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天然痘から始まる伊達政宗転生の天下統一~ 独眼竜と呼ばれても中身はただの美少女好き戦国オタクです~  作者: 常陸之介寛浩★OVL5金賞受賞☆本能寺から始める信長との天下統一
第二章(第2巻分目)『戦国を歩む伊達藤次郎、春の烽火』

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『一筆、天下へ繋ぐ』

肌寒い朝、城の書院に静かな日差しが差し込んでいた。俺は机の上で丁寧に墨をすりながら、岐阜の織田信長に宛てる書状の文面を幾度となく考え、迷っていた。熱田の港に思いを馳せながら、文言の一つ一つに慎重さを求める必要があった。


「ふむ、やはり堅苦しすぎる文は信長殿の好みではなかろう……」


そう呟きながら、墨を含ませた筆を一旦空中で止めた。相手は天下に覇を唱える織田信長だ。ただの外交文書では心を動かせまい。そこで俺は、伊達の名誉と天下への貢献を前面に出し、織田信長の心に響く内容に仕立てることにした。


ゆっくりと筆を動かし、簡潔ながら熱意を込めた文面を書き綴る。


『天下統一を目指される大納言織田様


この度は伊達家と織田家の友好がますます深まりますことを、我が父輝宗ともども喜ばしく存じております。


さて、奥州には天下に名高き名馬が数多ございます。その俊敏さと強靭さは戦場においても類稀な働きを見せ、まさに天下布武を掲げる岐阜大納言様のお役に立つこと疑いなしと確信しております。


ただ残念ながら、奥州と熱田の距離は甚だ遠く、陸路を使えば馬を届けるのに大きな労力と時間を要します。つきましては、我が伊達家としてはこの度、松川浦の港より長距離航海が可能な安宅船を建造したく考えております。


しかしながら、我が伊達家には西国のような高度な船大工の技術がございません。そこで大納言様のお力をお借りし、優秀な船大工をお教えいただければ幸いに存じます。


船が完成すれば、奥州の名馬を熱田の港へと届けることも容易くなり、ひいては岐阜大納言様の天下統一事業に少なからずお役に立てられるものと確信しております。


ぜひとも岐阜大納言様のご厚意を賜りたくお願い申し上げる次第にございます。


伊達家嫡男藤次郎』


書き終えると、俺はじっと書状を見つめ、何度も心の中で文を繰り返した。これで織田信長が心を動かさぬはずはあるまい。名馬の話を引き合いに出したのは、信長が馬をこよなく愛していることを知っていたからだ。


書状を巻き上げ、丁寧に封をすると、俺は留守政景を呼び出した。


「政景殿、岐阜城までこれを届けてくれ。大納言織田信長様への直筆の書状だ。共に奥州の名馬二頭を献上する。頼んだぞ」


政景は緊張した面持ちで受け取ると、深く頭を下げた。


「承知いたしました。若殿のご期待を決して裏切りませぬ」


彼が去った後、俺は縁側に腰掛け、松川浦の海をぼんやりと思い浮かべていた。やがて遠く岐阜の空に届くであろう書状が、俺の夢と伊達家の未来を背負っていると思うと、胸が高鳴った。


数日後、政景は名馬と共に岐阜に向けて旅立った。俺はその報告を受けてひとまず安堵したが、同時に心配も募る。天下人候補である信長が、この書状をどのように受け止めるかが気になったからだ。


さらに数日を経て、ようやく政景が岐阜に無事到着したとの知らせが届いた。俺は中村城で報告を待ちながら、信長がどのような返答をするか、じっと待つしかなかった。


この数日間、夜はなかなか眠れず、ふと庭に出て星空を眺めながら、いくつもの未来を想像した。もし船大工が来れば、松川浦は一気に奥州屈指の港となる。奥州の馬を西国に届け、西国からも多くの品が奥州へ流入するようになるだろう。そのとき伊達家は、単なる地方の豪族ではなく、天下に影響を及ぼす勢力となるのだ。


数週間後のある夕方、ついに待ち焦がれた報告が届いた。


「若殿!政景殿よりの報告でございます!」


勢いよく飛び込んできた使者の興奮した様子に、俺の胸も激しく高鳴る。


「岐阜様より返書がございました。『伊達家の申し出、大いに喜ばし。船大工を派遣しよう』とのことでございます!」


俺はその言葉を聞いて思わず拳を握りしめ、天を仰いだ。長く緊張していた体から一気に力が抜け、同時に熱い興奮が湧き上がった。


「よし!これで松川浦は奥州の玄関口となる!」


使者を送り出すと、俺は一人居室で静かに座った。今この瞬間、伊達家は確かに新たな道を開いた。織田信長と共に、天下へ繋がる道を着実に歩み始めたのだ。


俺は改めて窓の外に広がる空を眺め、静かに微笑んだ。


「奥州と熱田を結ぶ海の道、まさに天下布武に通じる。これからが本当の始まりだ」


この時、俺の胸には新たな決意が宿った。これより先は、さらに大きな夢を描くことになるだろう。船が完成した暁には、この松川浦から大きく天下へ向かって帆を広げるのだ。


俺はその日を心待ちにしながら、再び筆を取った。天下への道は、まだ始まったばかりだ。

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