんだからさ、ちょっとくらい付き合えって」


「なに怖がってんだよ、顔に似合わず可愛い声出して」


 どうやら、どさくさに紛れて言い寄っているようだった。村の若者か、よそ者かまでは分からなかったが、どちらにしても見過ごすわけにはいかなかった。


 俺は周囲の気配をさっと確認し、伊佐と小夜に目配せする。


「ここは俺が行く。姿は見せないでくれ」


「主君、それは……」


「大丈夫、手加減はする」


 そう言って、俺は静かに影の中へと踏み込んだ。前世で身につけた合気道の動きを思い出しながら。


 男たちの背後から近づき、一人の腕を取り、その体重を利用して軽く崩す。


「ぐっ……!?」


「なんだお前っ」


 もう一人が俺に飛びかかってきたが、その力の流れを感じ取りながら、肩を軽く押し流すようにして崩す。


 転生して小柄な子どもにすぎなかった俺の体も、今年の野良仕事ですっかり鍛えられていた。鎌を振るい、土を耕し、水を汲み続けて得た筋力が、ここで生きた。


「……動きが思った以上に滑らかだったな。虎哉宗乙師匠に感謝しないと」


 倒れた男たちは、何が起きたのかも分からぬ様子で、地面に転がって呻いていた。


「お、お侍様……?」


 怯えたような声で、村娘が俺を見上げていた。年は俺より少し上だろうか。白い頬、麦色の髪、どこか儚げな瞳をしていた。


「怪我はないか?」


「……はい。助けていただいて、ありがとうございます」


 丁寧に礼を述べる彼女を見て、俺はふと胸の奥がざわついた。何か、思い出のような……いや、これは初めての感覚だ。


 そこへ、後方で様子を見ていた喜多が近づいてきた。


「梵天様……お見事でした。して、そちらの娘は?」


「男たちに絡まれていた。里の者のようだが……」


「ふむ……」


 喜多は村娘に名を尋ねた。


「はい、わたし、稲田いなだすずと申します。父と弟たちと、畑を耕して……でも、最近は食べる口が多くて、いずれどこかに奉公に出なければと思っていたところで……」


「それならば――」


 喜多はすぐに笑みを浮かべた。


「寺に仕える侍女として来てもらうのはどうでしょう。梵天様も、日々お忙しくなっておりますし、身の回りを整える者が必要です。くノ一の役目とはまた異なる立場の、心の通った侍女が」


「そ、そんな……わたしで、務まるのでしょうか……?」


「大丈夫だよ、鈴さん。君は、ちゃんとしてる」


 俺は、はっきりと言った。


 その言葉に、鈴は目を潤ませた。


「……よろしくお願いいたします、梵天様」


 こうして――


 秋の収穫祭の夜に出会った小さな縁が、俺のもとに新たな絆をもたらした。


 翌日、俺は鈴の案内で、稲田家を訪ねた。

小高い丘を下った先にある素朴な農家。

茅葺きの屋根と、土間に薪の香が漂うあたたかな家だった。


 父親は、腰の曲がりかけた優しげな農夫で、母親は痩せてはいたが芯の強さを感じさせる女性だった。弟たちは俺を見るなり緊張した面持ちで背筋を伸ばした。


「伊達の若様が……うちの鈴を……?」


「はい。鈴さんは器量よし。つきましては、寺に侍女として来ていただきたく」


 俺の言葉に、父母は驚き、互いに顔を見合わせた後、深く頭を下げた。


「ありがたいことでございます。うちは……貧しく、鈴にもいずれ奉公をと考えておりました。ですが、まさか御領主様の……」


「ご無理なきよう。寺では教育も施します。鈴さんの身の安全は、私が責任を持ちます」


 母親の目に、涙が滲んだ。


「どうか……どうか、よろしくお願いいたします」


 俺は深く頭を下げ、鈴とともに再び寺へと戻った。


 寺へと戻った鈴は、喜多や伊佐、小夜のもとで礼儀作法を学びながら、俺の側仕えとして日々を送ることになった。


 秋の風はもう冷たくなりはじめていたが、俺の胸の内には、あたたかい何かが灯っていた。


 そしてその灯は、やがて大きな炎となって、未来を照らすのかもしれない――そう思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ