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『竹に秘めたる一矢──音なき兵、静矢(しずかや)誕生』

 火縄銃──それは俺の胸を震わせた、“未来”の道しるべだった。


 でも、その瞬間はあまりにも儚く終わる。


「火縄銃はまだ早い! わしが預かる!」


 その言葉とともに、虎哉宗乙様の手にすぽっと奪われた。


(あああああああっ! やっと俺の人生に文明の光が……!)


 ……いや、わかってる。俺の見た目はただの五歳児、しかも“梵天丸”なんて愛称で呼ばれてる童。

 でも心の中では、前世で戦国史オタクやってた中年リーマンが、渇望にも似た好奇心を膨れ上がらせてたんだ。


 ──銃。火薬。射程。貫通力。初速。そして音。


(火縄銃があれば、戦の形が変わる。けど、無理だ……今の伊達家じゃ、数も金も足りない……)


 しかも、火薬や弾丸は輸入依存。安定供給なんて夢のまた夢。

 戦のたびに「火薬が切れました」なんてのはザラで、それが原因で部隊が全滅──なんてのも知ってる。


 だったら俺は考える。


(代わりになる飛び道具……音を立てず、再使用できて、材料が身の回りにあるやつ……)


 ──閃いた。


(ボウガンだ! 竹製のボウガンなら、火薬なんていらない!)


 その瞬間、俺は庭に転がる竹材と、釘と縄を握りしめていた。


 *


「梵天丸様、いかがされました? そのような……」


「伊佐、ちょっと手伝ってくれ。竹を火に炙ってしならせたいんだ」


 庭で俺が半泣きで竹を削っていると、くノ一の伊佐が呆れ顔で寄ってきた。

 すぐ後ろでは小夜が、釘抜きと鉈を持ってスタンバイしてくれている。


「……まさかこれ、弓のような?」


「いや、もっとこう、引いたらカチャって固定されて、手を離すと“スパッ”って……ええと、矢が飛ぶやつなんだ」


「ほう……梵天丸様は、変なことをお考えになりますね」


 俺は、直径二寸(およそ六センチ)ほどの竹をくり抜き、中心に小さな溝を彫る。矢は軽い篠竹。トリガー部分には、折れた櫛と魚釣り用の仕掛け糸を流用した。


「この部分が“引き金”で、押すと糸が抜けて、矢が……」


「……飛んだっ!?」


 パスン。


 小夜の悲鳴と同時に、試作矢が庭の柿の木の幹に刺さった。


 命中率は低い。でも……“飛ぶ”。確実に“音なく”飛んだ。


「伊佐、小夜。これが“静矢”だ。戦のときに音を出さずに相手を撃てる道具になる。夜戦や、城攻めのとき、きっと使えるはずなんだ」


 俺が真顔でそう語ると、ふたりのくノ一がしばし沈黙したあと──


「梵天丸様……よもや、兵器の才までお持ちとは」


「これ……拙者たちの武具に、加えてもよろしいのでしょうか……?」


「もちろん!」


 くノ一たちが目を見合わせ、そして小さく頷いた。

 俺の胸が、高鳴る。


(……よし、次はこれを“正式な武器”として、父上に認めてもらわねば!)


 *


「──ほう。“音なき飛び矢”か」


 父・輝宗の声は、思ったよりも静かだった。


「その方が考案したのか?」


「はい。竹と紐と木で、誰にでも作れるように考えました。数が揃えば、足軽にも持たせられます。音もなく、矢の再利用もできます」


 父の隣には、白石源内という鍛冶頭が控えていた。


 源内は試作品を受け取ると、構造をしげしげと眺めた。


「……小さき矢を、溝に乗せ……弦は、引き金と繋がる……おお、これは……」


「改良次第では、刃付きの矢も……あるいは毒矢にも……」


 俺が小声で囁くと、父は目を細め、ついには口元に笑みを浮かべた。


「源内、試作せよ。刃付き矢、三種。くノ一用の携帯型も含める。……そして“静矢”と名付けよ」


 *


 数日後。


 職人の手によって鉄製の“狙撃型静矢”が試作され、伊佐と小夜の腰にその短型が提げられた。


「お披露目です、梵天丸様」


 伊佐が、帯から黒塗りの短い静矢を抜く。


「……これ、私たち専用の“隠し矢”になりそうです」


「夜戦が、楽しみになりますね」


「……た、楽しみ……って……えっと、それ……物騒すぎるよ……?」


 そう言いながら、俺の声は震えていた。

 なぜならこの瞬間──


 俺の手から生まれた“竹の静矢”が、

 ほんとうに“戦の道具”として、動き始めたからだ。


 ──俺の名は、梵天丸。

 中身はただの戦国オタクだったけど、

 この世界では……武器開発から、天下を目指すかもしれない。

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