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第9話:それぞれの旅路、交わる未来




春から夏へと季節が移りゆく中で、飛香の生活はますます忙しく、そして充実したものへと変化していった。


彼女が執筆する歴史連載『戦国の華たちへ』は、女性読者を中心に反響を呼び、出版企画も現実味を帯びてきた。

出版社からは書籍化に向けた打診が届き、ついに本格的な執筆活動が始まろうとしていた。


一方で、大翔もまた、自らの次のステージに向かって動き出していた。



◆新しい肩書き、「プロデューサー・高瀬大翔」


「この子たち、すごく可能性あるんだ。若いけど、ステージに立ったときの輝きがある」


大翔が紹介されたのは、芸能事務所が新しく立ち上げた新人アイドルグループのメンバーたちだった。

まだ10代の少年少女たちは、大翔の言葉に真剣なまなざしで耳を傾けていた。


「でもね、プロになるってことは、“憧れられる側になる”ってこと。自分の魅せ方、自分の心のあり方を、常に意識していく必要がある。俺は君たちに、それを伝えていくよ」


かつて自分が通ってきた道。

仲間と涙し、競い、支え合い、夢を掴んできた日々。

今度はその“すべて”を、次の世代に手渡していく番だった。


事務所の会議室での打ち合わせが終わった後、大翔は夜風に吹かれながら飛香に電話をかけた。


「飛香、今日もいい一日だったよ。新人たち、本気で頑張ってる。なんか、俺……青春をもう一度体験してるみたい」


「ふふ、青春の亡霊にならないようにね」


「こら(笑)」


声を聞くだけで元気になれる。

どんなに離れていても、飛香の存在が、自分の支えになっていた。



◆すれ違いの中の思いやり


だが、互いの仕事が忙しくなるにつれて、少しずつ“すれ違い”も生まれ始めていた。

夜遅くの帰宅。会話の数が減る日々。

陽翔の寝かしつけを任せ合い、相手に遠慮してしまう日もあった。


ある日、飛香が寝室で原稿の推敲をしていると、大翔がそっとマグカップを置いた。


「ホットミルク。最近、君の肩、ずっと張ってる気がする」


「……ありがとう。ごめんね、大翔くんも疲れてるのに」


「謝ることじゃないよ。頑張ってる君を見るの、好きだから」


少しの言葉が、胸に沁みた。

2人はそっと寄り添い、肩を預け合った。


「ねえ、大翔くん。たまには家族で旅行、行かない?」


「いいね。陽翔も初めての遠出になるかな」


「うん、陽翔の“初めて”を、私たちでいっぱいにしてあげたい」



◆家族での小さな旅


梅雨が明ける直前、家族3人は軽井沢へ小さな旅に出かけた。

広々とした緑に囲まれた宿、涼やかな風、そして陽翔の楽しそうな笑い声。


「ほら見て、陽翔、初めての乗馬体験だよ!」


「ぽにーさん! ぽにー!」


馬にまたがりながら、陽翔は小さな手で空を指差し、大翔も飛香も思わず笑い声を上げた。


その夜、3人で寄り添って見た星空は、まるで今の彼らを象徴するかのように、きらめいていた。


「ねえ、大翔くん。これが“今”なんだね。私たちの物語の途中……」


「うん。きっと、未来に語るべき1ページだよ」



◆夢の“交差点”で


旅から帰った翌週、出版社から正式に書籍化の契約書が届いた。

初版は3,000部から。

歴史という硬いテーマながらも、飛香の書く柔らかく丁寧な文章が読者に届き始めている証だった。


そして、出版記念として、サイン会とトークイベントが開催されることに。

そのゲストに――大翔の名前が、編集者から提案された。


「飛香さん、旦那さま……実は世代的に、読者層ともかなり重なるんですよね。

“戦国時代を語る飛香さん”と、“青春アイドルから新プロデューサーになった高瀬さん”の対談って、かなり話題になると思います」


最初は躊躇した飛香だったが、大翔はあっさりとこう言った。


「やろうよ。君の夢のステージ、今度は俺が隣で支える番だから」



◆トークイベント当日


会場は満席。

ステージには、白のブラウスに黒のロングスカートというシンプルな装いの飛香と、グレーのジャケット姿の大翔が並んで座っていた。


「僕が初めて飛香に出会ったのは、実は彼女の家だったんです。家庭教師として伺ったら、戦国武将の話ばっかりしてくる子で(笑)」


「だって、大翔くんが全然勉強の話してくれないから(笑)」


会場が笑いに包まれる。


2人の自然なやりとりは、そのまま“本物の愛と人生”を感じさせ、多くの観客の胸に残った。


イベントの終盤、飛香は静かに言った。


「人生の中で、夢も、恋も、家族も……全部を手に入れるのはわがままだと思っていました。

でも、もし誰かと本気で生きていきたいと思うなら――その全部を一緒に背負っていける人が必要なんです。

私は、大翔くんに出会えて、ようやくそれを知りました」


会場の拍手が鳴り止まなかった。



◆エピローグ


その夜、陽翔を寝かしつけた後、リビングで肩を並べて座る2人。


「ねえ飛香。今日、君……本当にかっこよかった」


「ふふ、私の方こそ、大翔くんを見て、あの日の憧れを思い出したよ」


「……これからも、いろんな交差点を一緒に歩こうね。夢と、愛と、家族と」


「うん、一緒に全部抱えて進んでいこう」


そして2人は、そっと指を絡め、また新たなページへと歩き出した。


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