表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/77

『熱と痛みと、美人の指先』

 ……人間って、極限状態でも変なことを考えるんだなって思う。




 身体のあちこちが痛い。

 熱はたぶん40度を超えてる。

 右目は見えないし、喉は焼けるように乾いて、口の中もざらざらする。




 でも──

 今、俺の心を占めてるのは、この人の手のことだ。




「……梵天丸さま、汗がまた……お拭きいたしますね」




 柔らかく、落ち着いた声。

 ほんのりと香る梅のような香り。

 目は霞んでいても、彼女の姿ははっきりと分かった。




 ──喜多。




 さっき、誰かがそう呼んでいた。

 年の頃は……たぶん、17か18くらいだろうか。


 透き通るような白肌と、きりっと整った顔立ち。

 ややつり目気味の瞳が、凛として美しい。

 いわゆる“清楚系美人”ってやつだ。




 しかも、手がやたらと丁寧で、優しい。




「ふっ……ん、……くっ」




 唇の端についた汗を、そっと指先でぬぐわれただけなのに、

 俺は思わず震えてしまった。

 いや、これは高熱のせいだ。高熱のせい……だと思いたい。




「お顔が赤く……熱がまた上がっておられる……」




 ち、違う、喜多さん。


 顔が赤いのは、熱じゃなくて、あんたが美人だからなんです!!




 だって、こんな至近距離で!

 美人が真剣な顔で、俺の額に冷たい布をそっと乗せて、

 汗をぬぐってくれて、口元に薬湯を運んでくれて──




 この状況、ちょっとしたラブコメじゃないですか!!(俺、6歳だけど!)




「お身体に、さわりがなければよいのですが……」




 いや、ある意味、障ってます!!


 俺の男子高校生としてのプライドとか、変な妄想とか、

 全部に触れてます!!




 俺は黙ってうなずいた。

 言葉を返したら、いろんな意味で負ける気がして。




 そのとき──彼女の指が、そっと俺の額に触れた。




「お辛いでしょうに……よう、耐えておられます。

 これで、きっと良くなられます。……梵天丸さまは、つよいお方です」




 その声に、俺の胸がじわっと熱くなった。


 いや、熱があるからって意味じゃなくて。

 心の中が、だ。




 ──恐れてないんだ、この人。




 疱瘡って、戦国時代じゃ“死の病”だ。


 感染もする。顔が腫れたり、痘痕あとが残る。

 それを嫌って、看病どころか部屋に近づかない人間がほとんどの時代に──


 この子は、平然と、俺の汗に触れてくれている。




 美人で、優しくて、勇気があって、しかも俺を信じてる。




 いやもう、惚れるってこれ。




「……ありがと、喜多さん」




 言葉になっていたかはわからない。


 でも、彼女の目がふっと細くなって、柔らかく笑ってくれた。




 その笑顔が、ほんの一瞬だけ、

 疱瘡の痛みを忘れさせてくれた。




 ……熱は下がらない。

 右目は、たぶんもう戻らない。

 身体はまだ地獄の中にいる。




 けど──




 喜多さんの手が、

 俺の“今の身体”に触れてくれるたび、

 俺は確かに、ここで生きてるんだと思えた。




 独眼竜・伊達政宗。

 その中身が、高校三年のただのオタク男子だとしても──


 この世界で、ちゃんと“心が動いた”。




 そして、心が動く限り、

 俺は、ここで生きていける気がした。




 ……やっぱ、戦国転生って、ラノベだわ。




 ただし、いきなり病弱ルートから始まるタイプのやつ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ